ぱしりケメン



「あぁあ、いやだぁあ! 俺、めちゃくちゃ、くじ運わるいんだよ……!」
「近隣のらーめん屋の地図は頭に入れたか!?」
「とりあえずペンとかぬいぐるみとか、いろいろ持たせたクラスメイトを配置した!」
「はい、二年一組、失格ぅう! 減点100点!」
「ぎゃあぁアア──!」

 競技がはじまる前から、借り物競争に出場する皆が、泣いてる。

「まあ、がんばれ」

 俺を逃がさないらしい樹一が肩を叩いてくれた。
 走るのは苦手だが、どんなお題がでるのか、ちょっとわくわくする。でも川の水はやめてください、おねがいします。祈りながらスタートラインに立った。

「位置について、よーい!」

 こぶしを握る。
 鼓動が跳ねる。

 パァン──!

 ピストルの音とともに駆けだした。つもりだが、ちょっと遅い……! え、がんばって全力で速く走ってるつもりなんですけど……! えぇえ……!

 ……うん、まあ、一生懸命がんばったらいいんだよ。じゃんけんに負け続けた俺を、借り物競争に押しこんだのはクラスメイトだから! リレーじゃなくて、ほんとによかったね!

 涙目で走った。

 途中に机が置かれてあって、お題を書いて裏返しにした白い紙が並べられている。最初に到着した人は選べる。最後の人は選べない。

 せめて二択でお願いします──!

 必死で走った。

 選べませんでした……!


「くぅ……!」

 もう泣きそうな俺は、置かれた白い紙、たった一枚残った紙をひっくり返した。跳ねる鼓動で、文字を追う。

 コンビニ? らーめん? 川の水は、やだ──!
 そうっと見た文字は……


『すきな人』

 瞬間、浮かんだ、はしばみの瞳に


 トクン

 鼓動が、揺れる。


 トクン

 耳が、熱い。


 トクン

 顔をあげたら、はしばみの瞳と目があった。


 トクン

 鼓動が、跳ねる。


 トクン

 耳が、熱い。


 トクン

 ……どうしよう

 俺、玲が、すきだ。
 





 借り物競争では、審判の生徒にお題と持ってきたものを確認される。
『すきな人』で玲を連れてゆくと、審判には『俺が玲をすき』ばれるし、玲にもばれるし、公開告白みたいなことになる。
 全校生徒ならびに、ご来賓の方々にまで、ばれる──!

 十三年を経た今、ようやく玲がすきだと自覚したのに、次の瞬間に公開告白とか、ないから──!
 泣いちゃうから──!

 ……じゃあ、どうする?

 玲をつれてゆく → 絶対だめ
 樹一をつれてゆく → 樹一がすきとか全然ないし、樹一にも迷惑だ!
 教師をつれてゆく → 誤解させる? 『あ、この子、俺のことすきなんだ』ってゴンちゃんに思われちゃう!

「……え、これ、どうしたらいいの……?」

 硬直して動けない俺の手元を「どうかしましたかー」やってきた審判がのぞきこんだ。白のはちまきをしているから、玲とおなじ一年生だ。小柄な、可愛らしい男の子だった。

「なるほど?」
「これ、ひどくない?」
「それが白峰高校の借り物競争なので」

 にっこり微笑まれた。

「これは他の学校でもよくある、可愛らしいお題だと思いますが」
「いやいやいや、泣いちゃうから──!」

 公開告白ができるなんて、勇者だから!

「では特別に、お題を公開しないようにして、適当なことを言って連れてきてもいいですよ」
「紙をもう一回引かせて!」

「『白峰川の水』を引いた人に謝ってください」
「川の水のほうがよかった──!」

 公開告白なんて、無理だ……!
 泣いてしまいそうな俺に、審判はため息をついた。

「仕方ないなあ。それでも先輩なの?」
「いやだって、これひどいだろ!」
「すきな人がいない人は、推しとか持ってくるけど。推しは?」

『玲』

 即答しそうな唇を、あわあわ押さえた。

 つるっと口から出そうになった!
 こんなこと知られたら、玲にも顔向けできな──いや、待て。推し……推しか……推しなら、はずかしくないかも!

「推しを連れてきても、いいのか?」
「特別に許可してあげよう。すきな人がいない人は、仕方ないからね」

 ぽんぽん肩を叩いて慰めてくれた。やさしい!