高校入学初日。
あいうえお順は嫌いだ。運が悪いとクラスの自己紹介で一番手になる。
「須山西中から来た上戸響です。中学の部活は合唱部、得意な教科は数学です。趣味は特にありません」さっさと自己紹介を済ませ、座る。
「上戸、起立。『趣味はありません』じゃダメだ。何でもいいから答えなさい」担任に言われ、仕方なく立ち上がる。
「最近はやってないけど、昔はヒューマンビートボックスやってました。1年間よろしくお願いします」
礼をして座る。自己紹介は次の人に移った。
志望校の県立金ヶ崎高等学校に入学することができた。
県でも上位の進学校への合格に母は大喜びし、祖父母まで入学式にやってきた。
だが、僕は憂鬱だった。
昨日、家に美濃先生がやってきたのだ。いい先生ではあった。それは否定しない。
だが、聞き間違いでなければ、なぜか母と付き合っている。
祖父母と美濃先生、母と五人で食事に行ったが動揺して、口もきけず、先生のほうが見られなかった。
入学式も嬉しいんだか悲しいんだか分からないまま終わり、教室にやってきて、これからの高校生活を憂鬱に感じた。
山ほど教科書を配られて、今日の予定はおしまいだ。胸についた祝入学と書いたリボンのついた造花がゆれ、窓の外から見える一面のうすピンクの桜を見ながら階段を下りる。
「上戸だよね?オレ、春日」
走って追いついてきたクラスメイトに声をかけられる。
「よろしく」
「上戸のこと知ってるんだ。俺も合唱部で、県大会で見かけた。高校でも合唱やる?俺は考え中」
「俺も」
「ビートボックスもできるんだ?イベントに出たりしてる?」やけに馴れ馴れしい。
「前に趣味でやってたってだけ」
下駄箱に真新しい上履きをしまい、ローファーを出す。26センチ。身長はこの1年で、なんとか167センチまで伸びた。
「ビートボックス聞いてみたいな」春日はまだこの話題を続けるようだ。
「練習してないから、簡単なやつなら」
零児が必死に練習していた基礎的ルーティンをやろうとしたが1年近くやっていない。始めてすぐにつっかえ、やめる。
「ごめん、やっぱ無…」
真後ろから重たいバスドラムが聞こえ、つなげて体が震えるようなインワードリップベース。振り返る間もなく、ガバっとでかい奴が後ろから抱きついてきた。
「うわっ」
「響ぃ、腕がおちたんじゃねえか?」
耳元で聞こえる懐かしい声。この声を聞くために、彼との約束を果たすために、自分はこの高校へ来たのだ、と思い出す。
抱きしめられたまま振り返ると思った通りの人がそこにいた。
「零児、坊主?」
零児の頭は坊主になっていて、体つきが一回り大きくなっている。
「いきなり髪の話かよ。元気そうだな、響」
なんて明るい笑顔だろう。あの頃の零児につきまとっていた影のようなものは全くない。
「響との約束通り、来たぜ。県立金ヶ崎」
何か言いたかった。でも言葉が口から出ては来なかった。
「なんだよ、嬉しすぎて声が出ない?」
僕は頷き、零児に抱きついた。
あいうえお順は嫌いだ。運が悪いとクラスの自己紹介で一番手になる。
「須山西中から来た上戸響です。中学の部活は合唱部、得意な教科は数学です。趣味は特にありません」さっさと自己紹介を済ませ、座る。
「上戸、起立。『趣味はありません』じゃダメだ。何でもいいから答えなさい」担任に言われ、仕方なく立ち上がる。
「最近はやってないけど、昔はヒューマンビートボックスやってました。1年間よろしくお願いします」
礼をして座る。自己紹介は次の人に移った。
志望校の県立金ヶ崎高等学校に入学することができた。
県でも上位の進学校への合格に母は大喜びし、祖父母まで入学式にやってきた。
だが、僕は憂鬱だった。
昨日、家に美濃先生がやってきたのだ。いい先生ではあった。それは否定しない。
だが、聞き間違いでなければ、なぜか母と付き合っている。
祖父母と美濃先生、母と五人で食事に行ったが動揺して、口もきけず、先生のほうが見られなかった。
入学式も嬉しいんだか悲しいんだか分からないまま終わり、教室にやってきて、これからの高校生活を憂鬱に感じた。
山ほど教科書を配られて、今日の予定はおしまいだ。胸についた祝入学と書いたリボンのついた造花がゆれ、窓の外から見える一面のうすピンクの桜を見ながら階段を下りる。
「上戸だよね?オレ、春日」
走って追いついてきたクラスメイトに声をかけられる。
「よろしく」
「上戸のこと知ってるんだ。俺も合唱部で、県大会で見かけた。高校でも合唱やる?俺は考え中」
「俺も」
「ビートボックスもできるんだ?イベントに出たりしてる?」やけに馴れ馴れしい。
「前に趣味でやってたってだけ」
下駄箱に真新しい上履きをしまい、ローファーを出す。26センチ。身長はこの1年で、なんとか167センチまで伸びた。
「ビートボックス聞いてみたいな」春日はまだこの話題を続けるようだ。
「練習してないから、簡単なやつなら」
零児が必死に練習していた基礎的ルーティンをやろうとしたが1年近くやっていない。始めてすぐにつっかえ、やめる。
「ごめん、やっぱ無…」
真後ろから重たいバスドラムが聞こえ、つなげて体が震えるようなインワードリップベース。振り返る間もなく、ガバっとでかい奴が後ろから抱きついてきた。
「うわっ」
「響ぃ、腕がおちたんじゃねえか?」
耳元で聞こえる懐かしい声。この声を聞くために、彼との約束を果たすために、自分はこの高校へ来たのだ、と思い出す。
抱きしめられたまま振り返ると思った通りの人がそこにいた。
「零児、坊主?」
零児の頭は坊主になっていて、体つきが一回り大きくなっている。
「いきなり髪の話かよ。元気そうだな、響」
なんて明るい笑顔だろう。あの頃の零児につきまとっていた影のようなものは全くない。
「響との約束通り、来たぜ。県立金ヶ崎」
何か言いたかった。でも言葉が口から出ては来なかった。
「なんだよ、嬉しすぎて声が出ない?」
僕は頷き、零児に抱きついた。



