学校の王子に告られたんだけど‥?!

保健室を後にして、いつも通り手を繋いで帰るなんてできるはずもなく、俺は戸惑っていた。
それを感じ取ってか、星奈は人が寄りつかない空き教室に案内された。
俺がその中の席の一つに座ると、隣の席に星奈は座った。

ただ、黙って星奈は隣で座って俺のことを見ている。

「いや、見過ぎ!」

「あはは、だって羽流くん全然僕のこと見てくれないんだもん」

その声色は、笑っているが怒っているような悲しんでいるような、そんな風に聞こえる。
そして、おもむろに星奈は立ち上がりそっと俺のことを抱きしめてくれる。

「な、何してんの‥?」

「昔にね、俺にこうして優しくしてくれた存在がいたんだ。こうしてるとさ、一つだった鼓動が二つになってさ繋がってる気がしない?」

更にぎゅっと抱きしめられ、感じる星奈の暖かさと鼓動。
それが、奥深くで一緒になってさっきまでのモヤモヤが薄れていく。
本当に、星奈はなんでこんなに優しいんだろうか。
こんなことをされたら、どんな奴でも勘違いしちゃうだろ。

「何かあったって、わかるよ。でも、それは羽流くんが話してくれるまで待ってるよ」

体を離して、頰に手を添えられて顔が近づいてくる。
反射的に目を閉じると、頰に「チュ」と音を立ててキスをされる。
すぐに、離れてしまう暖かさに手を伸ばしそうになるのを堪える。

「いつも、頬っぺただよな」

「ん〜?だって、本当に好きになってもらってからじゃないと此処は奪えないよ」

そう言って、綺麗な指が俺の唇に触れて、また直ぐに離れていく。
その感触が嫌に胸のドキドキを高鳴らせて止まらない。

(だめだ、止まれ‥!止まれ!)

何度も自分に言い聞かせるもそのドキドキは、止まりそうに無かった。

その日は、気を使ってくれたのか星奈は別々で帰ろうと提案して先に帰ってしまった。
残された教室に俺は一人、この想いの行き先に思い悩んでいた。

(どうすればいいんだよ‥!)

きっと、この前までならまだ後に戻れたことだろう。
だけど、俺自身の心が星奈と一緒にいることを望んでしまっている。
でも、それはきっと何か違くて。それに、まだ、俺はこの気持ちに感情に名前がつけられ無いでいる。

ただの友人としての一緒にいたい。
あるいは、あいつが星奈が望む関係である恋人である一緒にいたい。

俺にはわからなかった。
全部が全部初めてで、そんなに深く考えたことなんてなったから。

こんなところでウジウジ考えても仕方ない。
俺も帰るとしようと、荷物を持って教室を出ようとしたところで、廊下から聞こえる声に反応して足が止まる。

「にしてもさ〜、王子もあれ本気なんなかな?」

「いや、だって相手は、下川だぞ?地味すぎるだろ」

男子生徒の声がやけに耳に響く。
笑いながら話されるその内容は、星奈の隣には俺は居て良いわけがなくて、ただのお遊び半分じゃないかという仮定の話をしていた。
仮定の話。わかってる。

(でも、じゃあ何でこんなに‥)

苦しくなってくる胸元を抑えてズルズルとその場に座り込む。

「‥わかってる‥わかってる」

自分に言い聞かせて、言い聞かせてを繰り返した。
しばらくすれば、男子生徒たちは何処かに行ってしまい声は聞こえなくなった。

もう、星奈と一緒にいない方がいいのかもしれ無い。
だって、こんなに苦しい想いをするくらいなら俺はもう現実世界なんて見たくない。
その瞬間、星奈と繋がった鼓動も世界も途絶えた瞬間だった。

その夜はどうにも翼にもこんな俺の姿を見られたくなくて、バイト先に向かった。
夕飯も外で済ませると送ると、直ぐに「了解」のメッセージがきた。

「いっらしゃいませ‥って、あれ?羽流くん?」

「店長すみません、まだオーダーって大丈夫ですか?」

「はいはい、特別オーダーどうぞ」

そう言って店長は、俺がいつもオーダーするアイスティと簡単なサンドイッチを出してくれた。
サンドイッチにかぶりつき、ゆっくり咀嚼する。
閉店なため店長は閉店作業を進めていた。

この前はあれだけ、恋バナに拘束していた店長だがこうして俺が唐突に店を訪れる時は、俺が話すまで何にも話しかけてこ無い。
なんなら、何にも話さず店を後にする時だってある。

サンドイッチを食べ終えて、アイスティをちびちびと飲んで喉が潤ったおかげか、一人俺は声を出す。

「前に話した奴と一旦離れようと思うんです」

「なんで?」

店長は手を動かしながらも、冷静に聞き返してくれる。

「わからないんです。もう、俺には苦しすぎてわからない」

うまく言葉にでき無いにも程がある言葉で伝えると、気づけば店長は目の前に立っていて、髪を掻き乱される。

「いいんじゃない?でも、青春を謳歌することは諦めるなよ?」

店長のその言葉に俺は胸を張って、答えられず会計を済ませて、店を後にした。