大きく、大きく、ふられる玲の長い指が、雑踏の向こうに消えてゆく。
大きな玲が、ちいさくなって、見えなくなる。
「なあ、まもる。今生の別れじゃないんだぞ。修学旅行だ。三日後にまた逢える。
泣くな!」
樹一に頭を、わしゃわしゃされた。
「……大魔王、変なフラグを立てるのやめてくれないかな?」
おじちゃ……貫禄のある三森が、ぼそっと告げる。
「飛行機が落ちちゃいそうだから、泣かないで、大魔王!」
ちっちゃ可愛い、はむすたーな小野が、泣きそうだよ!
「うわ、大魔王、飛行機を落とす気だぞ!」
「止めてくれ! 自分だけ生き残る気か──!」
「さすが大魔王! 残虐すぎる──!」
白峰高校二年生の皆に泣かれました。ひどい。
変なフラグを立てたのは三森と小野であって、俺じゃない──!
途中、乱気流に巻き込まられたらしく、ぐらんぐらん飛行機は揺れた。
ひゅうっと突然エアポケットに落ちて急降下する、胃がせりあがる不思議な感覚が……!
「ぎゃああ! 大魔王の呪いだ!」
「大魔王、ひどい!」
「やめて、大魔王──!」
白峰高校の修学旅行生の評判はきっと、ダダ下がりだ。
フライトアテンダントさんの注意も
「落ちついてください、大魔王!」
おかしくなってる。
「一般のお客さまにご迷惑だから、大魔王泉、皆を呪わないように」
体育教師ゴンちゃんの注意まで、錯乱してる。
「いや、俺、皆を呪ったりしてないから!」
必死で弁明した俺に刺さるのは『え、皆こそ俺を呪ってない?』聞きたくなってしまう、同級生たちの目だ。
「うそつき!」
「さすが大魔王!」
「呪いが強すぎる!」
全く信じてもらえなかったけれど、飛行機は無事、北海道に到着した。よかった……!
よくやってくれた、ブルーウェイ! ありがとう。
「他のお客様のご迷惑となりますので、航行中は呪いをお控えくださいますよう、大魔王にお願いいたします」
フライトアテンダントさんの注意が、おかしいままだ!
「無事に着いてよかったな、まもる!」
『大魔王』呼ばない樹一が、天使に見えてきた。おかしい。
空港に着いたら電車に乗り換えて札幌市内へと移動だ。
車窓の向こうを流れてゆく見慣れぬ景色と、見慣れぬ電車に、どきどきする。
「他の方のご迷惑にならないように、静かにしろよー!」
ゴンちゃんの注意を、誰も聞いていない。
「おぉお、北海道!」
「でっかいどう!」
「さっぶ!」
「大魔王の呪いが──!」
「うわ、こわ!」
「さすが大魔王!」
なんでも俺のせいにするのを、やめようか?
電車から飛び跳ねるように降りたら、ほんの数時間前より冷たい風が頬を打つ。
かいだことのない香りが、鼻をくすぐった。
わくわくする俺の隣で、皆の目もきらきらだ。
「おお、これが、さっぽろ!」
「北の大地!」
「踏んだ!」
見るものすべてが目新しくてテンションがあがりっぱの皆に、さらに火をつけるように、巨大なレストランで、ジンギスカンだ。
「すげえ!」
「北海道!」
「うめえ!」
じゅわじゅわジンギスカンに皆ではしゃいだ。
鍋を囲むと、ちょこっと仲よくなれる気がする。遅めのお昼ご飯が終わったら、札幌市内を観光だ。
皆で見あげた時計台は、ビルの隙間に挟まってた。
「おお、ちっちゃい!」
「かわいーね」
「これが日本三大がっかりか!」
皆の見どころが違う。
「三大がっかりとか、ひどくない? かわいーじゃん」
胸を張る小野に、時計台を見あげた三森は周りの景色に吐息した。
「いやでも北海道って聞くと、広大な草原のなかにそびえる時計台を想像するんじゃないか? ビルの狭間に、ちんまりある時計台を想像しないだろう?」
「ちっちゃいものは、皆かわいーんだよ!」
ちっちゃい小野が、拳をにぎってる。
はじめて来た北海道にわくわくする気もちは確かにあるのに、楽しそうな皆を横目に、俺は玲のことばかり考えていた。
ずっと、玲は俺の背中を見ていてくれた。
振りかえるたび、とろけるように笑って、大きく手を振ってくれた。
ちいさくなってゆく玲を、見えなくなってしまう玲を、思いだすたび、涙があふれそうに──!
「いや、今生の別れじゃないから。あと三日したら逢えるから!」
樹一が俺の頭の中身を読んでくる!
