言の葉の夜

2026-02-18
『付き合うに至る』

今、目の前の机には2つだけ
メロンソーダが置かれていて
その先にあなたが座っている。

氷の上に置かれたチェリーの色が
僕の頬へと移っていくような感覚。

告白をする10分前。

先日、「会って話そう」と約束を交わし
今日、わざわざ喫茶店へと来てもらった。

これまでにデートみたいな雰囲気のある
遊びを幾つも繰り返してきたわけだから
きっと告白されると思われていそうだが。

「あのさ」と僕は切り出して
「来てくれてありがとう」と
あなたに感謝の言葉を伝える。

告白をする5分前。

「約束したことだから」
「私も会いたかったし」

あなたの選ぶ言葉はどれも美しく
はて、自分に釣り合うのかと困る。

「メロンソーダを隔てて話していると」
「なんか映画っぽくて凄く可愛いよね」

あまり映画を観ない僕にとっても
その言葉の情景が頭の中で浮かび
「確かに」と言ってクスッと笑う。

右側には大きな窓ガラスがあって
僕らはそれに反射して映っていて
「見て」とあなたに教えてあげた。

告白をする3分前。

「向かい合って話している男女だとさ」
「告白か別れかの2択だと思わない?」

窓ガラスに反射した僕らを眺めながら
あなたは突拍子もなくその言葉を言う。

店内では松田聖子の『甘い記憶』が流れていて
「キスしたらいけないわ」という歌詞が響く中。

「そうだね、告白か別れかの2択」
「どっちだったら嬉しいと思う?」

数分後に告白をするくせして
そんなことを訊いてしまう僕。

「ちょっと静かに」とあなたは言い
「あの頃は~」と小さな声で歌った。

綺麗に歌い上げたその声のまま
「告白のほうが嬉しいよね」と
指でチェリーを掴みながら言う。

「そのチェリーを食べたら言いたいことある」
僕はあなたに、その判断を委ねて少し待った。

置く素振りをして弄ぶあなたは
結局、口にひょいっと放り込み
種を紙に包んで皿の上に置いて。

「何、言いたいことって」と
前のめりになって訊いてくる。

「好きです。付き合ってください」
真っ直ぐに目を見つめて言い放つ。

カランと氷がグラスにぶつかる音が
僕とあなたの間で1度だけ鳴った後。

「ありがとう、凄く嬉しい」
「私も同じこと思ってたよ」

無くなったチェリーの色に
僕らの頬が染まってゆく中。

気付くと松田聖子の『赤いスイートピー』の
「好きよ 今日まで 逢った誰より」という
歌詞がタイミングよく流れてきて微笑む僕ら。

恋人になって1分が経った。

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