ところがだ。
中学受験を機に、理久は突然反抗期に突入した。正確には「兄離れ」が始まってしまったのだ。
まず一緒に風呂に入る習慣がなくなった。理由を問いただすと「もう子どもじゃないし」だの「玲央に迷惑をかけたくない」だの訳のわからない屁理屈をこね始めた。
寝るときは俺の部屋ではなく、自分の部屋のベッドで就寝するようになった。朝も昼も夜も俺の世話になりっぱなしだったのに、段々と自立を求めるような素振りを見せるようになったのだ。
ハグやキスといったスキンシップもさり気なく拒否されるようになった。これは非常にショックだった。理久の匂いや体温を感じることが極上の幸福だった俺としては、耐え難い喪失感だった。
とりあえずは、気がつかないフリをして理久をギュウギュウ抱きしめる攻撃は継続しているが、若干冷ややかな眼差しを向けられている気がしないでもない。
中学時代の成長期を経て身長が一気に伸びた理久だが、その分体も大きくなっているはずなのに、未だに華奢な印象は拭えない。以前にも増して整った魅力的な容姿になりつつある理久を見て不安が広がる。
俺の後ろに隠れがちだった性格は、打って変わって社交的になり始め、爽やかな笑みを浮かべて、周りと積極的にコミュニケーションを取ろうとする姿が増えた。
昔は天使のように可愛かったが、今は年相応の爽やかさと清潔感を兼ね備えた好青年に育っている。学校でも目立つ存在となっているようで、男女問わず多くの生徒から慕われ、「王子様」扱いされているらしい。
理久の自立を喜ぶべきなのだろうが、俺は素直に祝福できずにいた。以前のように、もっと俺を頼って欲しい。そんな日々のなか、理久が高校2年生の冬のある日、事件は起きた。
理久が家出をしてしまったのだ。
理由は母親との衝突。普段は温和で聞き分けの良い理久が珍しく反抗したと聞いた。
俺にはなかった反抗期だ。理久は家を飛び出した後、俺ではなく、友人を頼ったらしい。地味に悲しい。
その日から、理久の纏う空気が微妙に変化した。どこか晴れやかで吹っ切れたような印象を受ける。母とは一応和解したようだが、それとは別に理久の中で何かが変わった感じがした。
俺は大学に入学後、父に命じられて一人暮らしをしているのだが、理久に会えないと禁断症状が出るので、実家には時間を捻出してできるだけ顔を出すようにしている。
以前はいつも家にいたのに、理久は最近、週末になると外出するようになっていた。友人の家で勉強していると説明されたが、何となくあやしいのだ。
実は年上の彼女がいて、家出のときも、そこに泊まったのではないか?
疑惑が晴れなかった俺は、理久の『友人』に電話を代わってもらったのだが、普通にクラスメイトの氷室くんだった。一応害は無さそうで、そのときは、ホッとした記憶がある。だがしかし。
今週末も、理久はその氷室くんの家で勉強会をしているとかで朝帰りだ。家出した際、一晩一緒にいて、さらに打ち解けたのか、たまに彼の家に泊まって、翌日に帰ってくるようになった。
ちょっと仲が良すぎではないか?


