言の葉の夜

2026-02-11
『バレンタイン』

「チョコを貰えたら嬉しいですか」
ついさっき、そんな連絡が届いた。

2月14日、この人は好きな人に
チョコを渡すのだろうと想像する。

「誰からだろうと嬉しいですよ」
「渡したい人でもいるのですか」

僕はそんなことを返して
過去のことを振り返った。

あれはまだ、小学生の頃か
チョコを貰った記憶が蘇る。

女の子2人が僕を廊下に呼び出して
その内1人がチョコを渡してくれた。

確か手作りチョコだった気がする。

初めて他人から貰ったチョコが嬉しくて
ランドセルに入れたチョコを何度も見て
浮足立つまま僕は家へ帰ったのだけれど。

冷蔵庫に入れたそれが
お風呂上りに無くなり。

ゴミ箱にはチョコの入っていた紙袋が
亡骸として捨てられているだけだった。

家族に食べられたチョコ。

まだ、幼かった僕は強がったまま
「別に」みたいな表情を取り繕い
寝室でわんわんバレぬよう泣いた。

奪われたチョコの味を翌日
学校で女の子に訊かれたが
「美味しかった」と言って
それが初めての嘘となった。

「好きな人に渡したいなと思っていて」
「今もLINEをしてるとこなんですけど」

ついさっき返信をした人から
続けられるように連絡が届き。

思い出していた過去から現実へと
引き戻された僕は文字を目で追い
「渡したいなら渡そう」と返した。

それからまた少しばかり
過去のことを思い出した。

あれはホワイトデーのこと
あまりいい思い出ではない。

貰ったら返さなければならないのは
幼い僕も知ってはいたのだけれども
食べたのは僕ではないわけであって
返す義理なんてないと思っていたし。

何もない1日として過ごしていたのだが
やはり女の子から「お返しは」と言われ。

「無いよ」と言ったのが運の尽き。
それ以来チョコを貰えなくなった。

「やっぱり、チョコ渡すのやめます」
また、さっきの人から返信が届いた。

急なことで何が何だか分からず
「どうしたの」と訊いたところ。

「好きな人、ついさっき告られたらしくて」
「私とはもう、話してくれないらしいです」

バレンタインを目前に好きな人を奪われた
この人にかける言葉が何一つ見つからない。

「僕だったらその状況でさえ」
「チョコを貰えたら嬉しいよ」
「多分、忘れられないと思う」

また僕は、嘘を吐いた。

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