2026-01-21
『私とあなたの秘密』
私がすっぴんで眼鏡をかけているとき
彼は「浅野さん」と呼んでくるくせに。
私が化粧してコンタクトのとき
彼は「結衣さん」と呼んでくる。
バイトでの出会いだった。
私がまだ、バイトに不慣れな頃
彼は惜しみなく私を助けてくれ
いつしか恋心まで奪われてゆき。
どうにか彼に可愛いと思ってもらいたく
バイトで汗をかくというのに化粧をして
少しお高めのリップもつけたりしてみる。
恋って凄く、お金がかかる。
けれどバイトでお金は稼げるわけだし
その途中で彼にも夢中になれてしまう。
付き合えたらいいのに、とは
幾度となく考えていたことだ。
つい先日のこと。
深夜1時頃、あまりにもお腹が空いた私は
家から徒歩10分のコンビニへと向かった。
いつもなら化粧して歩く道を
もう、すっぴんで歩いている。
良かった、この世に朝と夜があって
明るいと暗いという概念まであって。
見知らぬ人とすれ違おうとも
夜、お互い顔は見えないまま。
コンビニに近付く。
深夜1時でも営業してくれていて
凄く有難いのだけれどこの明るさ
今の私にとっては天敵だと思える。
フードを被って顔を見られまいと
俯いたままコンビニへと入店した。
ドン。
自動ドアが開いて入ろうとした私に
何かがぶつかってきて眼鏡が押され。
眉間あたりが痛くなって
息を詰めてしまっていた。
「大丈夫ですか?」と聞き慣れた声がして
はて、目の前には誰がいるのか想像がつく。
バイトではきちんと髪の毛を整えて
格好良い先輩という感じの彼だった。
今、目の前にいる彼は髪の毛をセットしておらず
それがまた色気みたいなもので私の鼓動が早まる。
どうかバレるまい、とコンビニへと逃げ込もうとしたが
「あれ、結衣さんじゃないですか」と見抜かれてしまい。
「へへ」と無理な笑みを浮かべて
「あれ、先輩じゃないですか」と
気付いていないフリを貫き通した。
「眼鏡かけてるんですね、似合ってる」
「なんか、浅野さんって感じがするね」
彼はコンビニの光に照らされていて
いつもより少し眩しく見えてしまう。
「なんですかそれ、浅野さんだなんて」
「いつも通り結衣さんでお願いします」
バイトのときとは違う話し方の彼は
「ダメ、今は浅野さんって気分」と
悪戯っぽく目を細めて私に言うから。
「誰にも言わないでください」
「ここだけの秘密ってことで」
私は彼との秘密が出来たことが
嬉しくてニヤけてしまっていた。
翌日も、バイトがあった。
「結衣さん、レジお願いしてもいい?」と
いつも通りの表情で彼は私にお願いをする。
「分かりました!」とだけ言って
レジで待つお客さんの接客をした。
レジ越しに机を拭いている
彼の姿が視界に入ってくる。
昨夜の「ダメ」という言葉が
今も胸の中に残り続けたまま。
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『私とあなたの秘密』
私がすっぴんで眼鏡をかけているとき
彼は「浅野さん」と呼んでくるくせに。
私が化粧してコンタクトのとき
彼は「結衣さん」と呼んでくる。
バイトでの出会いだった。
私がまだ、バイトに不慣れな頃
彼は惜しみなく私を助けてくれ
いつしか恋心まで奪われてゆき。
どうにか彼に可愛いと思ってもらいたく
バイトで汗をかくというのに化粧をして
少しお高めのリップもつけたりしてみる。
恋って凄く、お金がかかる。
けれどバイトでお金は稼げるわけだし
その途中で彼にも夢中になれてしまう。
付き合えたらいいのに、とは
幾度となく考えていたことだ。
つい先日のこと。
深夜1時頃、あまりにもお腹が空いた私は
家から徒歩10分のコンビニへと向かった。
いつもなら化粧して歩く道を
もう、すっぴんで歩いている。
良かった、この世に朝と夜があって
明るいと暗いという概念まであって。
見知らぬ人とすれ違おうとも
夜、お互い顔は見えないまま。
コンビニに近付く。
深夜1時でも営業してくれていて
凄く有難いのだけれどこの明るさ
今の私にとっては天敵だと思える。
フードを被って顔を見られまいと
俯いたままコンビニへと入店した。
ドン。
自動ドアが開いて入ろうとした私に
何かがぶつかってきて眼鏡が押され。
眉間あたりが痛くなって
息を詰めてしまっていた。
「大丈夫ですか?」と聞き慣れた声がして
はて、目の前には誰がいるのか想像がつく。
バイトではきちんと髪の毛を整えて
格好良い先輩という感じの彼だった。
今、目の前にいる彼は髪の毛をセットしておらず
それがまた色気みたいなもので私の鼓動が早まる。
どうかバレるまい、とコンビニへと逃げ込もうとしたが
「あれ、結衣さんじゃないですか」と見抜かれてしまい。
「へへ」と無理な笑みを浮かべて
「あれ、先輩じゃないですか」と
気付いていないフリを貫き通した。
「眼鏡かけてるんですね、似合ってる」
「なんか、浅野さんって感じがするね」
彼はコンビニの光に照らされていて
いつもより少し眩しく見えてしまう。
「なんですかそれ、浅野さんだなんて」
「いつも通り結衣さんでお願いします」
バイトのときとは違う話し方の彼は
「ダメ、今は浅野さんって気分」と
悪戯っぽく目を細めて私に言うから。
「誰にも言わないでください」
「ここだけの秘密ってことで」
私は彼との秘密が出来たことが
嬉しくてニヤけてしまっていた。
翌日も、バイトがあった。
「結衣さん、レジお願いしてもいい?」と
いつも通りの表情で彼は私にお願いをする。
「分かりました!」とだけ言って
レジで待つお客さんの接客をした。
レジ越しに机を拭いている
彼の姿が視界に入ってくる。
昨夜の「ダメ」という言葉が
今も胸の中に残り続けたまま。
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