言の葉の夜

2026-01-14
『全部、お酒のせい』

「君って関係築くの苦手そうじゃん」と
僕の本質を見抜いてくる女性と出会った。

これまでに出会ってきた女性たちは
「格好良い」とか「モテそう」とか
外見を褒めてばかりいたのだけれど。

その女性は違った。

バーの隅でひっそりと飲んでいたとき
1杯で撃沈する僕をマスターが介抱し
「ここで休みな」と連れてこられた所。

そこにはバーの従業員が数人いて
ただ、僕はソファに項垂れていた。

「水、飲む?」

滲んだ視界の先から聞こえるそれに
「飲む」と子供っぽく答えてみると。

「ほら、口を開けて」と僕の口を指で開き
開いた口にコップから水を垂らして入れた。

溺れそうになった僕は「ゴボゴボ」と
喉を通った水を吐き出してしまったが
「ごめんね」と女性は僕に言ってから
丁寧に水を拭き取って僕を見て笑った。

あまりにも溺れそうだったからか
さっきまでの酔いは何処かへ行き
ただ目の前の女性と向かい合って
他愛もない会話をするだけの時間。

その他愛もない会話の中で出てきた言葉
「君って関係築くの苦手そうじゃん」が
僕の本質を見抜いているような気がして。

「やっぱり分かります?」と冗談ぽく返した。

けれど、その冗談さえも見透かされて
「可愛いね、君は。分かりやすい」と
僕の頭を撫でながら微笑みかけてくる。

そのとき、扉が開いてマスターが入ってきて
けれど気まずいと思ったのか出て行ったから
僕は女性と目を合わせてクスクス笑っていた。

「そろそろ自分の席に戻ります」と
酔いのせいにできない僕は扉を開け
さっき座っていた隅の席へと向かう。

扉が閉まるまで、女性はこちらを見て
頭を撫でた手を振って見送ってくれた。

席に着き、マスターにお酒を注文する。
「強いの飲んでみたいな」と冗談ぽく。

「さてはお前さん、また倒れる気だな」
「もうあの子は時間だから帰ったよ?」

倒れてもあの子に会えないのかと思い
「なら、いつもので」と注文を変えた。

マスターがお酒を作るために働く中
僕はバー中をグルっと見回してみる。

足繫く通っているバーだから
見慣れた光景なのだけれども
壁に飾られた写真を見つけて
僕は妙なことに気付かされた。

あんな子、このバーで働いていない。
さっきの子、写真に写る子に似てる。

きっと酔いのせいだ、と言い聞かせて
ナッツを1粒だけ口にポンと投げ込む。

「どうぞ」といった声とともに
マスターがお酒を出してくれた。

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