これは俺からのささやかな復讐




 ボーッと取り残されたベンチに座っていた。
 動くことができなくて、ただただ暗い夜空を眺めていた。
 ──俺はどうすればよかったんだろう。
 幼馴染でいられなくなるのが怖かった。けれど嫌われてしまうのは想像以上に辛い。

 もう終わりかな。

 友情に執着する耀司に嘘をついて、騙すようなことをしたんだから。

 それはきっと、耀司が昔女の子たちを警戒するようになった行為よりも酷い。

 握っていたままだった携帯がメッセージを着信し、無意識に見ていた。
 また田崎からだった。
 怒りだとかそういう感情はもう湧く気もなくて、文面に目をやった。
 事故という文字が目に飛び込み「──は?」と声を上げた。
 瞬間頭の中で警告音が鳴る。
 画面を食い入るように見ると、「先生」と「事故」という文字だけが大きく映って見えた。
 俺は急いで折り返し電話をした。

「おい、事故ってどうゆう事だよ?! さっきまで駅にいたんだぞ」

『ごめん、何度も、ごめん。先生が、お願い、川嶋っ、お願いっ、先生がっ』

 田崎は泣いていた。
 混乱してるようで、言葉が出てこないようだった。

「先生がどうしたんだよ、ちゃんと説明しろっ」
『川嶋と会った後、駅を出てすぐ、私に電話してきて、話してる時に、車のぶつかる音がしたの、それで先生のうめく声がっ……っ』
「嘘だろ?!」

 先生は駅で西口から出て行った。俺は北口から出て繁華街に向けて走って来た。

 事故なんてそんなの──

 そう言えば聞き覚えのある音を聴いた。
 そうだ、走っていた時、サイレンだ。
 耀司に手を掴まれて足を止めた時──救急車が通り過ぎて行ったじゃないか。

 もしかして、あれに先生が?

『どうしよう、先生が、死んじゃったら、どうしよう。ねえ、川嶋、先生と一緒にいたんでしょ、先生、知らない? うっ……うぅっ……どうしたら、私……』
「馬鹿、落ち着け。まだ先生って決まったわけじゃねーだろっ」
『どうやって、こんな大阪からじゃ何もわからないよっ。そうだ、今から新幹線っ』

 そう言って田崎からの通話が切れた。
 まさかこれから東京まで来るつもりか?
 今の時間は二十時を迎えるところだった。
 新幹線はまだある。
 SNSで検索をかけると、駅前であった交通事故の情報がたくさん上がっていた。
 コントロールを失った車が歩行者道路に突っ込んだという目撃者の呟き。ぐしゃぐしゃになった車体の画像が何枚もある。

 これだ。
 先生と別れたのは一時間前──

 耀司、先生、田崎。

 一度のことが頭の中に混在してしまって整理がつかない。

 俺は何をしたらいい?

 ──耀司。

 スマホを握る。田崎からの電話の内容を知らせて誤解を解く?
 それが今一番最善なことなのか?
 俺はいつだって耀司を一番に優先して来た。
 田崎を優先したことなんて一度もない。

 なのに今は──どうしたらいいのかわからない。

 あんなにも傷ついた顔をした耀司に、今更どんな態度で伝えるんだよ。

 誰にも言えない。
 全て自分で解決するしかないんだ。
 ああでも、間違えたくない。
 これ以上悪い方向に進みたくない。

 そうして八方ふさがりになった自分が──見えなくなってしまった。