ゆっくりと唇を離すと、名残惜しそうに彼が伊織の唇を蕩けるような眼差しで見つめる。
「砂川さん……このまま続きをしてもいいですか?」
「んっ……」
彼を抱き寄せながら耳元で囁く。彼は身体をピクリと震わせながら小さく頷いた。
彼を抱き上げ、温泉を出る。さっと大きなバスタオルで彼を包み、そのまま寝室へ連れていった。
彼を抱いたままベッドの中央に腰を下ろす。もう一度軽くキスをしてから、そっとバスタオルを捲る。
「あなたの肌を目にした時から、ずっと触れたいと思っていました」
指先で優しく触れる。砂川さんは身体をぴくっと震わせ「あっ……」と甘い声を上げた。
「怖いですか?」
「い、いえ……恥ずかしくて……私、こういうの初めてで……すみません」
「大丈夫ですよ、私も初めてですから……」
「えっ?」
彼が目を丸くして驚く姿が可愛くて、もう一度唇にキスを贈った。
「あの、安慶名さん……初めてって、本当ですか?」
「あなたに嘘なんてつきませんよ。本当です」
はっきりと告げると彼はふわっとした笑顔を見せる。
「すごく嬉しいです」
そう言ってくれた気持ちが嬉しくて彼をそのまま抱きしめた。
* * *
砂川さんの笑顔が眩しい。
「あの、今更ですが……ゆっくりおしゃべりでもしませんか? あなたのことが知りたいんです。泡盛でも呑みながら」
「いいですね」
女神のように優しく微笑む彼に「準備をしておくからゆっくり来てください」と声をかけ、急いで脱衣所へ向かった。
自分の持ってきた寝巻きを着ようと手に取ったが、彼とお揃いにしたくなった。脱衣所の棚から浴衣を取り出しさっと身につける。姿見の前でおかしいところがないかと一応確認をした。
乱れた寝室のシーツを整えてからキッチンに向かう。さっき彼が用意してくれていた古酒とおちょこを用意して、広縁のテーブルに準備した。
大きな窓から入ってくる星と月の光があまりにも綺麗だったから、庭と広縁の明かりを消した。この風情がある景色を一緒に見られる相手ができたと思うだけで幸せに満ち足りた気持ちになる。
「安慶名さん……」
その声に振り向くと同じ浴衣を身に纏った彼がこちらを見て立っていた。
「砂川さん、危ないのでそこにいてください」
明かりを消した薄暗い部屋で転んではいけない。伊織は素早く彼を迎えにいった。
「すみません、月明かりが綺麗で思わず電気を消してしまったもので」
「いえ、雰囲気が良くてすごく綺麗です」
彼の手を引きながら広縁の椅子に座らせる。
「浴衣……とてもお似合いです」
正直な気持ちを伝えると、彼は少し照れながらも「安慶名さんの方がとてもよくお似合いですよ」と微笑んでくれた。
広縁に置いてある椅子に砂川さんを案内して隣に腰を下ろした。一人で座るには少し大きくゆったりとしていた椅子だったが、二人で座るには少し小さくピッタリと寄り添ってしまう。
「砂川さん、狭くないですか?」
「いいえ、この方が安慶名さんにくっついていられて嬉しいですよ」
彼の一言にいつもドキドキさせられる。
浅香さんのホテルで、しかも涼平さんや倉橋さんのために作られた離れに置かれている椅子だ。
もしかしたらこの椅子は元々二人でくっついて座るために計算されているものかもしれない。
さすがだと感心しつつ、砂川さんと寄り添いながら月見酒を楽しむことにした。
古酒はお猪口やグラスに注いでから十分ほど空けたほうが古酒の芳香な香りが広がって美味しさが増すと言われている。
それを知っているからか、彼はテーブルに準備しておいた古酒をお猪口に注ぐとそのまま、テーブルに置いておいた。
しんと静まり返った部屋に月明かりが差し込んで彼をほんのりと照らしている。彼と一緒ならこの静かな時間でさえ愛おしく感じる。彼がそっと伊織の肩に頭を乗せてくる。その僅かな重みがより幸せにさせてくれる。
「私……この部屋には石垣出張の折に何度か泊まらせていただいているんですが、こんなゆったりとした時間を過ごしたのは初めてです。それに……ここから見る月がこんなにも綺麗だと思ったのも初めてです。それは安慶名さんと一緒だからかもしれないですね」
そんな嬉しいことを言ってくれるなんて……どれだけ伊織を喜ばせてくれるのだろう。
「本当にここから見る景色は美しいですね。でも、私には貴方が一番美しく見えますよ」
顔を近づけると、彼の綺麗な瞳がゆっくりと閉じていく。彼が伊織とのキスを嫌がっていない。その喜びに震えながら、優しく唇を重ね合わせた。
甘い唇を堪能し、深いキスをすればまた我慢できなくなることを自分でわかっている。
だからこそ、そっと重ねるだけの軽いキス。でもそれだけで満足だった。
静かな部屋に小さなリップ音が響く。それを幸せに感じながらゆっくりと唇を離した。
蕩けるような眼差しで伊織を見つめる彼に問いかける。
「あの、悠真さんと呼んでも?」
「はい。私の方が年下ですから呼び捨てで構いませんよ」
「ですが……」
「安慶名さんには悠真と呼ばれたいんです……だめ、ですか?」
不安げな顔で見つめられ狼狽えてしまう。
「いえ! だめだなんて、そんなことはないです」
伊織の言葉に不安げな顔が一気に柔らかい笑顔に変わる。
「じゃあ、呼んでください。私も伊織さんと呼んでもいいですか?」
「ええ。私も呼び捨てでも構いませんよ」
そう言ったけれど、彼は小さく首を横に振った。
「伊織さんと呼びたいんです。強そうでそれでいて穏やかで優しくて……本当に伊織さんにぴったりな素敵な名前ですね」
父のつけてくれた名前をこんなにも褒めてくれる人がいるなんて思わなかった。
物心つく前に事故で亡くなってしまった父とは思い出は全く残っていない。唯一名前だけは父が一生懸命考えてつけてくれた名前だと祖父から教えられていた。
大切な人を守れる力を持ち、いつも冷静に優しくいられるように、と好きな武士の名前からこの名をもらったそうだ。
伊織自身もこの名前は気に入っている。それを彼は好きだと言ってくれた。それだけで幸せな気持ちになっていた。
「悠真が褒めてくれましたから、父もきっと喜んでいると思います」
さらりと呼び捨てで名を呼ぶと、彼がニコッと笑いかける。
「伊織さん、ご家族は? あ、そんなことを突然伺っては失礼でしたね。すみません」
「いえ、貴方に隠すことなど何もありませんよ。私の話をする前に、先に乾杯でもしましょうか」
何を聞かれても恥ずべきところなどない。今までただ誠実に生きてきたのだから。
そう、きっとここで悠真に出会うために生きてきたのだ。
「伊織さん、どうぞ」
差し出されたお猪口を受け取る。月明かりに微笑む彼の顔が本当に嬉しそうだ。
「悠真との未来に」
「伊織さんとの未来に」
「「乾杯」」
ごくっと口に入れた古酒は芳醇でまろやかな香りを纏っていて、今までで一番美味しい泡盛だった。
「砂川さん……このまま続きをしてもいいですか?」
「んっ……」
彼を抱き寄せながら耳元で囁く。彼は身体をピクリと震わせながら小さく頷いた。
彼を抱き上げ、温泉を出る。さっと大きなバスタオルで彼を包み、そのまま寝室へ連れていった。
彼を抱いたままベッドの中央に腰を下ろす。もう一度軽くキスをしてから、そっとバスタオルを捲る。
「あなたの肌を目にした時から、ずっと触れたいと思っていました」
指先で優しく触れる。砂川さんは身体をぴくっと震わせ「あっ……」と甘い声を上げた。
「怖いですか?」
「い、いえ……恥ずかしくて……私、こういうの初めてで……すみません」
「大丈夫ですよ、私も初めてですから……」
「えっ?」
彼が目を丸くして驚く姿が可愛くて、もう一度唇にキスを贈った。
「あの、安慶名さん……初めてって、本当ですか?」
「あなたに嘘なんてつきませんよ。本当です」
はっきりと告げると彼はふわっとした笑顔を見せる。
「すごく嬉しいです」
そう言ってくれた気持ちが嬉しくて彼をそのまま抱きしめた。
* * *
砂川さんの笑顔が眩しい。
「あの、今更ですが……ゆっくりおしゃべりでもしませんか? あなたのことが知りたいんです。泡盛でも呑みながら」
「いいですね」
女神のように優しく微笑む彼に「準備をしておくからゆっくり来てください」と声をかけ、急いで脱衣所へ向かった。
自分の持ってきた寝巻きを着ようと手に取ったが、彼とお揃いにしたくなった。脱衣所の棚から浴衣を取り出しさっと身につける。姿見の前でおかしいところがないかと一応確認をした。
乱れた寝室のシーツを整えてからキッチンに向かう。さっき彼が用意してくれていた古酒とおちょこを用意して、広縁のテーブルに準備した。
大きな窓から入ってくる星と月の光があまりにも綺麗だったから、庭と広縁の明かりを消した。この風情がある景色を一緒に見られる相手ができたと思うだけで幸せに満ち足りた気持ちになる。
「安慶名さん……」
その声に振り向くと同じ浴衣を身に纏った彼がこちらを見て立っていた。
「砂川さん、危ないのでそこにいてください」
明かりを消した薄暗い部屋で転んではいけない。伊織は素早く彼を迎えにいった。
「すみません、月明かりが綺麗で思わず電気を消してしまったもので」
「いえ、雰囲気が良くてすごく綺麗です」
彼の手を引きながら広縁の椅子に座らせる。
「浴衣……とてもお似合いです」
正直な気持ちを伝えると、彼は少し照れながらも「安慶名さんの方がとてもよくお似合いですよ」と微笑んでくれた。
広縁に置いてある椅子に砂川さんを案内して隣に腰を下ろした。一人で座るには少し大きくゆったりとしていた椅子だったが、二人で座るには少し小さくピッタリと寄り添ってしまう。
「砂川さん、狭くないですか?」
「いいえ、この方が安慶名さんにくっついていられて嬉しいですよ」
彼の一言にいつもドキドキさせられる。
浅香さんのホテルで、しかも涼平さんや倉橋さんのために作られた離れに置かれている椅子だ。
もしかしたらこの椅子は元々二人でくっついて座るために計算されているものかもしれない。
さすがだと感心しつつ、砂川さんと寄り添いながら月見酒を楽しむことにした。
古酒はお猪口やグラスに注いでから十分ほど空けたほうが古酒の芳香な香りが広がって美味しさが増すと言われている。
それを知っているからか、彼はテーブルに準備しておいた古酒をお猪口に注ぐとそのまま、テーブルに置いておいた。
しんと静まり返った部屋に月明かりが差し込んで彼をほんのりと照らしている。彼と一緒ならこの静かな時間でさえ愛おしく感じる。彼がそっと伊織の肩に頭を乗せてくる。その僅かな重みがより幸せにさせてくれる。
「私……この部屋には石垣出張の折に何度か泊まらせていただいているんですが、こんなゆったりとした時間を過ごしたのは初めてです。それに……ここから見る月がこんなにも綺麗だと思ったのも初めてです。それは安慶名さんと一緒だからかもしれないですね」
そんな嬉しいことを言ってくれるなんて……どれだけ伊織を喜ばせてくれるのだろう。
「本当にここから見る景色は美しいですね。でも、私には貴方が一番美しく見えますよ」
顔を近づけると、彼の綺麗な瞳がゆっくりと閉じていく。彼が伊織とのキスを嫌がっていない。その喜びに震えながら、優しく唇を重ね合わせた。
甘い唇を堪能し、深いキスをすればまた我慢できなくなることを自分でわかっている。
だからこそ、そっと重ねるだけの軽いキス。でもそれだけで満足だった。
静かな部屋に小さなリップ音が響く。それを幸せに感じながらゆっくりと唇を離した。
蕩けるような眼差しで伊織を見つめる彼に問いかける。
「あの、悠真さんと呼んでも?」
「はい。私の方が年下ですから呼び捨てで構いませんよ」
「ですが……」
「安慶名さんには悠真と呼ばれたいんです……だめ、ですか?」
不安げな顔で見つめられ狼狽えてしまう。
「いえ! だめだなんて、そんなことはないです」
伊織の言葉に不安げな顔が一気に柔らかい笑顔に変わる。
「じゃあ、呼んでください。私も伊織さんと呼んでもいいですか?」
「ええ。私も呼び捨てでも構いませんよ」
そう言ったけれど、彼は小さく首を横に振った。
「伊織さんと呼びたいんです。強そうでそれでいて穏やかで優しくて……本当に伊織さんにぴったりな素敵な名前ですね」
父のつけてくれた名前をこんなにも褒めてくれる人がいるなんて思わなかった。
物心つく前に事故で亡くなってしまった父とは思い出は全く残っていない。唯一名前だけは父が一生懸命考えてつけてくれた名前だと祖父から教えられていた。
大切な人を守れる力を持ち、いつも冷静に優しくいられるように、と好きな武士の名前からこの名をもらったそうだ。
伊織自身もこの名前は気に入っている。それを彼は好きだと言ってくれた。それだけで幸せな気持ちになっていた。
「悠真が褒めてくれましたから、父もきっと喜んでいると思います」
さらりと呼び捨てで名を呼ぶと、彼がニコッと笑いかける。
「伊織さん、ご家族は? あ、そんなことを突然伺っては失礼でしたね。すみません」
「いえ、貴方に隠すことなど何もありませんよ。私の話をする前に、先に乾杯でもしましょうか」
何を聞かれても恥ずべきところなどない。今までただ誠実に生きてきたのだから。
そう、きっとここで悠真に出会うために生きてきたのだ。
「伊織さん、どうぞ」
差し出されたお猪口を受け取る。月明かりに微笑む彼の顔が本当に嬉しそうだ。
「悠真との未来に」
「伊織さんとの未来に」
「「乾杯」」
ごくっと口に入れた古酒は芳醇でまろやかな香りを纏っていて、今までで一番美味しい泡盛だった。

