月曜日の始業式から始まり、今日は金曜日。1週間はあっという間だった。
「零児、ついに隣の部屋から苦情が来た。毎日声がうるさいって」
「やっぱりな。昨日俺たちがやってる時、2回壁を叩かれた。もう響の家でやるのは無理だろ」
「えー、でも外でやるのは恥ずかしい」
前の席の辻村が振り返った。
「坂本と上戸の2人で毎日何してるんだよ?あてていい?ゲームだろ」
「ハズレ」
「ヒント」
「えーっと、道具は使わない。一人でもできるけど、2人でしたほうがすごい。動画を見て、2人で練習してる。上手くできると頭がしびれる感じがして……」
「エロいこと?」
僕は下品な冗談に思わずわらってしまい、零児は嫌そうな顔をした。
「辻村最悪!なんでそんなこと思ったんだよ、アハハ」
「一人でも出来るけど2人でしたほうがよくて、上手くできると頭がしびれる。それで隣の部屋から壁叩かれてるのにやめられないんだろ」
「俺と零児が?キッショ!」下品な勘違いに、笑いが止まらない。
「上戸ってけっこう下ネタで笑うよな、坂本は本気で怒った?潔癖ー」
「黙れ辻村。なぁ響、何してるか言ってもいいよな?」
「うん。2人でビートボックスしてる。ヒューマンビートボックス」
「昔流行ったやつ?」
「そう。俺がビートボックスすごい好きで、零児を無理やり付き合わせてんの」
「俺も好きでやってる」
「仲いいじゃん。どんなの練習してる?やって見せて」
「やだよ。ダサいって言われたくない」
机にもたれていた零児が体を起こした。
「ビートボックスはダサくねえだろ。俺がやる」
零児がバスドラムの低音を数度響かせる。辻村の表情に軽い驚きが浮かんだ。
零児は基礎的なテクニックで出来る、ルーティンをやった。一音一音が丁寧でリズムも完璧だ。
おぉーとまわりから軽い称賛の声がきこえる。
「ダサくないだろ。響は俺の百倍上手い」
「上戸もやれよ」辻村がこちらを見ている。辻村だけでなく、教室のあちらこちらから生徒たちが振り返り、こちらを見ていた。
「零児、一緒にアレやって」
零児は目線を逸らした。集中する時の癖だ。
僕はファルセットでアメリカ人歌手の失恋の曲を歌いながらビートボックスを挟み、零児はルーティンを応用してそれに合わせた。
零児が好きなこの曲を2人でやろうと、何度も練習した。月曜からの練習の成果はそれなりで、情けない部分もありつつなんとか格好がつき、歌い終わる頃にはクラスは静かになっていた。
「ブンツクするのはそこまで。帰りのホームルーム始めるぞ」
美濃先生が教室に入ってきていい、皆それぞれの席に戻る。
「ビートボックスの事を『ブンツク』だって」笑いを噛み殺しながら零児に言うと、零児は下を向いて肩を震わせ、こらえきれず吹き出して美濃先生に怒られた。



