玲と一緒の時間は、まばゆい輝きをはなつように一瞬で消えゆき、ひとりの時間は水けむりに霞む世界のように、ぼんやり、よぎる。
「大魔王、元気ない?」
夕食で顔をのぞきこんでくれる小野に、ちょっと笑う。
「へいき」
「雨、すごかったよな。濡れただろ。風邪ひくよな」
三森の言葉に、うなずいた。
すぐにお風呂とか無理だったので、皆で髪と身体を持参しているタオルで拭いたけれと、しめった制服は容赦なく体温を奪う。
「くしゃん!」
くしゃみまで可愛い小野に、皆で笑った。
樹一とは、目があわない。
わるいことをしたと思ってくれているなら、反省してくれているなら、ちょっとうれしい。
また仲よくしたいと思ってくれるなら、ともだちとしてなら、やぶさかではない。……恋人としては……
ぷつりと思考が止まる。
俺はきっと、玲とは、つりあわない。
顔も、頭も、身体も、なにもかも。
だから、そこそこかっこよくて、俺のことをすきと言ってくれる樹一を恋人に選んだら、しあわせになれる?
自分は、樹一を、ともだちだとしか思っていないのに?
……それって、しあわせっていうのかな。
少しずつ、すきになる、ということは、あると思う。つきあって、お互いをよく知って、すこしずつ気もちを育んで、だいすきになってゆくのはきっと、すてきなことだ。
でも、俺には、玲がいる。
はじめて逢ったときから最愛の、玲が。
誰か他の人を、すきになるとは思えなかった。
誰か他の人に、玲にしたように、なでたり、抱きしめたり、キスしたいと願ったり──考えるだけで、無理だ。
玲に、俺は、ふつりあいでも。
ちっとも似合わなくて、ただ玲の足を引っ張るだけなのかもしれなくても。
それでも、たったひとつ、世界中の人に勝てることがあるなら、玲を想う気もちだ。
十三年間、ずっと玲を見てきた。
ご両親にだって負けないくらい、俺は怜を愛してる。
……打ち明けたら、俺は玲を失ってしまうかもしれない。
もう二度と、玲が笑ってくれなくなるかもしれない。
──でもきっと、そのほうがいい。
だって、このままだと、すりこみみたいに、玲は俺に合わせてしまう。
きっと大学もランクを落として、就職だって俺のことを気にするかもしれない。
玲を、あいしているなら。
玲に、さよならを。
告白したら、玲はきっと、俺が気もちわるくなって、俺を捨てるだろう。
そうしてはじめて、玲は親分から離れて、ひとりで歩けるようになる。
高く、高く、どこまでも羽ばたいてゆける。
──俺には決して届くことのない、遥か高みへ。
俺の心は、壊れても。
玲が笑ってくれるほうがいい。
玲のためなら、粉々に砕けたって、かまわないんだ。
だから
こわいけど
ふるえるけど
「玲」
きみに、愛を告げよう。
