言の葉の夜

2026-01-13
『恋みくじ』

心斎橋から布忍神社への移動として
タクシーを利用して揺られている中。

運転手が「雪、降ってますね」と
外を見ながら僕に話しかけてきた。

スマホを見ていた僕は外を眺めて
「ね、雪降ってますね」と答えて
少しばかり優雅な気持ちになった。

空から降り注ぐそれは真っ白で
飛行機から見た雲に似ているし
触れてみたくなるのだけれども。

きっと触れてしまえば溶けてしまう。

窓を少し開け、隙間から入り込んできた雪が
僕の黒いジャケットにポツンと1粒だけ乗り
しばらくしてジャケットに染み込んでいった。

その箇所に触れるとひんやりしていて
どこか懐かしささえ思い出してしまう。

あれは、公園で振られた後に乗ったタクシーだった。

まだ若かった僕は彼女と一緒にいたく
束縛気味な愛を彼女に向けていたから。

最初は付き合ってくれていたものの
やはり愛の重さに嫌気が差したのか
その日、公園できっぱりと振られた。

豪快に振ってくれた彼女は
振り返る素振りすら見せず
そそくさと駅へ歩を進める。

そのまま、僕も同じ駅へと歩を進めて
別々の家へと帰ることもできたけれど。

なんだか悲観的になってしまった僕は
公園の近くでタクシーを呼んで待った。

別にプレミアム会員なんかではないのに
大人数乗りのタクシーがこちらに向かう。

そして名前を訊かれ、名前を答え
後部座席にドサッと腰を下ろした。

運転手は泣いている僕を気にせず
「行きますね」と言って出発する。

家の方面へ動き出したタクシーに
揺られながら僕は窓の外を眺めた。

もう夜だというのに、街は明るくて嫌になる。
けれどその明るさのおかげで、雪に気付けた。

冬、タクシーから見た初雪。

彼女と幾度となく年を越して
一緒に見ていたものを1人で
ただ、茫然と眺めているだけ。

見覚えのある姿が、窓越しに見えた。
ついさっき別れたばかりの彼女の姿。

駅へと向かう彼女は雪を肩に乗せ
嬉しそうな表情をして歩いていた。

なんだかもう、寂しいとかは思わなかった。
ただ、僕だけが彼女を愛していたみたいで。

「お客さん、着きましたよ」

その声で、目が覚めた。
布忍神社は、もう目前。

過去を夢で思い出しただけ。
目から涙が溢れ出していた。

「ありがとうございます」と言い
そのタクシーを降りて神社へ行く。

布忍神社とは恋みくじが有名らしく
僕も引いてみようかと200円払い。

13という数字が書かれた枝が
箱から出てきてそれを伝えると
13の場所にあった恋みくじを
店員さんからの手渡しで貰えた。

「心の隅々まで幸せに満ちる」

そんな言葉が書かれていて
クスッと笑いそうになった。

けれど、過去の恋も今の自分には必要で
結局は幸せに満ちるんだ、と納得できた。



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