瞬く間に季節は流れ、爽やかな秋晴れが気持ちいい九月となった。
「バンドのサポートメンバー?」
文化祭まで一ヶ月となったある日。どこから噂を聞きつけたのか、中学時代に俺がボーカルをしていたと知ったクラスメイトが、文化祭で披露するバンドの臨時ボーカルを依頼してきた。
「そう!文化祭までの一ヶ月だけお願いできないかな?琴の歌すごかったって聞いたから、一緒にできたらなって…!」
「でも…」
心の隅で、一年前に言われた『砂利みたいな声』という言葉を反芻した。その瞬間、かつて感じた喉が締め付けられるような、声が出ない感覚が蘇った。
(無理だ、断ろう_____)
そう思って咳払いした時、なぜかハッと健の顔が浮かんだ。
『琴の声、好きだよ』
もう一度向き合ってみてもいいんじゃないのか。
俺はぎゅっと拳を握った。
「うん…やってみたい」
そう言うと、クラスメイトはパッと顔を輝かせた。
「ほんと!ありがとう、これから一ヶ月、一緒に頑張ろうな!」
こうして、俺の一年ぶりのバンド活動が決まった。
バンド練習のために、放送部の活動は文化祭明けまで休むことにした。部員のみんなに事情を話すと、あたたかく応援してくれた。みんな俺が部活で裏方しかしない理由を知っているから、心境の変化に喜んでくれた。
そして、バンドメンバー全員との顔合わせ初日を迎えた。既存メンバーはギター・ドラム・キーボードの三人で、ボーカルの俺を合わせて計四人となった。
俺の歓迎会と称してカラオケボックスに集まり、簡単な自己紹介をし合った。その後、俺の歌を聞いてみたいとの要望で、一曲歌うことになった。
人前で歌うことは一年ぶりだった。額に冷や汗が浮かんだ。喉のつかえを振り払うように、咳払いをした。
(大丈夫…今は変声期も終わっていて、声は安定している)
瞳を閉じて、健を思い浮かべた。
目を開き、意を決して歌い出す。一度歌い出すと何とか駆け抜けることができて、あっという間に一曲終わった。
「ど…どうだった」
マイクを置いて、俺はみんなに向き直った。
まぁ…まだ本番まで一ヶ月あるし、期待通りでなかったら断ってもらおう。他のボーカルを探しを再開しても間に合う時期だ。
「すげえうめぇじゃん!」
「だな!腹から声出てて迫力ある」
「俺らの演奏とも相性良さそうじゃん?」
顔を固くしていた俺に、一斉に賛辞の言葉が向けられた。否定されるとばかり思っていたので、そんな反応に拍子抜けした。
「…思わないの?変な声だ、とか…」
お世辞かと思って、少し勘繰りながら尋ねた。
「え?中低音がかっこよくて特徴的だとは思うけど、そこがいいじゃん?バンドとしては、個性も立派な武器の一つだし」
その言葉にみんなうんうん頷いた。
そして三人は「佐藤の声だと、このバンドとか合いそうだよな!」「それな、そのバンドの流行りの曲とかわかる?」「じゃあ、今ドラマの主題歌やってるこれとかは?」と、もう候補曲の話し合いを始めた。
俺はくすりと笑った。不安は杞憂に終わったんだ。健や放送部のみんなに加え、また心強い仲間ができたこと、そして人前でまた歌えたことを嬉しく思った。
次の日から本格的にバンドの練習が始まった。練習は充実していてとても楽しかった。はじめのうちは咳払いが出ることもあったが、日毎にそれは減り声も安定感が増した。
ただ一つ、健に会える機会が減ったことだけに、俺は寂しさを募らせた。
「…あ、健!」
バンドの練習が始まって一週間が経とうとしていた日の昼休み。俺は廊下で健とすれ違った。
「おー琴、久しぶり!」
俺を見つけると健はニカッと笑った。一週間ぶりに健に会うことができて、俺の胸は高鳴った。
「あのさ、今いい?話したいことがあって…」
「…え、文化祭で臨時ボーカル!?」
原稿読みの練習をする定番の場所となった階段の踊り場に移動して、俺は健にバンドに参加することになった経緯を説明した。
「…うん。歌う事は変わらず好きだし、少し怖いけど…せっかくならやってみようかなって」
そこまで言ってから、俺は健の手をぱっと掴んだ。
「…あのな、そう思えたの、健が俺の声好きって言ってくれたおかげだよ。健が俺を変えてくれたんだ。
だから…文化祭のステージ、健に見てほしい。見に来てくれないか」
そう言って健にバッと頭を下げると、健は「はは!」と笑った。
「な…なんだよ」
頭を上げてそう言うと、健は思いっきり俺の頭をわしゃわしゃ撫でた。
「お…おい、やめろ!」
「…へへ、ごめん、嬉しくて。俺の言葉が琴にきっかけを与えたんだなって。もちろん最前で見るよ!俺が琴の声の一番のファンだから!」
その言葉にまた勇気をもらった。やっぱり、健の言葉は俺にとって唯一無二の魔法だ。
さぁ、本番までの残り三週間、頑張るぞ。改めて俺は気を引き締めた。
「バンドのサポートメンバー?」
文化祭まで一ヶ月となったある日。どこから噂を聞きつけたのか、中学時代に俺がボーカルをしていたと知ったクラスメイトが、文化祭で披露するバンドの臨時ボーカルを依頼してきた。
「そう!文化祭までの一ヶ月だけお願いできないかな?琴の歌すごかったって聞いたから、一緒にできたらなって…!」
「でも…」
心の隅で、一年前に言われた『砂利みたいな声』という言葉を反芻した。その瞬間、かつて感じた喉が締め付けられるような、声が出ない感覚が蘇った。
(無理だ、断ろう_____)
そう思って咳払いした時、なぜかハッと健の顔が浮かんだ。
『琴の声、好きだよ』
もう一度向き合ってみてもいいんじゃないのか。
俺はぎゅっと拳を握った。
「うん…やってみたい」
そう言うと、クラスメイトはパッと顔を輝かせた。
「ほんと!ありがとう、これから一ヶ月、一緒に頑張ろうな!」
こうして、俺の一年ぶりのバンド活動が決まった。
バンド練習のために、放送部の活動は文化祭明けまで休むことにした。部員のみんなに事情を話すと、あたたかく応援してくれた。みんな俺が部活で裏方しかしない理由を知っているから、心境の変化に喜んでくれた。
そして、バンドメンバー全員との顔合わせ初日を迎えた。既存メンバーはギター・ドラム・キーボードの三人で、ボーカルの俺を合わせて計四人となった。
俺の歓迎会と称してカラオケボックスに集まり、簡単な自己紹介をし合った。その後、俺の歌を聞いてみたいとの要望で、一曲歌うことになった。
人前で歌うことは一年ぶりだった。額に冷や汗が浮かんだ。喉のつかえを振り払うように、咳払いをした。
(大丈夫…今は変声期も終わっていて、声は安定している)
瞳を閉じて、健を思い浮かべた。
目を開き、意を決して歌い出す。一度歌い出すと何とか駆け抜けることができて、あっという間に一曲終わった。
「ど…どうだった」
マイクを置いて、俺はみんなに向き直った。
まぁ…まだ本番まで一ヶ月あるし、期待通りでなかったら断ってもらおう。他のボーカルを探しを再開しても間に合う時期だ。
「すげえうめぇじゃん!」
「だな!腹から声出てて迫力ある」
「俺らの演奏とも相性良さそうじゃん?」
顔を固くしていた俺に、一斉に賛辞の言葉が向けられた。否定されるとばかり思っていたので、そんな反応に拍子抜けした。
「…思わないの?変な声だ、とか…」
お世辞かと思って、少し勘繰りながら尋ねた。
「え?中低音がかっこよくて特徴的だとは思うけど、そこがいいじゃん?バンドとしては、個性も立派な武器の一つだし」
その言葉にみんなうんうん頷いた。
そして三人は「佐藤の声だと、このバンドとか合いそうだよな!」「それな、そのバンドの流行りの曲とかわかる?」「じゃあ、今ドラマの主題歌やってるこれとかは?」と、もう候補曲の話し合いを始めた。
俺はくすりと笑った。不安は杞憂に終わったんだ。健や放送部のみんなに加え、また心強い仲間ができたこと、そして人前でまた歌えたことを嬉しく思った。
次の日から本格的にバンドの練習が始まった。練習は充実していてとても楽しかった。はじめのうちは咳払いが出ることもあったが、日毎にそれは減り声も安定感が増した。
ただ一つ、健に会える機会が減ったことだけに、俺は寂しさを募らせた。
「…あ、健!」
バンドの練習が始まって一週間が経とうとしていた日の昼休み。俺は廊下で健とすれ違った。
「おー琴、久しぶり!」
俺を見つけると健はニカッと笑った。一週間ぶりに健に会うことができて、俺の胸は高鳴った。
「あのさ、今いい?話したいことがあって…」
「…え、文化祭で臨時ボーカル!?」
原稿読みの練習をする定番の場所となった階段の踊り場に移動して、俺は健にバンドに参加することになった経緯を説明した。
「…うん。歌う事は変わらず好きだし、少し怖いけど…せっかくならやってみようかなって」
そこまで言ってから、俺は健の手をぱっと掴んだ。
「…あのな、そう思えたの、健が俺の声好きって言ってくれたおかげだよ。健が俺を変えてくれたんだ。
だから…文化祭のステージ、健に見てほしい。見に来てくれないか」
そう言って健にバッと頭を下げると、健は「はは!」と笑った。
「な…なんだよ」
頭を上げてそう言うと、健は思いっきり俺の頭をわしゃわしゃ撫でた。
「お…おい、やめろ!」
「…へへ、ごめん、嬉しくて。俺の言葉が琴にきっかけを与えたんだなって。もちろん最前で見るよ!俺が琴の声の一番のファンだから!」
その言葉にまた勇気をもらった。やっぱり、健の言葉は俺にとって唯一無二の魔法だ。
さぁ、本番までの残り三週間、頑張るぞ。改めて俺は気を引き締めた。
