ぱしりケメン




 修学旅行の三泊目と四泊目はおなじ温泉旅館だ。玲も同じ部屋を二泊とっていたらしい。

「まもちゃん! 今日もいっしょに寝ようね」

 夕食を終えた俺を誘ってくれた。

 ……ああ、もうこんなに可愛い玲が見られないんだ。
 玲をなでなでしたり、だっこしたり、できないんだ。
 玲と手をつないだり、いっしょのお布団で眠ったり、お風呂に入ったり、もう二度とできないなんて──!

 考えるだけで、号泣しそうだ。

「まもちゃん? どうしたの? どこか痛い?」

 心配そうに顔をのぞきこんでくれる玲と、疎遠になってしまうなんて……!
 涙が滝になるんですけど──!

「玲……!」

 泣いちゃいそうだから、玲の肩に顔をうずめる。

「まもちゃん? 俺と一緒の部屋、やだ?」

 ぶんぶん首をふる。

「俺がくっついてくるの、うっとうしい?」

「そんなわけない──!」

 叫んで、玲を抱きしめる。


 もう、最後だ。

 思うと泣いてしまうけど。
 鼻水まで、あふれそうだけど。
 それでも、言うんだ。

 玲を、平凡な俺から、解放してあげなくちゃ。

 決意の拳をにぎる。


「まもちゃん、今日も一緒にお風呂入ろうね。髪、洗ってあげる」

 にこにこ玲が笑って、手を繋いでくれたら、かたく、かたく握りしめたはずのこぶしは、ゆるゆるほどけた。

「……玲の髪、洗ってあげる」

 ぽそぽそつぶやく俺、なにをやってる──!

 理性は絶叫したけれど、感情は、ふんぞり返る。

『玲と一緒にお風呂と、ひとつお布団で眠るのを堪能してから、告白しよう』

 そうしよう。





 

 玲、かわいい。
 玲、きれい。
 玲、かっこいー。

 頭のなかが、玲でいっぱいで。

「まもちゃん、今日はのぼせないように、ちょっとくらっとしたら、すぐ言ってね」

 お風呂で手をひいてくれる玲に、こっくりうなずくことしかできない。

 玲の髪を洗うことも、玲といっしょにお風呂に入ることも、玲が笑ってくれることも、夢なんじゃないかと思う。
 ……だって、俺は全然、玲につりあわないのに。

 ──ぽつり

 落ちた涙が、玲の肩の白い泡を溶かした。


「まもちゃん?」

 止まった指に、ふしぎそうに振りかえった玲が、目をみはる。

「まもちゃん……! どうして……!」


 涙が、あふれて、玲が、見えない。

 想いが、あふれて、くちびるから、こぼれた。



「……れいが、すき」


「…………え…………?」

 はしばみの瞳が、まるくなる。



「だいすき」


 あふれる想いが涙にとけて、落ちてゆく。