言の葉の夜

2026-01-20
『私も愛してるよ』

3人の女性と連絡を取り合っていて
なんだかモテているような気になる。

1人は過去、告白をしてくれた女性。
1人は現在、愛し合おうとする女性。
1人は未来、必要になるだろう女性。

通知が混ざり合っていて
名前で呼ぶには危うくて
「君」と呼んでいるけど。

「君って呼ばれるのやだ」
「名前で呼んでほしいな」

過去の女性が僕を悩ませてくるから
そのときばかりは名前で呼んでみる。

スマホに文字を入力するだけなのだが
それで相手の機嫌を取れるのなら楽勝。

「今度、いつ会えるかな」
「私、早く抱きつきたい」

現在の女性が僕を困らせてくるから
そのときばかりは甘い言葉で惑わす。

「僕も早く抱きつきたいけれども」
「来月にならないと君に会えない」

別にいつだって時間に余裕はあるから
会えるけれど、そこまで愛は深くなく。

「1年後、一緒に個展しようね」
「絶対に楽しい、私と貴方なら」

未来の女性が僕を求めてくるから
楽しそうな未来予想図で嫌になる。

「君となら絶対に楽しいね」
「どういう雰囲気にしよう」

取り繕った愛を文字に変換して
右の親指で送信ボタンを押した。

あ、電話がかかってきた。

現在の女性から、僕に放たれた着信音が
夜、暗くなったマンションの屋上で響く。

出た。

「もしもし」と女性の声が聴こえてきて
「もしもし」と僕もその声に応えてみる。

「来月って言ってたけどさ」
「何日なら予定が合うかな」

嗚呼、会いたくて予定を合わせるため
わざわざ電話をしてきてくれたのかと
少しばかり嬉しくなったけれども僕は。

「まだ分からない、いつが空くか」
「でもね、僕も早く君に会いたい」

甘ったるい時間だけが流れ
冬、冷たい風が僕を撫でた。

ピコン、と通知音が鳴って
未来の女性から連絡が来る。

「そうだね、どんな雰囲気が良いんだろう」
「私、貴方の雰囲気が好きだしそのまま?」

照れてしまう、好きだなんて言われて。
長押しで見て、既読を付けずに閉じた。

スマホからは「早く会いたい」と聴こえ
「ね、ってことは両思いだね」と誑かす。

そのとき、ここへと来るために
開けて閉めた屋上の扉が開いた。

ギィ、と少し不安になる音がして
僕は怖くなって扉のほうを見ると。

過去の女性がいた。

過去、告白をしてくれたことが嬉しくて
段々、僕も惹かれていったから約束して
夜、このマンションの屋上で待ち合わせ。

来てくれたことが嬉しくて
「こっち」と手を振るけど。

女性は手で凶器のようなものを持っている。
はて、包丁か、もしくは槍みたいなものか。

身の危険を感じた僕は逃げようとしたが
屋上から出るには、扉から出るしかない。

女性がいる。

まずは話し合って落ち着いてもらおうと思い
「〇〇のこと、僕、凄く愛してるんだよ」と。

電話から「私も愛してるよ」と聴こえてきて
僕は過去最大の過ちを犯したことに気付いた。

名前を間違えるなんて。

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