大すきな玲と一緒だなんて、どきどきしすぎて眠れるわけない──!
思っていたのに、どきどきし過ぎて、俺の心臓も脳みそも疲れ果てたらしい。
ぐうぐう寝てた……!
夜中に起きて、見覚えのない天井と、隣のあったかい玲に、跳ね起きる。
ビクってした。
「うわ、俺、寝てた!」ってなった。
自分で自分にびっくりだよ!
しかも、めちゃくちゃ気もちよく寝てた。
玲があったかいし、めちゃくちゃいー匂いするし、シャンプーの香りが、おそろいなんだよ。だいすきな玲と……!
きゃ──!
しかも、抱きついても『寝ぼけてたから』言い訳できてしまう、この至福……!
半分寝ぼけた目が、隣の玲を映しだす。月明かりに照らされた玲のやすらかな寝顔が、あまりにも尊すぎて、ちゅうしそうになった。
「……っ……!」
あわてて止まった。
かすかに残っていた理性、えらい。
でも、玲とひとつお布団で眠るなんてことは、きっともう二度とないだろう。
……指になら、ちゅうしても、ゆるされる、かな……?
「……玲、寝て、る……?」
そうっと聞いてみた。
玲は起きない。
おだやかな寝息が、うすくひらいた桜の唇からこぼれてく。
くちづけたくなる気持ちを懸命に押しこめて、でも抑えきれなくて。
そっと、そっと、息を殺して、くちびるを近づける。
ちゅ
桜の爪に、くちづけた。
「……れい、だいすき」
起きている玲には、言えないから。
ささやいて、玲の手をにぎった。
ほんのかすかに、玲がにぎりかえしてくれた気がしたけれど。
眠る玲の耳が、ほんのり紅くなった気がしたけれど。
まちがいなく気のせいだ。
「まもちゃん、朝ご飯の時間みたいだよ。起きる?」
あまく、やさしい声が降る。
低く穏やかな声が俺の耳をくすぐった。
髪をなでてくれる指を、つかまえる。
「……もうちょっと」
「じゃあ俺と朝ご飯食べる?」
「……うん」
寝ぼけてた。
だって、玲が寝起きにいて、起こしてくれて、頭をなでなでしてくれるなんて、夢だとしか思えない。
夢だったら、玲に抱きつこうが、あまえようが、なにもかも、ゆるされる。
だって夢のなかの玲は俺に都合のいい幻なんだから。法律も夢のなかまでは手を出せない。だいすきな玲と、あんなことや、こんなことだって……!
きゃ──!
……いや、申しわけないから想像しないけど!
夢のなかでもわたわたしながら、それでも俺はちゃっかり、夢まぼろしの玲に、あまえて抱きついた。
「れい、だっこ」
自分の喉からこぼれると思えないほど、あまったるい声だった。
はずかしい……!
でも夢だから、だいじょうぶ!
燃える耳で、きゅっと玲のうなじに腕をまわして抱きよせる。
「はい、だっこ。
あまえた、まもちゃん、かわいー♡」
ぎゅう
抱きしめ返してくれる玲が、あまくて、やさしい。
だって、夢だから。
俺の幻想だから。
玲は、俺のことがすきで、俺のことを大事にしてくれて、俺の可愛い、可愛い子分のままで……
……昔のちいさな玲にすがるみたいに、自分に都合のいい玲を、押しつけてる。
「……ごめん、玲」
泣きそうになった俺を、あやすように玲が抱っこしてくれる。
「泣かないで、まもちゃん。寝ぼけてる? かなしい夢なの?」
頭をなでなでしてくれる玲が、やさしい。
「起きてくれたら、俺がいるよ。
まもちゃんを、守るから」
……こんなことを夢のなかで子分な玲に言わせるなんて、俺はなんて欲深い、情けない親分なんだろう……
「泣かないで、まもちゃん。起きて!」
ゆさゆさ揺すられた。
「まもちゃん!」
ぺちぺち頬をたたかれた。
「起きないと、ちゅうしちゃうよ!」
かわいい声が降ってくる。
…………え、寝てたらちゅうしてくれるの……?
ぜったいまぶたを開かない──!
決意した俺が、ぎゅうっと目をとじて、ぎゅうっと玲に抱きついた。
「……うわ……本気でかわいすぎて、むり……!」
無理って言った!
夢のなかでも、玲が俺にしょっぱい……!
しょんぼり目を明ける。
「まもちゃん? 起きた? 目、覚めた?」
のぞきこんでくれる玲が、朝からイケメンです。
「白峰高校の皆さん、朝食会場へどうぞってアナウンスがあったみたいだよ。朝ご飯食べてくる?」
玲といっしょで夢みたいで、ぽーっとしてたけど、修学旅行中でした!
忘れてる俺、すごい!
「ご、ごめん、玲! 俺、ちょっと行ってくる!」
「気をつけてね」
俺の手を、玲がひく。
「……え……?」
ぽすりと玲の胸に倒れこむ。
ちゅ
ふわふわのくちびるが、おでこにふれた。
「いけない男が寄ってこないように、おまじない」
ほんのり朱い頬で、玲が笑う。
「いってらっしゃい、まもちゃん!」
玲が手をふってくれる。
子犬な玲の、可愛らしい、おまじないなのに……!
どうしよう……!
うれしすぎて、どきどきしすぎて、発火しそうだ……!
「あ、あの、玲はもう、帰る……?」
「帰ってほしい?」
あまい声で、指をひかれる。
燃える耳で、首をふった。
「で、でも、学校が──」
「だいじょうぶ。風邪でお休みになってる。授業は録画して送ってくれるって」
さすが玲、対策は万全だ。
でも、親分として子分が学校をさぼるのを認めるのも推奨するのもよくないと思う。思うけど、玲には帰ってほしくない……!
「……でも、帰らないと」
くちびるは、理性をつむぐのに
『いかないで』すがるように玲の手を握る指が、ほんとうを伝えてる。
何もかもわかったように、俺の手を玲の指がにぎる。
「帰ってほしい?」
首をふった。
ぶんぶん振った。
揺れる髪が、かすかな音をたてる。
「そばにいる」
ささやきが、吐息のぬくもりが耳にふれて、離れた。
「いってらっしゃい、まもちゃん」
玲の指が、離れてく。
追いかけて、つかまえて、ぎゅうぎゅうにぎってから、そうっと離した。
「……いってくる」
はずかしくて、顔が熱くて、玲の顔が見られない。
