学校の王子に告られたんだけど‥?!

「諦めたくない」

その気持ちを胸の内に持ってから、俺は悩みに悩んでいた。
まずは、コミュニケーションの取り方から、始めないといけないと大きな壁が俺の前に立ちはだかった。
今まで逃げてきた人間関係について、今さら向き合うことになるなんて、思いもよらず悩みに悩んでいた。

そのための一歩として俺は家の洗面所の鏡の前で鋏を手に前髪を掴んで悩むこと、数分。
そろそろ、学校に行かないと遅刻する。

「わかってる‥大丈夫だ‥いける‥!」

自分を鼓舞して、覚悟を決めて長い前髪に鋏を入れた。音を立てながら散っていく、長年の相棒とも呼んでも良いこの長い前髪を切り刻んだ。

晴れた視界にスッキリすると共に、変な違和感も感じて前髪をいじりながら、学校までの道をいつも通り歩く。
すれ違う生徒全員が、驚きの目で俺を見て、中には二度見をする生徒もいて、星奈と関わって以来の注目度を浴びていた。

教室について、中へ入れば賑やかだった教室が静まり返り、俺が歩くたびにその視線が集まって仕方ない。

いつの日か言われたこと。

『下川くんって、目つきがちょっと‥』

『下川くん、怖い』

大きくなっていって、目つきが鋭い俺は何故か睨んでいるとか、怖いだとか言われ続けた。
最初こそ気にしなかったものの、段々と周りから人が去っていき、一人になって気づいた。
この目つきがだめなんだと。
だから、前髪を伸ばすことにした。
目が隠れるくらい長く、視界を遮るくらい長く伸ばして伸ばして、俺は人から隠れるように生きてきた。

隅っこよろしくの人生

いつの日からか、それが俺の人生の座右の銘みたいになって、縛られて生きてきた。
だけど、今日から変わるんだ。
変わらなきゃ、きっと、星奈に手が届く日なんてこない。

気まずい空気の中自席に座って、慣れない視界に視線が何処を向いたら良いのか定まらない。

「え?下川どうしたん?」

「‥え」

「下川って、こんな顔してたんだ」

同じクラスの男子生徒が話しかけてくる。
顔をまじまじと見られるのは、あまり慣れてなくて思わず下を俯いてしまう。
情けない。しっかり、前も向けないなんて俺自身にがっかりする。

「意外と、イケメンの域じゃね?」

「確かに、王子が選ぶのわかるかも」

「下川くん、かっこいいね」

段々とクラスメイトが周りに集まってきて、恐る恐る顔を上げる。
誰も、俺のことを「怖い」とか言うやつは居なくて、皆興味津々と言ったところだろうか、視線が痛い。

「えっと‥その、ありがと‥」

小さく呟くように言葉にした。
すると、再び賑やかだった会話が静まり返ってしまった。
間違ったことを言ってしまっただろうか。
また、俺は一人きりになってしまうだろうか。

「なぁに、照れてんだよ隠れイケメン!」

一人の男子生徒がそう声を上げると、再び賑やかな雰囲気に戻って、驚きで固まっていると気づけば写真を撮られたり、肩を組まれたりと初めての経験に戸惑っていた。
そして、気づけば、授業が始まっていて全員が自席に着き授業に取り組んでいて、ようやく現実に戻って来れた。

(うまく‥できたのか‥?)

わからないが、クラスメイトとこんなに親しくできたのは初めてだ。
ほぼ、記憶がないわけだが、誰一人として俺を拒絶しなかった。
無事に第一歩を踏み出せたような、そんな気がした。

その日は、初めてお昼をクラスメイトの男子と食べて不器用ながらも、輪に入れた。
正直、お昼に食べたパンの味がしないほど緊張していて、話も聞くことに集中していた。

でも、星奈意外の人と話してお昼を食べた。
この経験だけで、少しの自信に繋がった。

「じゃあな〜、下川!」

「うん、じゃあな」

ぎこちない手の振りで、手を振りかえしてクラスメイトを見送る。
ようやく、一人になれたと思い息を吐いてようやく体から力が抜ける。
机に伏して、緊張が解けたせいでだらだらと人目を気にせず伸びていた。

「‥人ってすごい‥」

いや、本当にすごい。
これを考えると、学校の王子として讃えられている星奈は、もっとすごいんだろうなと尊敬する。
そんな、奴が俺なんかに話しかけていたらそれは、目立つに決まっているだろう。

(いや、わかりきっていることだけど‥)

わかりきっている上で、星奈に俺から話しかけないと何も始まらない。
だけど、まだ俺はそのレベルに達していない。
星奈に話しかける度胸をつけなければ。
とりあえず、クラスメイトと普通に話せるまで頑張ろうと意気込んで、体を起こして窓の外を見れば一人で歩く星奈の姿が見えた。

(昨日はクラスメイトと帰っていたのに‥)

何故、一人なのだろうかと疑問に思う。
だが、まだ声をかける勇気がない俺には、ただ視線でその姿を追うことしかできずにいた。
その姿が見えなくなるまで、窓の外を眺めていた。