ぱしりケメン

 

 白峰高校体育祭の最後は、創作ダンスだ。
 学年ごとのダンスがあって、最後に全学年の全生徒で踊る。
 この全校生徒で踊るダンスは、そんなに真面目に踊らなくてもいい、ふんふんふん~みたいな感じで許されるので、白峰高校伝統の、大告白大会なのです……!

 学年対抗リレーに出た人は、大すきな人をつかまえて、告る。
 ちょこっとでも体育祭で活躍できた人は、勇気を振りしぼって、告る。
 全く全然活躍できなかった人も、浮かれた雰囲気につられるように、告る。

 何にも行事のない平日の放課後に『ちょっと話があるんだけど、いいかな?』告白するより、成就する確率が238%高いという(白峰高校有志調べ)

「入学式のときから、かわいーと思ってた!」
「体育祭、かっこよすぎた!」
「言っちゃえ!」

 あっちでも、こっちでも告白してる。

「すきです!」
「つきあってください!」

 ばっかりだよ!
 きゃ──!

 熱い頬で、もじもじしていた俺は、後ろから腕をひかれた。

「まもちゃん」

「あ、玲、告白した? 今日したほうがいいって! 成就する確率238%増しなんだって! 学年対抗リレーアンカーだと800%くらいじゃねえ?
 がんばれ、玲!」

 拳をにぎってみた。
 玲が、ものすごく、しょっぱい顔になってる。

「……え、どうした? そんなことは万一にもなさそうだけど……だめだった……?」

 この質問も無神経だ──!

 あわあわする俺を、しばらく見つめた玲が吐息した。

「……やめとく」

「え?」

「皆の雰囲気に流されて、勢いで、とか、したくない。たいせつにしたいから」

「……そっか」

 玲には、すきな人がいるんだ。
 この熱気に流されてしまいたくないほど、たいせつな人が。

『玲がすき』自覚した胸が、音をたてるようにきしむ。

「いっしょに踊ってよ、まもちゃん」

 玲が手を出してくれる。
 あたりまえみたいに握ってしまってから、目をあげた。

「玲、すきな人と踊ったほうがいいんじゃ……」

「まもちゃんと踊りたい。……だめ?」

 顎をひいて、上目遣いになる玲は、とびきり愛らしかったちっちゃな頃とおなじに、めちゃくちゃかわいい。

 トクン

 鳴る胸で、笑う。

「うれしい」
「……っ!」

 はしばみの目を見開いた玲が、息をのむ。

「あぁあ、もう……! 言いたくなるんだけど──!」

「なにを?」

 きょとんと首をかしげた俺は、胸を叩いた。

「俺は玲の親分だからな!
 どんなことも、受けとめてやるぞ!」

 もう玲よりちいさくなってしまった背で、それでも胸を張って、笑った。

「……うん」

 ふうわり朱に染まりゆくまなじりで、玲が微笑む。
 夕陽に透ける髪が茜に輝いて、長い指が俺の手をひいてくれる。

「おどって、まもる」

 呼び捨てにされた。
 くすぐったくて、うれしくて、笑う。

「なまいきだぞ、玲」

「今だけ。ね?」

 腕を、ひかれる。
 指が、からまる。

 はしばみの瞳が、近づいた。

 玲の香りがする。
 広やかな胸に抱きよせられて、ぬくもりが、かさなる。

『……ぁ……』声がこぼれる間さえなく、すぐに離れた。

『そんな振りつけ、あったっけ?』
 冗談で笑おうとした唇は、かすかに開いて、引き結ばれた。


 ただ、玲の指を、にぎる。
 からめられる指は、恋人つなぎみたいだ。


 トクン

 耳元で、鼓動が跳ねる。

 降りてくる夕焼けが、火照る頬を隠してくれるから。
 玲を、見あげる。


 ……あぁ、きみはもう、かわいくてたまらない、守ってあげなくちゃいけない、俺のたいせつな子分じゃなくて。


 俺の、すきな人だ。