運動会の借り物競走で、公開告白されました。

 六月某日、雲ひとつなく突き抜けるような快晴。まさしく運動会日和の本日、高校一年生の俺・佐藤琴(さとうこと)の通う高校でも運動会が行われていた。

(あぁ…だりいなぁ…)

 得意じゃない運動と暑さに、午前中から体力を消耗しすでに項垂れていると、「佐藤!」と体を揺さぶられた。ゆらゆらした衝撃に目を開くと、目の前には部活の先輩が立っていた。

「なんすか先輩…」
「お前この後、係で借り物競走の実況だろ?気が進まない中で申し訳ないんだが、係のテント行ってくれるか?」

 あ、そうだった…と渋々立ち上がる。先輩が「サボるなよー!」と言いながら立ち去るのを見届けて、グラウンドに特設された係用のテントに向かった。

 放送部の俺は、部活動で機材などの裏方を担当している。運動会の本日も、放送部の主な仕事は各種目の実況である中で、俺はマイクやスピーカーの調整など裏方に徹する予定だった。
 しかし機材と同じく、イベントごとにトラブルはつきものだ。悲しいかな、実況担当の放送部のメンバーが一人、当日急に休むことになった。他の部のメンバーで実況の代打を少しずつ持ち合ってくれたが、問題は部活動対抗種目である借り物競走の時間だ。ただでさえ人数が少ない放送部、借り物競走にエントリーした部員以外でその時間に手が空くのは、元々実況に入る予定だった休んだ生徒と、琴のみだった。消去法で琴に白羽の矢が立ち、急遽その時間の実況の代打が回ってきたのだ。

(こんなことなら、まだ借り物競走に出たのに…)

 そう思いながら、グラウンド上に臨時に張られた係用テントに到着した。放送部が実況を行う席に着くと、「んんっ」と咳払いをしてから息を吸った。

 あぁ、このマイク越しに、自分の声が響き渡る瞬間が大嫌いだ。
 そう思っていると、部活動対抗の借り物競走はスタートした。


「…えー、続いての回は、二レーンの野球部木田(きだ)くんが注目株ですね。大穴は五レーンの茶道部、山部(やまべ)さんです。…おっとホイッスルが鳴りました、五レーン速い速い…」

 琴の鬱々とした気持ちと裏腹に、借り物競走はつつがなく進んだ。俺は出場者一覧と台本を片手に、型通りの実況をした。

「…はい、三レーンのサッカー部穂積(ほづみ)くん速いです。お題の紙を拾い借り物を探しているようだ、コースアウトしこちらに…ん!?」


 その時だった。借り物を探しているためかコースアウトしていた背の高い男が、こちら目掛けて走ってきて、放送部の机の前でピタッと止まった。程よく筋肉のついた身体に健康的に焼けた肌の色。そんな見るからに陽キャな彼が目の前に来て、生粋の文化部である琴は少し怯んで咳払いをした。体操着の色を見て、同じ一年生か…とぼんやり思った。

「見つけた…!」

 そう話す彼は、まっすぐ俺を見つめていた。

「ちょっと、来てもらえますか」
「…は?あ、おい!」

 彼は有無を言わさず俺の手を掴むと、ゴール目掛けて走り出した。

 他の全校生徒は、急に実況の声がなくなったことに唖然としつつ、走る俺たち二人を見守っていた。

(いくらなんでも、勝ちたいからって借り物で係の仕事中の奴を選ぶ馬鹿がいるかよ…!)

 そう思いつつ、抗うのもめんどうなので大人しく従った。

 走るのが速い彼に俺は必死についていき、何とか一位でゴールした。
 ゴール付近にいたインタビュー係の人が、俺と共に走った彼にマイクを向けた。マイクを向けられている男は、確かサッカー部の穂積と言ったか。

「それではお題は何でしたか?」

 あ、そういや何だったんだろ。お題でわざわざ俺を選んだ理由が、皆目見当がつかなかった。『放送部』とか?それか…

(まさか、、声が汚い、とか…)

 そう考えると更に心が曇り、俺は咄嗟に咳払いする。



「お題は、好きな人です。
好きです!俺、あなたの声に惚れました」

「…は?」

 騒がしい音楽が鳴り響くグラウンドで、マイクを通した告白の声と、それに対する俺の間抜けな返答が響いた。
 一拍置いて、「えーーーー!???」と叫ぶ生徒の叫び声が音楽をかき消すように響いた。


 運動会の借り物競走で、俺は男に公開告白された。

 これが、俺と(けん)の出会いだった。