言の葉の夜

2026-01-09
『残された苺』

「雪見大福2個あるから1個あげる」と
彼はほっぺを膨らませて、私に近付ける。

「いいの、食べちゃうよ」と言って
私も冗談に乗って彼のほっぺを咥え
「わぁ、美味しい」と言ってみると。

彼は膨らませたほっぺを引っ込ませて
「わ、食べられちゃったよ」と言った。

別に本当に食べたわけではないのに
彼は悲しそうな表情をしていたから
「どうぞ」と私もほっぺを膨らませ
彼が咥えられる位置へと持っていく。

嬉しそうな表情に変わった彼は
私のほっぺ目掛けて口を開けた。

「パク」と効果音みたいな音がして
「何その音」と一緒に笑っていた夜。

コンビニから自宅へ帰る
数分の散歩に過ぎないが
幸せという言葉が似合う。

ついさっき、雪見大福とピノとお酒を買って
そのときに思いついたであろう彼の一発芸は
どの女性がされても、恋に落ちるものだった。

「あくまで雪見大福を食べたって話だけど」
「これって容易にキスができる一発芸だね」

彼は自分が思いついた一発芸を
どこか誇らしげに語ってくるが
確かに凄い一発芸だとは思った。

それと同時に他の女性にしてほしくないと
妬みや嫉みみたいな感情も心の中に湧いた。

「ショートケーキの苺はいかが」と私は
唇をチューっと尖らせて彼に近付けたが。

「苺は最後のお楽しみだ」とだけ言われ
その頃にはもう、玄関へと到着していた。

「ちょっと待って、鍵開ける」と言い
ジャラジャラと音を鳴らして鍵を探す。

それから鍵を開けて、部屋に入ったのだが
今朝、脱ぎっぱなしにしたパジャマが見え
「ちょっと待ってて」と言って彼を待たせ
部屋の中を自分なりに掃除してから呼んだ。

「綺麗な部屋だね」と彼は褒めてくれ
「あれ、挟まってるのパジャマ?」と
急いで片付けたそれは、挟まっている。

「えへへ」と笑いで誤魔化そうとしたが
「生活感あって良いね」と褒めてくれた。

買ってきたアイスとお酒を嗜みながら
彼がお勧めだと言っていた映画を流し。

観る。

「あ、ここ。俺の大好きなとこ」と
彼は映画のキスシーンを私に勧めた。

「そういえば、さっき言ってた苺」
「まだ誰にも食べられてないかな」

彼は私の唇を見つめながらも
厭らし気に視線を向けてくる。

「まだ誰にも」と言って私の尖らせたそれに
「よかった」と言って彼は同じものを重ねた。

私たち、付き合っていない。

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