2026-02-10
『恋人の話を少し』
爺ちゃんと婆ちゃんになってもさ
手を繋いで歩けるくらいがいいね。
そう語り合った、夢の中での恋人。
「そうだね、手を繋いでいたいね」
僕はその人と目を合わせて
他愛もない言葉を交わした。
夜、何処かの街を一緒に歩いていて
その人がぶらぶらと振っている手を
ギュッと掴んで恋人繋ぎをしてから。
「何処へでも行けそうな気がする」
「君がずっと隣に居てくれるなら」
知らない街の知らない居酒屋が
薄明りを出して営業中だと知る。
知らない街の知らない通行人が
道端で抱き合っていて愛を知る。
恋人と歩いたその街は
知らない場所だけれど
何故か思い出せそうな
そんな雰囲気があった。
飲み屋街を抜けた先にあった駅で
恋人とはお別れをすることになり。
「またね」
恋人はそれだけを僕に告げて
振り返って駅構内へ向かった。
後ろ姿が見えなくなるまで僕は
ずっとその人のことを見ていて
行き交う人に搔き消されていく。
見えなくなった。
如何してか目的地が分かっているように
僕の足は止まることなく進みを続けた末。
或る家へ着いた。
見覚えのない家。
自分の意識とは裏腹にその家へ入り
「ただいま」と僕は後ろ姿の女性に
話しかけてから抱きついたのだけど。
気付いた。
僕は左薬指に指輪を嵌めていて
この女性と結婚していたのだと。
「おかえりなさい」と言い振り返る女性は
さっき別れたばかりの恋人が年を重ねた姿。
微笑んだときにできる目尻の皺も
照れたときに見せる独特なクセも
恋人と似ていて混乱しそうになる。
こちらを向いた女性に抱きつかれ
キスをするときに目を瞑ったが故
涼しさを感じて目を開けると僕は。
また知らない野原を共に散歩していた。
隣では恋人が年老いて婆ちゃんになり。
手を繋いで何処までも行けそうなほど
僕はその人と前を向いて歩みを進める。
天国かと思った。
風が気持ち良い。
遠くから聞こえる川の潺も
鳥のさえずりも愛おしくて
全て抱きしめたくなるけど。
抱きしめたら無くなる気がして
僕はどうしようもなく歩むまま。
隣を歩いていた女性が躓いて
「いてっ」と地面に手をつく。
「大丈夫かい?」と僕は手を差し伸べ
その人のことを起こすように抱きしめ。
覚めたくなかった夢から覚めた。
あの人を夢の中に置いてけぼり。
差し伸べた手はまだ温かく
あの人に触れられそうだが。
左薬指には指輪なんて無く
次第にあの人との記憶すら
薄れていってしまうのだと。
「またね」
僕は天井を見つめたまま
そんな言葉を呟いていた。
--
『恋人の話を少し』
爺ちゃんと婆ちゃんになってもさ
手を繋いで歩けるくらいがいいね。
そう語り合った、夢の中での恋人。
「そうだね、手を繋いでいたいね」
僕はその人と目を合わせて
他愛もない言葉を交わした。
夜、何処かの街を一緒に歩いていて
その人がぶらぶらと振っている手を
ギュッと掴んで恋人繋ぎをしてから。
「何処へでも行けそうな気がする」
「君がずっと隣に居てくれるなら」
知らない街の知らない居酒屋が
薄明りを出して営業中だと知る。
知らない街の知らない通行人が
道端で抱き合っていて愛を知る。
恋人と歩いたその街は
知らない場所だけれど
何故か思い出せそうな
そんな雰囲気があった。
飲み屋街を抜けた先にあった駅で
恋人とはお別れをすることになり。
「またね」
恋人はそれだけを僕に告げて
振り返って駅構内へ向かった。
後ろ姿が見えなくなるまで僕は
ずっとその人のことを見ていて
行き交う人に搔き消されていく。
見えなくなった。
如何してか目的地が分かっているように
僕の足は止まることなく進みを続けた末。
或る家へ着いた。
見覚えのない家。
自分の意識とは裏腹にその家へ入り
「ただいま」と僕は後ろ姿の女性に
話しかけてから抱きついたのだけど。
気付いた。
僕は左薬指に指輪を嵌めていて
この女性と結婚していたのだと。
「おかえりなさい」と言い振り返る女性は
さっき別れたばかりの恋人が年を重ねた姿。
微笑んだときにできる目尻の皺も
照れたときに見せる独特なクセも
恋人と似ていて混乱しそうになる。
こちらを向いた女性に抱きつかれ
キスをするときに目を瞑ったが故
涼しさを感じて目を開けると僕は。
また知らない野原を共に散歩していた。
隣では恋人が年老いて婆ちゃんになり。
手を繋いで何処までも行けそうなほど
僕はその人と前を向いて歩みを進める。
天国かと思った。
風が気持ち良い。
遠くから聞こえる川の潺も
鳥のさえずりも愛おしくて
全て抱きしめたくなるけど。
抱きしめたら無くなる気がして
僕はどうしようもなく歩むまま。
隣を歩いていた女性が躓いて
「いてっ」と地面に手をつく。
「大丈夫かい?」と僕は手を差し伸べ
その人のことを起こすように抱きしめ。
覚めたくなかった夢から覚めた。
あの人を夢の中に置いてけぼり。
差し伸べた手はまだ温かく
あの人に触れられそうだが。
左薬指には指輪なんて無く
次第にあの人との記憶すら
薄れていってしまうのだと。
「またね」
僕は天井を見つめたまま
そんな言葉を呟いていた。
--



