ぱしりケメン

 

 その前に、どうして玲がここにいるかだ。わかってる。

 玲が突然現れたことより、玲が激おこなことより、玲がここにいてくれることが、うれしすぎて、涙がでる。

「……れい……」

 呼んだ声は、涙まじりだ。

「まもちゃん、俺は激おこなの! 他の男と仲よくしたらダメって言ったでしょう?
 すんごくイヤな予感がしたから駆けつけたら、お布団で抱きあってるとか、ひどすぎる──!」

 涙目な玲に手をあげる。

「錯乱した樹一に押さえつけられて、ちゅうされそうで、何とか腕の力だけで拘束を外そうとしたけど無理だった。ので、思いきり股間を蹴りあげたところに玲が来た」

 おなじ男性として、あの冷や汗が出て息ができなくて腹の奥まで刺さる激痛を与えてしまうのは忍びないのだが、俺のファーストキス死守のほうが大事だから!
 すまん、樹一!
 というか、錯乱するのがよくないから。間違ってるから。うむうむ。正当防衛な俺、わるくない。

「まもちゃん、この男のSNSに散々、まもちゃんと、いちゃいちゃしてる写真が上がってるんだけど」

 股間を押さえて、ぷるぷるしてる樹一を顎で指した玲が、スマートフォンをかざす。

『らぶ♡』バスで隣の席の俺の頬に樹一がほっぺたをくっつけてきている写真
『愛♡』北海道の時計台で、俺に樹一が抱きついている写真
『かわいすぎる彼氏♡』ホテルの部屋で寝てる俺のほっぺを、つんつんしてる樹一の写真
『セクシーな彼氏♡』お風呂上がりでバスタオル一枚で髪から雫が滴り落ちる俺のセクシーショット……! いつ撮りやがった、これ──!

「何やってるの、まもちゃん──!」

 涙目な玲が、激おこです。

 うん、これは激おこになる。もし玲が他の男とこんなことしてたら、めちゃくちゃすねて、ものすごく、むかむかしちゅう。……でも、それは俺が玲を大すきだからなんだけど。かっこいい玲に他の人が寄ってくるのは仕方ないなって思いそうだけれど。
 玲が、この写真を見て泣いちゃうのは、親分が取られちゃう気がするから……?

 not恋愛 but子分?
 せつない……!

 い、いや、親分として、子分が慕ってくれるのは、うれしいことだ。ありがとう、玲。
 という気もちをこめて、玲の肩をぽんぽんしてみた。

「俺が全く全然知らないところで勝手に撮られてた」

「自衛して!」

「寝てるから! 無理だから!」

 だいたい寝てるところに、ほっぺたくっつけられたり、ぷにぷにされたりしてる。

 風呂上がりはいつ撮ったんだ? 犯罪じゃね?
 犯罪すれすれを漂う樹一!
 さっきの、ちゅうしそうになったのもな!

 むかむかしながら俺は玲に向きなおる。

「玲、今日、平日だよな? 学校は?」

 すっと玲が目をそらした。

「学校は?」

 うつむいた玲が、もごもご告げる。

「……行くふりして、飛行機に乗って……」

「ご家族には連絡した?」

「……今、北海道って……」

「今日の泊まるところは?」

「ひと部屋空いてたから、この旅館に泊まってる」

「明日の帰りの飛行機は?」

「……とってない……」

 なるほど。

「いっしょに先生のところに行こうか」

 ふるふる玲が首をふる。

「いや」

 ぎゅう

 抱きしめてくれたら、頬が火照る。

 ずっと逢いたかった玲の香りがする。
 ずっとふれたかった玲が、腕のなかにいる。

 夢みたいで、くらくらする。


「でも言わないと」

「いや。俺が勝手に北海道に旅行に来たんだもん。まもちゃんの修学旅行も先生も関係ない。俺は、まもちゃんを抱っこしに来たの」

 玲の目が真剣すぎてこわい。

「うん、でも、修学旅行に一緒に来るのは、先生に言わないと……」

「行かない」

「……へ……?」

「まもちゃんが泊まるホテルに一緒に泊まるだけ。一緒の飛行機で一緒に帰るだけ」

「……そ、そう、なの……?」

「だから、まもちゃんは、俺と寝るの!」

 手をひかれた。

『北海道に来てまで何やってるんだ』とか『はやく帰りなさい』とか『一緒の部屋に泊まるなんて、だめに決まってるだろう』とか親分らしい言葉なんて、ひとつもこぼれなかった。

 つながる玲の手を、にぎる。

 ぎゅうぎゅう、にぎる。


『逢えて、うれしい』とか『来てくれて、うれしい』とか『一緒の部屋に泊まるなんて、どきどきする』とか、ほんとうの気もちも、ひとつもこぼれない。


 はずかしくて、どきどきする熱い頬で、ただ玲の手をにぎる。

 にぎり返してくれる玲の手が、熱い。


 どきどきが、加速する。

 玲を映す俺の目が、浮かされたように、うるんでく。