伊藤さんの代打でバイトに出た土曜日、あの日以来だったえみ羽もシフトインしていた。
けれど週末の忙しさで言葉を交わすことはなかった。
ランチ時のピークが終わり、午後のティータイムになると、見知った顔が来店した。
忘れるはずがない、高校三年の時の担任だった武藤先生──
俺にはまだ気づいていないようだったので、注文のアイスカフェオレを作って席まで運んだ。
「先生、久しぶりです。川嶋です」
お待たせしましたと、言葉を添えてグラスをテーブルに置くと、先生は驚きを表情に浮かべて見上げた。
「川嶋緑か。驚いたな」
「はは、何でフルネーム」
「職業病だな、卒業生はフルネームで覚えておかないと忘れてしまうからな」
「流石に俺の事は忘れないんじゃないですか?」
少しだけほくそ笑んで、テーブルを後にする。
先生は相変わらず、重めの前髪をもっさりとさせ、度のきつい眼鏡をかけてた。
田崎とはどうなったんだろう。
──まだ続いてるよな?
大学を卒業したら結婚するって田崎は言っていたけど。
あの動画以降、田崎とは連絡を取ってないんで、二人がどうなったのかは知らない。
なんとはなしに先生を見ていると、ふと顔を上げ、カウンター内にいる俺に合図を送ってきた。
追加の注文かなと思いメニュー表を持っていった。
「バイト上がるの何時だ?」
メニュー表を見せるとプリンを指差しながら先生は訊いた。
「六時ですけど」
「その後予定は?」
「ないです」
「そう。じゃあ駅ビルのA.Gバーガーで待ってるよ。俺一人だから安心して」
意味深なのは決して田崎とは一緒ではないという事だ。
「積もる話なんてないですけど。プリン追加でいいですか?」
「ああ、宜しく」
ホールにいたえみ羽と目が合ったので、八番テーブルプリン追加と伝えて、俺はカウンターに戻った。
バイトを上がるとそのまま真っすぐ駅ビルに向かった。
アメリカンダイナーの店内に入ると、音楽が大きな音で流れ、随分と賑やかだった。
「元気そうだな」
「まだ卒業して五ヶ月ですよ、そうそう変わらないって」
先生とは卒業式以来だ。
「田崎とはまだ?」
「もちろん、つき合ってるよ。ただ幸が二十歳になる迄は、交際は自粛の約束なんでね」
先生は頼んでいたコロナビールが届くと、ライムを搾って瓶の中へ落とした。
適当に頼めと言わんばかりにメニューを渡され、ジンジャーエールとフードを二つ注文した。
「よかった、卒業してあっさり別れてたら蹴り入れる所だったわ」
「別れるわけないだろ」
迷いのない言い。
担任として教壇に立っていた頃とは違う。
酒を飲み、砕けた口調で話す彼は、ただの一人の男に見えた。
ピザを一切れ皿に乗せると、ポケットに入れていた携帯が振動した。見ると耀司からだった。
『バイト終わった?』
通知だけ見て開かずにいると『暇して駅前』『合流しよ』と続いた。
「川嶋はどうだ?」
先生に問われてハッと顔を上げる。
「なにも……」
反射的に、携帯を隠すようにポケットへ戻した。
「冬休みに入る前、俺と話したことを覚えてるか?」
「──はい」
全力で大学合格を勝ち取れと。
そうして勝ち取ってから自分と向き合ってみろと。
達成の後に人生観が変わると先生は言ってくれた。
「合格の連絡を受けた時、おまえの気持ちは本物なんだって感動したよ。D判定ひっくり返したんだからな」
「先生には本当に感謝してます」
冬休み以降は携帯の電源は切り、連絡や娯楽の全てを絶った。
予備校の自習室に朝から夜十時まで籠り、ひたすら勉強と向き合った。
なりふり構わずというのはああいうことを言うんだと、振り返ると思う。
「山吹と同じ大学だろう? よかったじゃないか」
「──なんで」
思わぬ名前が出て、フォークに刺していたポテトがコロリと落ちた。
「実は幸に聞いて知ってるんだ。川嶋の好きな相手」
「ひでえ、俺の話なんかしないでよ……」
「ははは、でも川嶋は俺と幸の関係を知ってるのに、俺は川嶋の秘密を知らないのはフェアじゃないだろ?」
悪いとは微塵も思っていない口調で、先生はビールを飲んだ。
「先生って学校じゃあクソ真面目で陰キャなのに、本当は結構ズルい教師だね」
「ズルいじゃなくて、悪い、だな。生徒に手を出す悪い教師だ」
ニッコリと笑みを浮かべた。
一年間担任だったけれど、先生のこんなコミカルな顔は知らない。
「山吹に彼女は?」
「いない」
「いたことも?」
「ない」
「即答だなあ、言わせんなよって独占欲すら感じるね」
揶揄ってるでもなく、先生は感心するように頷いていた。
「川嶋は、D判定をひっくり返してМ大に合格したワケだが、どうだ? 自分の中で成長はあったか?」
「学びはありました。努力は報われるってのを体感したんで」
「それを掴み取った世界はどうだ?」
合格で一番に思い浮かぶのは、耀司の笑顔。
滅多にはしゃがず、羽目を外すことのない耀司が、我を忘れて喜んでいる。
そんな耀司に、俺は、胸が痛くて切なくなって──
──一生。
あの笑顔を失くしたくないんだと。
「楽しいですよ。今でも一緒にいられるんで」
チラッと時計を見る。通知が来てから三十分経っていた。
「気になる? 山吹からなら返信した方がいいんじゃないか?」
「──ハイ」
ポケットの中で携帯を握る手を、先生は気づいていた。
『悪い、買い物してるから遅くなる』
そう打って耀司に送った。
「川嶋が幸とニセの恋人になっていた間も、山吹は彼女を作らなかったんだろう? 幼馴染の居心地ってのはそんなにいいものなのか?」
「否定はしないです。確かに居心地いいですし」
「じゃあ山吹が大学の指定校推薦、М大取れるのにわざわざ一般で受けたの知ってるか?」
「え、──知らない」
無意識に声は低くなっていた。
「夏の三者面談で、母親は指定校推薦を希望してたし、俺も山吹の内申なら受かると勧めた。でも小論文と面接が苦手だからって理由をつけて、一般で受けるって蹴ってきた」
「うそ」
初めて知る話に、頭を打たれた衝撃だった。
推薦なら必要のなかった予備校に通って、二月の一般入試まで俺と一緒にやりきったってことになる。
それはなんのために?
「俺はてっきりМ大の上──W大を目指すかと思ってたが、確実にМ大を取りに行ったな」
耀司が合格した時に俺はケーキを買ってお祝いしたけれど、知ってたら、きっと俺は──あんなふうに笑えてなかったはずだ。
「川嶋と山吹は出会った時、磁石のようにピタッと気も波長も合ったんだろう。それが双方で心地いいと感じたんじゃないか? 相手に対して好意を持ってるから──一緒にいたいんだと思うんだろう。自然な感情だ」
「はい」
「合いすぎる相手ほど、感情は乱れやすい。だからこそ秘密を持たれると腹も立つ。さっき知らなかった話を俺から聞いて川嶋はムッとしたが、今は山吹に内緒にされていたと知って心がざわついてるだろ」
頭を垂れて、テーブルの上に乗せた拳を強く握り込んだ。
先生の言っていることが、あんまりにも俺の心そのまんまだったからだ。
「自分だけが苦しんでいると思うのは、人が一番陥りやすい勘違いだな。山吹も腹の中に抱えてるさ。川嶋は山吹を散々振り回してるんだろうな」
「俺が耀司を振り回すなんて……」
「なら俺たちのことを話せばいい。なぜ言わない? 山吹が言いふらす奴じゃないって川嶋が一番わかってるだろう?」
わかってる、もちろん耀司がそんな奴じゃないってことは、俺が一番わかってる。
「駄目なんだ……田崎を好きだったって過去がなきゃ、耀司の傍にいれない」
女の子が苦手だ。それは耀司だけじゃなく、ワタルたちも知っている。
でも、それを耀司のせいにされたくなかった。
だから女の子を好きになった過去が欲しかった。
「頑なだな、いっそ清々しいくらい」
「先生の恋人なのにすみません……」
「さっき言ったけど、自分の持ってる感情は少なからず相手も持ってる。川嶋はもっと山吹の心に寄り添うべきだと思うよ。何も知らされずに幼馴染でいることを選ばされてる山吹の方が、苦しい立場かもしれないな」
「先生あんまエグんないでよ」
「ははっ、そんなつもりはないさ。ただ幸が好きなんて設定とっとと取っ払って本当の自分を見せろ。それが川嶋の第一歩になるぞ」
教壇に立つ時とは違った顔をして砕けて笑った。
耀司が好きだ。
どうして俺たちは、昔のままじゃいられないんだろう。
お互いをわかり合えていたなんて、きっと嘘だ。
耀司の気持ちなんて、俺は何一つわかっていない。
そろそろ出るか、という先生の声に、俺たちは腰を上げた。
時計を見ると、一時間ほどが過ぎていた。
店を出て、駅ビルのエレベーターを降り、直結する改札まで先生と並んで歩く。
「田崎は大阪の大学ですよね、心理学かなんかでしたっけ?」
「そう、課題や実習の多い学部だからすでにヒーヒーしてるよ。大学出たら結婚なんて言ってるけど、院まで行くだろうから六年だよ、気の長い話さ」
「その約束があるから頑張れるんでしょ」
そう呟くと先生は意外だったのか、目を見開いて頷いた。
「ああ、約束か。約束なのか」
「そうでしょ、結婚て人参ぶら下げてるから走れるんだし。みんな大学入ると彼氏彼女欲しい連呼して恋バナしかしねーし、マチアブばっかで恋愛に振り回されてんなって思うよ。それを楽しんでる奴らもいるけどさ。田崎は先生がいるし、そーゆうのに振り回されないで勉強に集中できるんじゃん?」
「そうか、俺がいるからか」
「さっきも田崎が心変わりしても仕方ないなんて言ってたけど、案外先生も自信ないんだな」
「ないよ、俺はおまえらの言ってた通りの陰キャな男だよ」
「あはは、自分で言うー?! もしかして根に持ってた?」
「持つか、子供相手に。じゃあな、時間取って悪かったな、山吹に連絡しろよ」
駅の出口が見え、先生は方向を変えた。
「あ、はい。ご馳走様でした。先生、店、また来てください」
小さくお辞儀をしてから駅の外に出る階段を昇って行く。
携帯を取り出し、耀司に連絡を入れようと耳に当てた時──
「緑っ!」
後ろから腕を掴まれて振り返った。
「耀司」
階段を駆け上がってきたのか、前髪が上がり額が全開になっている。
息を細かく刻んでいた。
「おい、なんでムトーちゃんといんだよ、メッセも未読のままだし」
「悪い、先生が偶然バ先に来て──」
少し遅れて後ろからひょっこりと女の子が顔を出し、咄嗟口を噤む。
今日バイトで一緒だったえみ羽だった。
──なんで。
「あ、私は偶然バ先で山吹君と会っただけで」
俺の一瞬の表情を読み取ったのか、えみ羽が取り繕うように説明する。
けれど、俺は固まったままだった。
なんでこの子と一緒にいるんだよ。
興味ないって言って、俺には喋るなって言っておいて。
おまえらのほうが恋人みたいじゃん。
「じゃあ私はここで──」
帰ろうとするえみ羽に咄嗟声を掛けた。
「いいよ、耀司、送ってきなよ。俺先帰るから」
「おい待てよ、緑っ」
そんな俺に耀司が声を上げたけど、聞く気はなかった。
「じゃあな」
耀司の呼ぶ声を振り切って、残りの階段を昇り切る。
雑踏に紛れ込むと、ざわめく駅構内は容易に俺の姿を消してくれた。
それでも足は止まらず、駅から駆け出す。
横断歩道を渡り、家までの道のりを全力で走った。
普段ならバスや自転車を使う距離だけれど、今はこの場所から一分一秒でも早く離れたかった。
走って、走って。
とにかく遠くへ──
駅前の繁華街を抜けて、飲食店の灯りもなくなったところで足が止まった。
ハァハァと口で呼吸し、膝に手をついて息を整える。
土曜の道路はまだ車も多く走行していた。
その流れを見ながら起き上がると、歩道をのろのろと歩く。
嫉妬して、逃げて、加減も忘れて走るなんて、何やってんだろ、俺。
中高のマラソン大会でも、こんな全力疾走はしなかったのに。
後ろで足音がした。
風が前方から吹いて、流れる汗が冷たく皮膚を掠めて行く。
──ああ嫌だ、どんどん近づいてくる。
この足音が誰のなのか、俺は見なくてもわかってしまう。
スニーカーがコンクリートを蹴る音。
脚の長い一定のリズム。
もうすぐ名前を呼ばれる。
「緑っ」
脚は無意識にまた走り出していた。
ガクガクになった脚じゃあ速く走る事なんてできないのに、それでも動かずにいられなかった。
「何で……追いかけて、来るんだよっ」
すぐ背後にいるのがわかって、息の切れた声で搾りだす。
「緑が逃げるからだろ!」
肩を掴まれて観念した。
もう息も脚も限界だった。
歩道で二人、膝に手をついて、ハァハァと大きく息をする。
まるで走り切ったランナーのように、俺と耀司はいつまでも呼吸を整えていた。
耀司の手が俺の手を取った。
「離せよっ」
「離したらまた逃げるだろっ」
「だからって道端でやめろっ。誰が見てるかわかんねーだろ」
「いいだろ、誰が見てたって」
遠くからけたたましいサイレンを鳴らした救急車が通り過ぎて行く。
その音の余韻だけが辺りに響いていた。
耀司は俺の手を掴んだまま歩き始めた。引っ張られるまま歩き出す。
いつだったかも、女子と二人でいる耀司を見て駆け出したことがあった。
その時も同じように耀司は俺を追いかけてきた。
──クソっ。
こうやっていつも幼馴染を優先するから、俺は耀司しか選べないんだ。
「あの子いいのかよ」
何も言わずに歩く耀司の背中に呟いた。
耀司はチラッとだけ振り向く。
「別に駅まで一緒だっただけ。……てか、俺のことはいいんだよ」
足を止めた耀司が、今度はこっちを向いた。
「なんでムトーちゃんといたわけ? 緑」
低い声だった。
「バ先に偶然来たんだよ、マジで」
「バイト上がったのは六時だろ? 俺、何度もメッセ送ったのに、なんで無視した?」
「……ごめん、タイミング逃した」
「タイミングって何だよ。逃すほど何かあったのかよ」
耀司の声に苛立ちが混じる。
先生に飯を誘われたなんて、今は言えなかった。田崎と繋がってることがバレたら、また耀司を傷つける。
「正直に言えよ。なんでムトーちゃんといたの」
「……っ」
答えられない。答えたら、全部バレる。
沈黙が続いて、耀司は苛立たしげに髪をかき上げた。
「……はぁ、もういい」
吐き捨てるように言って、耀司は歩き出す。
慌てて追いかけた。
「待てよ、耀司」
「緑が話す気ないなら、俺も話すことねーし」
「だから関係ないって──それより、沼端さんのことは?」
話を逸らすように言った。
耀司の足がぴたりと止まる。
「……なんで沼端の名前が出てくんの」
「だって一緒にいたじゃん。さっき、駅で」
振り返った耀司の目が、怪訝そうに細められた。
「緑が連絡寄越さねーから、まだバ先かと思って迎えに行ったんだよ。そしたら緑はとっくに上がってるって言われて、外出たら沼端に会って──」
「そこからどうしたの」
遮るように訊いた。自分でも驚くほど、声が硬かった。
耀司がじっと俺を見る。
「……なに、その顔」
「は?」
「なんで緑がムカついてるわけ?」
耀司が一歩近づいてきた。
街灯の明かりが、耀司の顔を照らしている。いつもより鋭い目。でも、その奥にあるのは怒りじゃなくて──探るような光だった。
「沼端に告られた?」
先に言った。言わなきゃ、こっちがおかしくなりそうだったから。
耀司は黙ったまま、俺を見ていた。
その沈黙に耐えられなくて口は勝手に動いた。
「だってあの子、ずっと耀司のこと見てたし。あんな目で見られて、何もないわけないじゃん」
「……何もないけど」
「嘘」
「嘘じゃねーよ」
耀司の手が、俺の腕を掴んだ。そのまま引っ張られて、足が勝手に動き出す。
「告られてない。そもそも沼端は、俺じゃなくておまえに用があったんだよ」
「は? 俺?」
「ラテアートのこと相談したいって。緑がシフト変わって会えなかったから、俺に訊いてきた」
予想外の答えに、頭が真っ白になった。
「それ……本当?」
「本当だよ。だから俺が代わりに話聞いただけ。おまえに伝えといてって言われた」
耀司は不機嫌そうに前を向いたまま、ぶっきらぼうに続けた。
「何を相談したいのか聞いた。カフェでラテやりたいんだと。おまえに近づく口実かと思ったら、マジでラテアートの話しかしねーし」
「……」
「てか、緑に相談って聞いた時点でイラついたから、俺が先に全部聞いたんだよ。悪いかよ」
拗ねたような言い方だった。
俺は思わず足を止めた。繋がれた手に引っ張られて、耀司も止まる。
「……なんで耀司がイラつくわけ」
「わかんねーの」
振り返った耀司の顔は、不機嫌そうなのに、どこか傷ついているようにも見えた。
「俺の知らない所で、緑が誰かと仲良くなってんのが嫌なんだよ」
その声が、やけに静かに響いた。
「沼端が緑に相談したいって言った時、正直ムカついた。俺を通さないで緑に近づこうとしてるって思って」
「……」
「独占欲強いって言いたきゃ言えよ。俺は昔からこうなんだから」
耀司は俺の腕を掴んだまま、ぐいっと引っ張った。
「で、俺の質問にはまだ答えてねーんだけど」
「……なに」
「偶然会ったムトーちゃんと、店変えてまで話してた理由。言えないことなの?」
耀司の目が、真っ直ぐ俺を射抜いた。
嫉妬を隠さない声。不安を隠せない目。
俺だけじゃない。耀司も同じなんだ。
知らない場所で、知らない誰かと──そう思うだけで不安になるのは、俺だけじゃなかったんだ。
けれど、言えなかった。
先生と田崎のことを話したら、ずっと隠してきた嘘が全部バレる。
「……ごめん、今は言えない」
絞り出すように言った。
耀司は一瞬、傷ついたような顔をした。
そしてすぐに無表情に戻ると、小さく息を吐いた。
「……そう」
俺の腕を離すかと思ったのに、耀司は手を滑らせて、俺の手を握った。
「帰るぞ」
「え、」
「手ぇ離したら、おまえまた逃げるだろ」
そう言って、耀司は歩き出した。
繋がれた手が、強く握られている。
怒っているのか、拗ねているのか。
それとも──俺を離したくないだけなのか。
答えは訊けないまま、俺は耀司に引かれて夜道を歩いた。
