ぱしりケメン



「いやだから、そういうのろけを、毎日毎日毎日毎日、なぜ俺に聞かせる──!」

 俺の後ろの席の樹一が、激おこだ。

「聞いてくれるのが、きーちだけだから」
「聞きたくねえよ!」

 しかられた。

「あんなイケメン見てないで、ちょっとは現実を見たら? ほら、目の前の俺とか」

 自分を指す樹一に、首をかしげる。

「なんで?」
「はーい! そこ、ホームルームにいちゃつかないでくださーい!」

 しかられた!
 いちゃついてないのに!

「体育祭の出場者を決めますー! 全員参加なので、絶対にひとつの種目には出てくださいー!」
「玉入れとか、希望が多い場合は、じゃんけんですー!」

 声を張りあげるクラスメイト二人を「おつかれ」ねぎらいつつ、俺は後ろの席をふたたび振り向いた。

「きーち、何に出る?」
「玉入れ」
「競争率、たっか!」
「俺のじゃんけん魂をなめるなよ」
 つよつよらしい。

「まず、第一希望ですー! 玉入れに出たい人ー!」

 ざっと手があがる。
 いちばん楽で(いや玉がまあまあ当たって痛かったり、かごを持つのが重かったりするけど!)いちばん目立たなくて、いちばん競争率が高い!
 俺も手を挙げてしまった。

「はい、じゃーんけーん、ぽーん!」

 ………………。

 一回戦で、敗退した──!

「ふふふん」
 樹一が勝ち残ってた。すごい。

 綱引きとか、皆にまぎれられる競技は、第一希望で満員御礼だ。わかってた。残るのは──大玉転がしとか、パン食い競走とか楽しそう!

「じゃーん、けーん、ぽーん!」

 待ってくれ、俺、じゃんけん弱いよ──!

 残ってるのがリレーだけになった!
 ぎゃ──!

「あー、じゃあ、泉くん、リレーでと思ったけど、タイムがタイムなので、借り物競争で」

 ひどいこと言われた!

「よかったじゃん! 人気競技で!」
「……いや、なんで最後まで残ってたか知ってる?」

「まあまあひどいお題が、ねじこまれるから!」

 そう、白峰高校の名物競技、借り物競争。

『らーめん屋さんのおじちゃん』とかふつうに入ってる。『白峰高校でいちばん怖い教頭』とかふつうだ。ちなみに時間制限は、ない。拝み倒して連れてくるしかないという競技だ。

 近隣の店舗に『お題』として使っていいか、ご協力いただけるか事前に伺っているので、『いいよ』と言ってくれる店がどこかにある、探して連れてくるまで帰ってくるな競技──!
 泣いちゃう!
 

 白峰高校の体育祭は、五月の第二日曜に行われる。
 借り物競争に出場することになってしまった俺は、楽しみなのか、ちょっとびみょうだ。

 地元をすこしでも元気づけたいという白峰高校の方針で、体育祭や文化祭は地域の町おこしも兼ねている。今時めずらしい近隣の人が参加できるパン食い競走や借り物競争もあり、白峰高校の体育祭はちょっとしたお祭りだ。

 近くでは物産展みたいな露店も並ぶし、先生たちが焼きそばを作ってもてなし……いや、売りつけたりしている。借り物競争でお題になった人は、焼きそばがもらえるという特典付きだ。大きな鉄板でじゅわじゅわ焼く白峰焼きそばはおいしいと評判で、これを目当てに体育祭をのぞきにきてくれる人までいるという。

 生徒と家族と地域の人たちがいっぱいな元気なお祭りでも、玲は輝くように人目をひきつけ、俺は見事に埋没するだろう。いや、もし玲が隣に来てくれたら、埋没する俺の隣に、輝く玲が立っているという謎の構図が展開されるに違いない。

「ちょっと、また香月くんが、泉のために『あまあましゅが』買いに行かされてたんだけど」

 体育祭の出場競技が決まった放課後、クラスメイトに指された俺は切なくなった。

「またかばんを持たせようとしてるんじゃない!?」
「かわいそうすぎる!」
「せんせー! また泉が、香月くんをいじめていますー!」
「いじめは犯罪です!」

 皆に叫ばれた俺は、泣きそうだ!

「いじめてないから!」

 俺の叫びを、誰も聞いてくれない。

「俺が勝手にしてることだから」

 二年三組の教室にやってきた玲が、はにかんで、きゅ、と俺の手をにぎる。

「香月くんが強迫されてる!」
「かわいそうに!」
「泉、本気でちょっと締める?」

 締められちゃう!
 ぎゃ──!

 泣きそうになる俺の頭を、皆に呼ばれてやってきた体育教師のゴンちゃんが、ぽんぽんしてくれた。

「泉は今日も、よい子だな」
「はい……!」

 涙目だよ。
 上目遣いだよ!

「よしよし。今日は体育祭の競技を決める日だったか。泉は何に出るんだ?」
「借り物競争です」
「ああ」

 先生の目が、じゃんけんに負け続けた、かわいそうな子を見る目になってる!

 借り物競争には地域の皆さんの部と生徒の部があり、難易度が天地ほどちがう。地域の皆さんのは、やさしい『めがねの人』とかいう可愛いお題が、生徒の部には『……鬼なの?』というお題が仕込まれる。
 頼むから『白峰川の水』じゃありませんように……! 遠すぎるから!

 俺の頭をなでてくれた教師の手を光の速さで払った玲は、心配そうに俺の顔をのぞきこむ。

「まもちゃん、変なのを引いたら俺に教えてね。協力するから」
「いや、協力してもらうと、だめだって」

 ぷっくりふくれる玲が、幼いころの子犬な玲みたいで、とってもかわいい。抱っこしたい。

 ……こんなに可愛がっているのに、いじめっ子だと思われるんだよ。謎じゃない? ……いや、玲と俺が不釣りあい過ぎるからだな。理解したくない。

「玲は何に出るんだ?」
「学年対抗リレーのアンカー」
「一年生代表のアンカーか! すごいな!」

 白峰高校の学年対抗リレーは、学年の威信をかけて、タイム順で選ばれる。
 つまり玲は、一年生で最速のタイムを叩き出したということだ。

「え~、出たくないんだけど~」とか聞いてもらえない。出場必須だ。
 しかし学年でトップクラスに足が速いと皆に周知される競技でもあるので、選ばれた皆の鼻は、とっても高くなるらしい。

「僕、学年対抗リレーに選ばれたんだけど、つきあわない?」すきな人に打ち明けると、かなりな確率で成就するらしく『学年対抗リレーに選ばれたら、とりあえず告れ!』ささやかれている。
 陸上部でもないのに、一番速くてアンカーに選ばれてしまうなんて、さすが玲だ。


「もう誰かに告白した?」


 聞いたら、玲の周りの空気が、絶対零度になった。