ぱしりケメン




『玲がすき』

 自覚したら、世界が虹にきらめきはじめる。
 体育祭が終わったのに告白の熱気が残る白峰高校の、いつもの昼休みまで、きらきらだ。

「まも先輩! 『あまあましゅが』買ってきました♡」

 いつもみたいに二年三組の扉の前で笑ってくれる玲の後ろに、お花と♡のエフェクトが見える。

「学年対抗リレーアンカーの香月をぱしりにする泉、やべえ……!」
「魔物だろ」

「魔王だろ!」
「モブ顔のくせに!」

 皆の糾弾が半端ない。
 ちょっと泣きそうになる俺の手を、とてもうれしそうに玲がひいてくれる。

「まもちゃんには、俺だけがいればいいから」

 とろけるように微笑んで言われる言葉の意味が、わからない。


「行こう、まもる」

 屋上へと、玲が手をひいてくれる。



 ふわふわの、はしばみの髪が揺れるたび、切れ長の、はしばみの瞳に俺を映してくれるたび

 トクン

 きみに落ちる音がする。







 ひと気のない屋上の四角い倉庫の後ろ、ひなたと日陰の境目に座ったら、まるで当たりまえみたいに玲が隣に座った。

「まもちゃん『あまあましゅが』だよ」

 ふわふわの髪を揺らして、玲が笑う。
 差しだしてくれる『あまあましゅが』まで、きらきらしてる。

「あ、ありがと、玲。でも毎日『あまあましゅが』は、ちょっと……」

 おいしいけど! うれしいけど。なんかほっぺたが、ぷにぷにしてきた気がする!

「それにもう、ぱしりみたいなことしなくていいって。な?」

 俺の評価が『魔王』になってるから!
 懇願というより哀願な俺に、玲の肩がまるくなる。

「……まもちゃん、俺のこと、めぃわく……?」

「だから、そうじゃないってば!」

 叫んだら、抱きしめられる。

「……捨てないで、まもちゃん」

「だから、それは俺の台詞──……い、いや、な、なんでもないから!」

 燃える頬で、首をふった。
 ぱさぱさ揺れる俺の髪が、あまえるように玲の肩をたたく。

 髪の先が、きみにふれるだけで、どきどきする。


「毎日『あまあましゅが』だと飽きちゃう?」

「ほら、ちょっとぷにぷにしてきた」

 頬をひっぱる俺に、玲の長い指がのびてくる。

「むに」

 つままれた俺の頬が、ぷにぷにのびた。

「うわ、やわらか……!」

「みょーん」

 俺のほっぺを伸ばして遊ぶ玲のちっちゃい頭を、腕をのばして、ぺしぺしする。

「こりゃ」

「うわ、もう、どうしよう……! まもる、かわいすぎる……!」

 ぎゅむぎゅむ抱っこされた。

 ……ほっぺがのびる、ぬいぐるみとでも思ってる?

「れひ、いひゃいかりゃ!」

『みょーん』なままのほっぺが辛くなってきた俺から慌てたように指を離した玲の、はしばみの瞳が、うっとりしてる。

「まもる、かわいー♡」

 ひっぱられすぎて赤くなっているだろう頬を、なでなでされた。


「……呼びすて、体育祭のときだけって……」

 さっきも、廊下でしたよな?

 もごもご、熱い頬でつぶやいたら、はしばみの瞳が切なげにうるんだ。

「……だめ……?」

 そんなかわいい上目遣いを、どこで覚えましたか!

 ちっちゃい子犬みたいな玲を、ぎゅっと抱きしめる。


「……ふたりのときだけ」

「うん!」

 俺の腕のなかで、玲が笑う。ちいさな頃みたいに。

 でも玲は大きくなって、めちゃくちゃかっこよく育ってしまって、だから、どきどきが止まらな……あぁ、ちがう。

 ちっちゃな玲のことも、俺は、ずっと、だいすきだった。


「ぉにいちゃん、ありがとぅ……」

 涙でいっぱいの瞳で笑ってくれた、あの日から。



 ずっと俺は、きみが、すきだ。