ぱしりケメン



 重すぎる愛をかかえて、玲の腕から抜けだそうとした俺は、ぬくもりにつつまれる。

 玲の腕に、くるまれる。


「俺が、まもるを愛してること、気づかないのは、まもちゃんだけだよ」

 ちゅ

 ささやきが、おでこにふれる。

「はじめて逢ったときから、まもちゃんが俺を救ってくれたときからずっと俺は──」

「すりこみだよ!」

 叫んでいた。

「生まれた、ひなが、はじめて見た動くものを親だと思うみたいに、玲を最初にたすけた俺を──」

「最初じゃないよ」

 玲は首をふった。
 ちいさく笑う。

「俺ねえ、ちっちゃい頃は、可愛かったんだよ」

「今も、かわいいよ」

 ぶぜんとする俺に、はしばみの瞳をまるくした玲が、くすぐったそうに笑う。

「ありがと、まもちゃん。その可愛かった俺はね、いじめっこな最低な輩にからまれることも多かったんだけど、助けてもらえることも多かったんだ」

「……なるほど……?」

「ほら、身体のおっきい女の子たちが『れいくんを、いじめないで!』って壁になってくれたりしてね。僕、ほんとによく守られてたんだよ。ありがたいことに」

「なるほど」

 確かに、玲の周りには女の子たちが、きゃわきゃわしていた。

『れいくん、かわいー』
『かわいー!』
『かわいー♡』

 常に、なでなでされてた!

「だから俺を助けてくれたのは、まもちゃんが最初じゃないの」

「……そっか」

 しょんぼりした。

『玲を最初にたすけた』それは俺の誇りだったのに、最初じゃなかったんだ。


「おじいちゃんと、よく時代劇を見ててね、まもちゃんもそうなのかなって思うんだけど、それで親分は子分を守ってくれるでしょう。俺、どきどきして、すごくうれしかったんだ」

 くすぐったそうに、なつかしむように、玲が微笑む。

「まもちゃんが、一番、かっこよかった。まもちゃんが拳を振りあげてくれたら、いじめっこたちが泣いて逃げていって。俺のこと、子分にして、守るって言ってくれた。
 ちっちゃな俺が、お話の中に入ったみたいだった。主人公みたいって」

「……やっぱり、すりこみじゃないか」

 首をふる玲の洗い髪が、しずかに揺れる。

「ちっちゃい頃にすきだったものって、そんなにすきじゃなくなるよね。子どものころのヒーローって、なつかしいけど、今の自分の多くを占めたりしない。過去のものに変わってく。
 でもまもちゃんは、小学校の頃も、中学の頃も、ずっと俺のあこがれだった。
『生意気』とか『顔がいいと思って』とか訳わからない理由で、からまれる俺を、ずっと守ってくれた」

「親分だから」

 中学二年生で背が止まってしまうまでは、俺はまあまあ大柄で、喧嘩が強かった。
 だって、親分だから。
 玲を守るのが、俺の使命だから。
 名前も『まもる』だからな!

「そんなの、まもちゃんだけだよ」

 瞬いた俺に、玲が笑う。

「俺のこと、最初に守ってくれた女の子も、次に守ってくれた男の子も、俺のこと可愛いって言ってくれた人たちも、皆、離れていったよ。このみが変わったり、飽きたりするよね。気もちはよくわかる」

 玲の長い指が、俺の手をつつむ。

「大きくなっても、ずっと俺を見てくれたのは、ずっと俺を守ってくれたのは、ずっと俺にやさしくしてくれたのは、まもちゃんだけだよ」

 かさなるぬくもりが、とけてゆく。


「すきにならないなんて、できない」

 まっすぐな、はしばみの瞳が、涙の向こうで、にじんでゆく。


「すりこみじゃない」

 からまる指が、つよく、つよく握られる。


「まもるを、あいしてる」

 あふれる涙で、玲が見えない。




「……れい……」

 かすれた声が、すがるように玲を呼んだ。

 もうちいさな愛らしい子犬じゃない、たくましくなった、あたたかな腕が、俺をくるむように抱いてくれる。


「でも、俺、ふつーだよ。頭もあんまりよくないし、顔もびみょうだし、ちっとも玲に、ふさわしくない、つりあわないって──」

 ぎゅう

 抱きしめられる。

「ふさわしいとか、つりあうとか、他の誰かが言うことなんて、ひとつも気にすることない。
 まもるは、めちゃくちゃかっこよくて、めちゃくちゃかわいい」

 ささやきが、沁みてくる。


「まもるじゃなきゃ、いやだ」

 抱きしめてくれる腕に、力がこもる。


「まもるを、あいしてる」

 ささやいてくれる玲の指が、ふるえてる。



「……だめって、言わなきゃなのに……玲には、もっと……ふさわしい人がいるのに……」

 嗚咽に、ふるえる声を、抱いてくれる。


「玲を、あいしてる」


 見あげたら、世界中のしあわせを集めたみたいに笑ってくれた。



「まもちゃん、だいすき」


 輝くようなかんばせが、そっと、そっと近づいて、そっと、そっと、目を閉じる。




 最愛の玲と、はじめてのキスをしました。