ぱしりケメン

 

 一緒に入ったお風呂は、たぶんふたりで入るために作られていない。部屋付きの露店風呂はちっちゃい丸で、ほんとにおひとりさま用だ。温泉旅館の『お風呂でいちゃいちゃして、のぼせないでください』の注意書きが見えそうだ。

 男子高校生 長身ひとり + 小柄ひとり = ぎゅうぎゅう!

「え、玲、これやばくない? お湯なくなる!」

 ざっば──ん!

 あふれゆくお湯にビビって上がろうとする俺を、玲の腕が引きとめる。

「平気平気。源泉かけ流しだから!」

「いやでも、もったいない……!」

 泣いちゃう!

「まもちゃんが、俺といっしょにお風呂に入ってくれないほうが、泣いちゃうよ!」

 俺の頭のなかを読んで返事をしてくれる玲が、すごすぎる。

「めちゃくちゃ、みっしりだぞ」

 ぺしょんと玲の耳としっぽが垂れるのが、見えた気がした。

「まもちゃん、いや?」

「いやなわけない!」

 が、正直に言おう。反応しそうで困る。
 いやだって、まだ告白していない、告白しても砕け散るだろう大すきな人と密着してお風呂とか拷問だろう!
 タオルは巻いている。モロじゃない! それだけが救いだ。

「じゃあ、抱っこ」

 ぎゅむ

 抱っこしてくれる玲は、あたりまえだけど、俺に反応しちゃうとか、そんな心配、かけらも、微塵もないのだろう。
 だからこんなに密着しても平気なんだ。ちっちゃい頃みたいに。
 思ったら泣けてきた。

「……れい……」

「ま、まもちゃん!? どうしたの!」

 泣きそうな俺に、いつも冷静で余裕しか感じない玲が、わたわたしてくれる。

 可愛くて、子犬で、かっこよくて、おっきくなった、すべすべの玲のお肌と、ぴっとりひっついて、いっしょに、せっまいお風呂だなんて……!

「のぼせた」

 鼻血があふれそうだよ。








 のぼせた俺を抱きあげた玲が、寝室に敷かれた布団に寝かせてくれた。

「気分は? これ飲んだほうがいい」

 部屋に備えつけの冷蔵庫から、スポーツドリンクを渡してくれる玲に、俺は眉をさげる。

「たっかい……!」

「今の俺は無敵だから」

 笑った玲がスマートフォンを弾いて、ペットボトルの蓋を開けてくれた。

「飲めそうなら、すこしでも飲んで」

 やさしく俺を抱きあげて、唇にあてがってくれる。

「……ありがと、玲」

 これじゃあ俺が子分みたいだ。
 情けなくて、はずかしいのに、玲の手から飲ませてもらう清涼飲料水は、天上の味がする。

「おいしい?」
「うん」

「もうちょっと飲める?」
「うん」

 うなずいたら、玲がボトルを傾けた。
 喉をすべり落ちてゆく冷たい水が、爽やかな甘みをのせて指先まで染み渡る。

「玲も、飲む?」

「ああ、じゃあ少しだけ」

 笑った玲が、ボトルに口をつける。

 ……キスみたい。

 思ってしまう自分がはずかしくて、耳が熱い。
 玲の唇からのぞく赤い舌に、鼓動が跳ねる。

「ちょっと冷やしたほうがいいのかな。氷嚢をもらえないか、聞いてくるね」

 立ちあがろうとする玲を、止める。

「へいき」

「でも……」

「一緒に寝よう、玲」

 引き寄せる。

「髪を乾かしてからね」

 仕方なさそうに笑った玲が、濡れた俺の髪をすいた。

「ほんとに、苦しくない? つらくなったら、すぐ言って」

「……俺、親分なのに、迷惑ばっかりかけて、ごめ──」

「謝ることない」

 玲の腕が、俺をつつみこむように抱きしめてくれる。

「親分は子分に謝らなくていいんだよ。
 親分は子分に、何をしたっていいんだから」

 蜜色のとろける笑みを浮かべる玲に、跳ねた鼓動が駆けてゆく。


『そんなこと言ったら、ちゅうしちゃうぞ』

 言えないから。

「子分も親分に、何をしてもいいんだぞ」

 熱い頬で、ふせたまつげで、ぽそぽそ告げる。


「そんなこと言ったらだめ」

 抱きしめてくれる玲の腕が、熱い。


「いけない子になっちゃうから」

 ささやいた玲の熱い唇が、うなじにそっと、ふれた気がした。
 







 もちろん気のせいだ。しっかり、ばっきり分かってる。

 勘違いして
『玲ってばもう、俺のこと大すきなんだから~♡』調子に乗る、痛い親分にはならない!

 そう決意したのに。

「……玲、あの、こんなに密着したら、ちょっと寝にくいな、と思うんだけど……」

 お布団は、ひとつしかない。
 並んで眠るのは、やぶさかではない。

 だがしかし。
 玲の腕のなかで眠るのは、親分として、ど、どうなのかな……!?

 めちゃくちゃ密着してるんですけど。
 めちゃくちゃいい匂いがするんですけど。
 浴衣のえりとか、はだけちゃって、玲のすべすべのお肌が見えるんですけど……!

 いやさっきお風呂で見たけど!
 さわっちゃったけど……!
 きゃ──!

「……鼻血でそう……」

「く、苦しいの!? まもちゃん……!」

 あわあわ玲がスポーツドリンクを持ってきてくれる。

「やっぱり氷嚢もらってくるよ!」

 走りだしそうな玲の腕を、つかまえる。

「へ、平気だから」

 玲が密着してこなければ!

「……さっきも、そう言ったよ。……俺といっしょに寝るのが、いや……?」

 しゅんと、玲をしょげさせる親分なんて、さいていだ──!

「全然ちがう──!」

「まもちゃんは、やさしいから無理して──」

「ちがうったら!」

 玲の腕をつかんで、引き寄せた。
 落ちてくる玲の身体を、抱きしめる。

「……そ、その、どきどき、しちゃって、鼻血が出そうになっただけだ、から。へいき」

「……どきどき?」

 そうっと聞く玲に、燃える頬で、ぽそぽそ告げる。

「玲、おっきくなったなあって」

「ちぇ」

 つまらなさそうに唇をとがらせる玲が可愛くて、ちいさく笑う。

「寝よう、玲」

「無理してない? 夜中に気もちわるくなったら、すぐ起こしてね」

「ありがとう、玲」

 おおきくなった玲と、ひとつお布団で眠る。

 抱っこすると、のぼせたばかりの俺が圧迫で気もちわるくなっちゃうかもと心配してくれたらしい玲は、俺と手をつないでくれた。


 長い指が、俺の指にからまる。

 恋人つなぎで握られた指が、あまく、せつなく、しびれてく。