学校の王子に告られたんだけど‥?!

『お昼休み体育館裏。わかってるよね?』

女子のリーダー格的な人に言われて、小さく「はい」しか、返せない自分が情けなくて泣けてくる。
一体俺はお昼休みに何をされるのか。
ずっと、そのことが頭を占めて自習中も、他の授業も何処か頭の中がぼーっとして何も入ってこなかった。

来たるお昼休み最後の授業に初めて俺は早弁というものをした。
だって、最後の晩餐になるかもしれない。
何の変哲もないコンビニで買ったカレーパンを口に収めたのと同時に授業は終わり、教師が出ていくと女子たちと共に、体育館裏へと重い足を動かした。

着けば、他の女子も居て殺伐とした雰囲気に息を呑む。
そして、カレーパンに想いを馳せた。

(今日のカレーパンうまかったなぁ)

所謂、現実逃避とも取れる行動だが今にも泣きそうなくらい帰りたい。
一人の女子が前に出てきて向き合う形になると、上から下までジッと見られる。

(え?これが所謂少女漫画とかで描かれてる品定めとかってやつ?)

仕舞いにはその女子はため息をついていて、話し始める。

「下川羽流くん、貴方は‥」

その次に来る言葉に、「あ、終わった」という自分と、「まだ、終わりたくない!」という自分がせめぎ合っていた。
いつも通り長い前髪のおかげで、顔は見えないが声色で何となく察する。
これから、悪口のオンパレードが始まるということを。

「‥王子と何処まで進んでいるの?」

「はい、すみません‥?は?」

予想だにしない言葉に思わず、聞き返してしまう。
すると、その途端殺伐とした空気がなんだか柔らかなものに変わっていき、何処からか弾むような楽しそうな声まで聞こえてくる。

オウジトドコマデススンデル?

「いやいや!何にも!何にもない!」

改めて、された質問に慌てて答えると長い前髪から覗く、女子生徒の驚いた顔をしているのが見える。

「貴方!あの、王子に告白までされといて、まだ何も?
ふざけるんじゃないわよ!」

「いや、ふざけてないし!‥というか、この告白ドッキリいつまで続くの?俺そろそろ解放されたいんだけど‥!」

それを言葉にすればその場は、静まり返りなにやら空気がまた変わる。

(あ、そっか!ドッキリって言ったら仕掛けた意味なくなっちゃうやつ?!いや、でも俺は早く解放されたい!)

「あ、貴方‥ドッキリって本気で?」

「は?じゃないと、俺に告る奴なんていないだろ?」

女子生徒は膝から崩れ落ち、周りからもヒソヒソと声が聞こえる中、後ろから今一番関わりたくない声が聞こえる。

「へぇ、僕からの告白がドッキリ、ね?」

ゆっくり後ろを振り向けばそこには、いつもと違う笑みを浮かべた王子が、そこに立っていた。
笑みも違えば纏っているいつものキラキラとしたオーラではなく、どこかドス黒いオーラを感じる。
王子は一歩ずつ着実に俺に近づき、肩を抱いて引き寄せる。

「君たち、僕の大切な人に何してたの?」

いつもと違う笑み。ドス黒いというか、笑っているのに笑っていないそれは女子生徒達を怯えさせ、早々に彼女達は去って行った。
残された二人で、未だに肩を抱き寄せられている。
俺はというと、暑くもないのに汗が止まらず顔を背けていた。

すると、肩から手が離され目の前に王子が立ったと思えば跪き手の甲に、「チュ」と音を立ててキスをされた。

(手の甲にキスをされた?)

「は?はぁぁぁ?!な、なにやってんだよ?!」

顔が熱い。
慌てて手を引き、距離を取って王子を見ると、声を出して笑っていた。

「案外、可愛い反応をしてくれるんだね、嬉しいな〜」

そう言って尚、王子は何が嬉しいのか声を出して笑っている。

「ドッキリとは言え、やりすぎだろ‥!だから、女子達に勘違いされるんだ‥!」

すると、王子は笑うのをやめてこちらに近づき腰を思いっきり寄せられ、真っ正面顔が近い。
整っているその、瞳、口元。精錬された白肌全てに目に入ってしまい、何処に視点を置いていいのかわからない。

「ドッキリじゃない」

「は?」

その瞬間長い髪の隙間からその瞳と目線が合い、その瞳に射抜かれる。

「ドッキリなわけ無いじゃないか‥、僕は君を思い続けてあの日あのステージで君に想いを伝えたんだ」

ただ、静かに真剣なその声色は揶揄っているような感じもない。
それは、充分わかった。わかったから良いのだが、なんせ顔が近い。
そう、まるで何かの映画のキスをするワンシーンのような。
王子の手が顔まで伸びてきて、思わず目を瞑りゆっくり開けば、長い前髪をかき分けられてまさにその顔が間近にあることを自覚して、何故だか心臓が高鳴る。

「ふふ、やっぱり君なんだね」

そう言って笑うと王子は、腰に回していた手と前髪をかき分けていた手を離してようやく解放される。

「僕は君のことを絶対諦めないから」

そう言うと王子は去って行った。
俺はただただ、その後ろ姿を見送ることしかできず、高鳴った胸の内に手を置いた。