ぱしりケメン



 函館市内の五稜郭公園を、皆からちょっと離れて、ぽれぽれ歩いていたら、手を繋がれた。

「まもちゃん」

 玲の笑顔が、降ってくる。

「来ちゃった。ないしょね」

 とろけるように笑ってくれる。


 どうして、来てほしいときに、来てくれるんだろう。
 傍にいてほしいときに、傍にいてくれるんだろう。

 玲が、すきすぎて、泣いてしまいそうになる。


「……ほんとに玲は、俺と一緒で、いいの?」

 押しだした声は、かすかにふるえた。

「ほんとに、まもちゃんと一緒が、いいの!」

 繋いだ指をひいてくれる玲の耳の先が、ふうわり紅い。

「……玲といっしょに修学旅行、うれしい」

「俺も! あきらめてたけど。あきらめなくていいんだよね」

 つながる指が、恋人つなぎだ。

 つまらなく見えた公園が、玲と歩くだけで樹々の緑まで輝きはじめる。
 空が高く青く澄んで……いや、くもり空だけど。今にも降りそうだけど! どんよりな空まで、かけがえのない空に見えてくる。

「いやいやいや、まさか来るか!」

 玲を見つけた体育教師ゴンちゃんが、のけぞった。

「せんせー、俺は個人的に北海道に旅行に来て、まもちゃんを見つけただけなので」

 先手を打つ玲に、ゴンちゃんが引きつってる。

「学校は」

「風邪でお休みです」

「なぜ北海道にいる?」

「くるしい肺には、北海道の澄んだ空気がいいんです。医者がそう言ってました。なので、あわてて来ました!」

 ゴンちゃんが、笑うのをこらえるみたいに、ぷるぷるしてる。

「せんせー、だめ?」

 上目づかいで聞いてしまいました……!

 玲がしたら、めちゃくちゃ、かっこかわいーと思うけど、俺がしても攻撃力0どころか、マイナスだよな。知ってる!

 なぜか玲が真っ赤になってるけど。かわいいけど。
 つられたのか、ちょっと赤くなったゴンちゃんは、長々と吐息した。

「……俺は何も見なかった、ということにするためにも、そのきらきらな顔を隠せ!」

 しかられました。

「あ、俺、帽子持ってる!」

 修学旅行だし、ちょっとかっこつけようかなと思って持ってきた帽子を玲にかぶせる。

「おお、似合う!」

 玲は何でも似合うけど、俺がかぶるより、ずっとかっこいい。

「目立たず、おとなしくしているように!」

 玲のことをゴンちゃんは見逃してくれるらしい。

「ありがとう、ゴンちゃん!」

 玲といっしょに感謝した。

「若いっていいなあ!」

 自分も若いゴンちゃんが、うむうむしてる。







 玲とデート……!

 ちがった、玲と修学旅行で、お散歩できるなんて至福だ……!

 さいわいを噛みしめていたら、泣きだしそうだった空から雨のしずくが降ってくる。

「うわ、さいあく!」
「傘持ってない!」
「ぎゃ──!」

 わあわあ、さわぐクラスメイトたちを横目に、しゃっと俺は折りたたみ傘を広げた。


「玲、おいで」

「さすが親分」

 笑った玲が、傘を持ってくれる。

「お持ちしやすぜ、親分」

 玲が言うと、時代劇な台詞までかっこいい。

「うむ! くるしゅうない!」

 ふんぞり返って、ふたりで吹きだして笑った。


 玲といっしょにいる。

 それだけで、降りしきる雨も、冷えてゆく大気も、なにもかもが楽しくて。水けむりに霞んでゆく公園で、玲だけが輝いた。

「濡れないように、くっつこうね」

 玲が抱きよせてくれる。

 折り畳み傘では、長身の玲と小柄な俺、ふたりを入れたらどうしたって濡れてしまうけれど。雨を含んで重たく冷たくなってゆく制服まで、愛しくなる。

「あー、雨が強くなってきたから、皆、バスに帰るぞー!」

 ゴンちゃんが声を張りあげて、俺の肩は落ちた。
 玲とのしあわせな時間は、いつだって一瞬で終わってしまう。

「玲に、傘あげる」

「だめだよ、まもちゃん。コンビニで買うから!」

「濡れちゃうだろ。玲が濡れるなんて、絶対だめ。親分の言うことを聞きなさい」

 笑って、玲の手に傘の柄を押しつけた。


「いっしょに歩けて、いっしょに傘をさせて、めちゃくちゃ楽しかった。
 ありがとう、玲」

 笑って、雨のなかに駆けだした。

 落ちてくるしずくも、大地から跳ね返るしぶきも、なにもかもが目の前に玲がいる、ただそれだけで、よろこびに変わる。

『玲、だいすき!』

 叫べないから。
 大きく、手をふった。

 落ちてくる雨のしずくに打たれることさえ、楽しい。


 ──俺は、きみに、恋をしてる。