言の葉の夜

2025-12-30
『さりげなく、愛』

さりげなく好意を含んだ言葉を
自然と言えてしまう人はずるい。

もしくは好意を抱いてなかろうと
その言葉を選択できる人はずるい。

「好き」だけを伝えると安直だけれど
「〇〇の〇〇が好きだけど」と言えば
私のことを見てくれてるんだと思えて
その人のことを好きになりそうになる。

言われた言葉で自分は形成されるものだから
どうせなら素敵な言葉に埋もれてしまいたい。

夜、「今日、月が綺麗ですよ」と連絡が届いた。
1年ほど前に私が一方的に好意を抱いていた人。

その「月が綺麗ですよ」という言葉には
「愛しています」は含まれてないけれど
その人のことを今も思い出しているから
「明るすぎて刺激が強い」と返信をした。

少し自分でも変な言葉かな、と思ったけれど
「その表現、凄く好きです」と送られてきて
嗚呼、この人のこと、まだ好きだと実感する。

月を見ると、欠けていた。
まるであの頃の恋のよう。

私は膨れ上がる思いに終止符を打ちたく
手書きで告白文を書いてこの人に送った。

ネット恋愛だった。

日に日に苦しくなる胸を解き放ちたく
申し訳ないけれど告白文を送り付けた。

今日のように月が欠けた夜のこと。
告白に対する返信が送られてきた。

「お会いしたいです」と。

このときの私は会うに至らなかった。
ネットと現実の落差に幻滅をされて
嫌われるのではないかと思ったから。

けれど今、ふとあの頃を思い返すと
この人は何度も私の住む県へと訪れ
会いたさを素直に表現していたのに
私だけが会うことを拒んでいたよう。

申し訳ない、という言葉では
収まりきらないほどの後悔が
私めがけて襲い掛かってくる。

過去のことに耽っていると
ピコン、と通知音が鳴った。

「見て」という文字に写真が添付されていて
真っ暗な空に月がポツンと浮かんでいるもの。

あのときに見た月と同じだった。
けれど、気持ちは変わってゆく。

「あなたに1番に見てもらいたくて」と
続けられるように送られてきたから私は。

「ずるい」と送って
「綺麗」とも続けた。

さりげなく好意を含んだ言葉を
自然と言える人は危うさもあり。

けれど、それ以上に魅力があるから
私は、惹かれていったのだと思った。

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