ぱしりケメン



 よし、推しならいいだろう!
 というわけで、玲のもとにダッシュだ!

 めちゃくちゃ玲は目立つし、顔をあげると目があうんだよ。探す時間もいらない。

「玲! いっしょに走って!」

 手をのばしたら、ひらりと観覧席とグラウンドを分けるロープを飛び越えて、迷いなく長い指でにぎってくれた。

「まもちゃん、何を引いたの?」

『すきな人』
 絶対に、言えない。

『推し!』
 はずかしい!

「世界でいちばんイケメンだと思う人」

 つるっと口から出た。本音が。
 切れ長の、はしばみの瞳がまるくなる。

「……え……そんなお題を出すほうもあれだけど……まもちゃん、俺のこと、そう思ってくれるの……?」
「みんな思ってるぞ!」

「まもちゃんの気もちが大事なの!」

 ぎゅ
 つながった手をにぎられる。

「思ってる」

 熱い耳で、ささやいた。


 トクン

 鼓動が、跳ねる。

 トクン

 きみを見あげる瞳が、うるんでく。


「……めちゃくちゃ、かっこいーよ、玲」

 もごもごしたつぶやきは、舌で溶けた。
 聞こえなかったと思うのに

「うれしい」

 玲が手をひいてくれる。

「顔でも何でも、まもちゃんが俺を気に入ってくれるところ、ひとつでもあったら、すごく、すごくうれしい」

 はちみつみたいな、きらきらの瞳をほそめて、笑ってくれる。

「わ──! 香月くん、借り物競争に出てる!」

 歓声が聞こえる。

「たまには、やるじゃん、泉!」
「香月くん、かっこいー!」
「きゃ──♡」

 いつもよりずっとテンションの高い、黄色い歓声がこだまする。
 玲と手をつないで、グラウンドを走った。

 つながる指に、見あげる髪に、微笑んでくれるくちびるに、鼓動が跳ねる。


 トクン

 指が、熱い。

 トクン

 頬が、燃える。

 トクン

 目が、うるむ。


「まもちゃん?」


 トクン

 ……どうしよう

 きみが、すき





 

 玲を連れていったら、審判の一年生は、しょっぱい顔になった。

「なるほど?」
「いいって言ってくれたよな!」

 念を押してみた。

「いやでも、もしかしなくても、香月くんを、ぱしりにしてる先輩って、あなたなんじゃ?」

 疑わしそうに、にらまれた。

「してないから!」

 泣いちゃうのは、俺だから!

「俺が、すきでしてることだから」

 はにかむように笑って、俺の手をにぎって、ななめ後ろで立つ玲に、審査員の目が、うろんになる。

「え、洗脳してる?」
「してないから──!」

 泣いちゃう──!

「せんせー、この人やばいんですけど!」

 通報されちゃった!
 やってきた体育教師ゴンちゃんの顔が『また泉か──!』になってる。

「まあ、うん、いじめてないんだよな?」
「違います! ほんとに、ほんとに、ちがう!」

 こんなに可愛がりたいと思ってるのに!
 泣いちゃいそうな俺の頭を、玲のおっきな手が、なでなでしてくれる。

「まもちゃん、かわいー♡」

 ♡が飛んでいるように見えるけど、気のせいだよな……?

「香月くんの洗脳を解いてあげないと……!」

 かわいい一年生が、燃えてる。

「えーと、それで、俺はゴールでいいのかな?」
「香月くんを、ぱしりにするなんて、失格に決まってるだろおぉおお!」

 審判に叫ばれました。

「だから違うってば! ちゃんと連れてきたのに……!」
「何を引いたんだ?」

 ゴンちゃんが、俺の手の中の紙をのぞきこむ。

『ぎゃあぁあア──!』
 悲鳴をあげられない俺は、ぽそぽそつぶやいた。

「……そこの審査員が『推し』でもいいって言うから……!」
「なるほど?」

 ガチムチ教師が、によによしてる!

「……え? お題って……」

 何か聞こえたのかもしれない玲が『推し』とか『すきな人』と気づかないように

「世界でいちばんイケメンだと思う人!」

 燃える頬で、叫んだ。
 顔を見あわせた審査員と教師が笑う。

「ああ、それならいいでしょう。ゴールで」

 納得してくれた!

「やた! 玲のおかげで一位だよ! ありがとうー!」

 抱きついたら、かるがる抱きとめてくれた。
 ちいさな頃から大すきな、玲の香りに、くるまれる。

「まもちゃんの役にたてたら、うれしい」

 もう、ちっちゃな愛らしい子犬ではなくなってしまった玲が、笑ってくれる。


 トクン

 鼓動が跳ねて

『玲がすき』

 自覚した想いに、耳が燃えた。