「あ、片付けは私がやります」
「朝食も一緒に作りましたし、片付けも一緒にしましょうか」
キッチンに並んで、洗った食器を悠真が嬉しそうに拭き上げていく。
朝食作りに引き続いての共同作業が、まるで新婚生活を彷彿とさせる幸せを感じずにはいられない。
楽しすぎてあっという間に作業を終えてしまい、寂しさすら感じてしまった。
「伊織さん、お疲れさまでした」
蛇口レバーを下げ水を止めたタイミングでさっとタオルが差し出される。
悠真とのそんな阿吽の呼吸が嬉しくてたまらない。
「さて、せっかく夏季休暇を頂きましたからどこかへ行きますか?」
「伊織さんはどこか行きたい場所はありますか?」
「私は……悠真といられるならどこへでも着いて行きますよ」
そう、それが本心だ。東京へ帰ればそう簡単には会えなくなる。
このまま悠真の自宅で過ごしてもいい。悠真が出かけたいなら外にも行こう。
だから、ずっと悠真と一緒にいたい。伊織の願いはそれだけだ。
そこまで告げたら重いと言われるかもしれない。だから心の中に留めるだけにしておいたが、伊織の思いはそれしかない。
「嬉しいです」
ああ、よかった。悠真が笑ってくれた。伊織の重すぎる愛にもこうやって笑顔を向けてくれる。
「それなら、夕方まではこのままここで家で過ごしたいです。夕方になったら少し行きたい場所があるので一緒に来てもらえますか?」
「もちろんですよ。どこにつれて行ってくれるのですか?」
「それは……まだ秘密です」
無邪気な微笑みを見せる悠真がどれだけ可愛いか、もう言葉にすることすらできない。
自分の理性が飛びそうになるのを必死に抑えることで精一杯だ。
しかし、悠真は伊織のそんな状況に気づいているのかいないのか、突然私を見上げた。
「あの、伊織さん……出かけるまで、その……寝室に、行きませんか?」
可愛らしく頬をピンクに染めて誘ってくる。
「えっ……」
悠真に誘われたという事実が信じられなくて思わず言葉に詰まると、悠真はピンク色の肌を真っ赤に染め上げた。
「あっ、いえ……いいんです。ごめんなさ――わっ!」
慌てて謝ろうとする悠真を急いで抱き上げる。
「すみません。誤解をさせてしまって……違うんです! 悠真が誘ってくれたのが嬉しくて昇天してしまいました。本当です!」
「よかったです。私からお誘いするなんてはしたないと思われるかと……」
はしたないなんて思うはずがない。こんなにも可愛くて純粋な悠真が誘ってくれたことが幸せでしかないのに。
あまりの嬉しさに昇天してしまったせいで悠真を一瞬でも寂しがらせてしまった。そんな思いをさせた償いはしないといけない。
これから夕方までたっぷりと悠真に幸せを与えるとしよう。
悠真の方から誘ってくれたのだから、少しくらい激しくしてもいいだろうか。
もし、夕方歩けなければ抱いてつれて行けばいい。
頭の中でさっと考えをまとめると、悠真を抱きかかえすぐに寝室へ戻った。
悠真のみずみずしく滑らかな肌に触れるのも好きなのだが、伊織のTシャツを着ただけの悠真も捨て難い。
脱がすのは勿体無いか。
悠真の服はそのままにしてベッドに寝かせる。そのまま悠真の隣に身を滑らせた。
「悠真……」
囁くと、彼はゆっくりと目を閉じた。悠真が私とのキスを望んでいる。それがわかるだけで嬉しかった。
ゆっくりと味わおう。焦るのをやめ、ゆっくりと悠真の柔らかな唇に自分のそれを重ね合わせた。
ほんのりと香る甘いマンゴーの香りが、いつものキスよりもずっと刺激的で官能的にしてくれる気がする。
下唇にチュッと吸い付く。悠真の唇が開き伊織の舌を中へ導いてくれた。
時計を見ると昼をとうに過ぎている。少なくとも五時間、二人でベッドで過ごしたことになる。
悠真はきっと疲れてしまったのだろう。今は伊織の腕の中ですやすやと眠っている。
悠真を疲れさせてしまったことへの後悔はもちろんある。
だが、悠真にここまで深い愛をぶつけたことはなんの後悔もない。
信頼しきった表情で寝顔を見せてくれる愛おしい悠真を腕の中に抱ける喜び。
それをひしひしと感じながらも、今はまだ考えたくもない悠真と離れる日のことがふと頭をよぎって心が苦しくなる。
このまま抱いてつれて帰れたら……
何度その思いがよぎったか知れやしない。
この数日で数年過ごしたような濃密な時間が、悠真との別れをより離れ難いものにしている。
悠真……悠真……
自分がこんなにも恋に溺れる人間だとは思いもしなかった。
自分の命を投げ打ってでも守りたい、愛おしいと思う存在ができるなんて……
夢でずっと成長を見続けていた子が目の前に現れて、こうして愛し合える存在になるなんて奇跡としか言いようがない。
愛してる、愛してる、愛してる……
何度言葉にしても足りないほどの愛を悠真に捧げよう。伊織の愛は今までもこれからも全て悠真だけだ。
その誓いの証として、伊織は寝ている彼の左胸に花弁を散らした。
しばらく経って悠真が目を覚まし、一緒にお風呂に向かった。
昼間の風呂場は夜とは雰囲気を変えていたが、明るい光の下で悠真を愛でることができる最高の時間だった。
あまりにも明るい風呂に悠真は恥ずかしがっていたが、足に力が入らず一人では入れないと知って全てを委ねてくれた。
全ては手加減もできずに貪ってしまった伊織のせいだが、悠真は責める言葉などは一切言わない。
ほんのりと頬を染めながら身体を洗わせてくれた。
ほかほかになった悠真をバスタオルで包み、伊織はバスタオルを腰に巻いたまま悠真を抱き上げ寝室へ戻った。
今日の服を選んで欲しいと言われ悠真のクローゼットから選び、悠真に服を着せた。
伊織も悠真の格好に合うような服に着替え、リビングに連れていった。
まだ疲れている悠真に昼食を作らせるどころか働かせるわけにはいかない。
遅くなった昼食を軽く作りつつ、寝室の汚れ物の洗濯を始めた。
食事を終え、ソファに座っている悠真に見守られながら洗濯物を干した。
沖縄の太陽の浴びながら、横を見ると悠真がこちらを見ている。そんな姿が見られるだけで喜びが込み上げる。
いつかこうやっていつでも悠真の姿を感じられるような家を建てよう。
その日は近い将来必ずやってくる。だって一生を共に過ごすのだから。
これからの長い人生の中で離れて暮らす時期などほんの数年だ。
だからその時間を寂しいと思うよりも今一緒に過ごせること。
そして未来永劫一緒に過ごせることを楽しむ方がいい。
洗濯物を干しながら、悠真との将来を想像して幸せに満ち溢れた時間を過ごした。
「洗濯物、終わりま――」
そう声をかけようとして、悠真がうたた寝をしているのに気づいた。
たっぷりと愛し合い疲れ果てていた上に食事をしてソファに横になっていたら眠くなるのも仕方ない。
きっと普段の悠真ならどんなに疲れていたとしても、人が家にいる時にうたた寝など決してする事はないだろう。
それくらい常に人を気遣っている悠真が、可愛らしい寝顔を晒して無防備に眠ってくれる。
それは伊織のことを心から信頼しきってくれている証だ。
悠真の背後に回り、覆いかぶさるように彼を包み込んだ。
こうやって抱きしめると悠真がいかに華奢かわかる。
腕の中にすっぽりと収まる身体で激しい愛を受け止めてくれているのだと思うと、どれほど愛されているかをひしひしと感じる。
決して悠真の愛を疑ってはいけないのだ。悠真ほど誠実で純粋な心を持つ人など他にいるはずがないのだから。
きっと悠真の愛を感じられなくなったときは、悠真が本気で愛する人ができたときなのだろう。
そんな日は一生来ないと断言できるが。
サラサラの髪にそっと口付けをしながら、「一生手放しませんよ」と小さな声で誓った。
それからどれくらい経っただろうか。
気づけば悠真と一緒に眠ってしまっていたようだ。
背後から抱きしめていたはずなのに、いつの間にか悠真がこちらを向いている。
そして嬉しそうに伊織の胸元に擦り寄ってきている。
愛おしすぎて思わず強く抱きしめてしまい、悠真が目を開けてしまった。
せっかく気持ちよさそうに寝ていたのに起こしてしまった……
「起こしてしまいましたね。寝ている時の悠真が可愛くて……学習しないですね、私も」
「大丈夫ですよ、私……少し前から起きていたので」
「そうなんですか? 起こしてくれてよかったのに……」
「いつも私ばかりが寝顔を見られているので、たまにはゆっくり伊織さんを見つめたかったんです」
「私の寝顔はどうでしたか?」
「もちろん格好良くて可愛かったですよ」
意味深な悠真の笑いに自分がどんな寝顔をしていたのか気になって仕方がない。
「そういえば、もうそろそろ夕方ですね。出かけましょうか」
笑顔で声をかけられ、聞くタイミングを失ってしまった。
悠真が辛くないようにゆっくりと身体を抱きかかえて起こし、出かける準備をし始める。
「何も持ち物はいらないです。手ぶらで行きましょう」
荷物も何も持たずに一体どこに行くのだろう?
「あっ、悠真。無理をしてはダメです」
まだ身体が辛いだろうに立ちあがろうとする悠真を制し、そっと抱きかかえた。
「じゃあ、伊織さん。連れて行ってもらえますか?」
「もちろんです」
玄関に向かおうとする私に「あ、伊織さん。あっちです」と中庭を指差す。
「庭に出るんですか?」
「そこのサンダル、大きめなので使ってください」
言われた通りに置かれていたサンダルに足を入れるとちょうどピッタリだ。
これは一体誰のだろう……と一瞬頭をよぎったのを悠真は感じ取ったようだ。
「このサンダルは倉橋からの頂き物なんです。庭に出るときのサンダルが壊れたと言ったら余っているからと下さって……。少し大きいんですけど、庭に出るだけですから気にしてなかったんです。伊織さんが履けてよかったです」
狭量な伊織を心配させないようにきちんと説明をしてくれる悠真に申し訳ない。
悠真の愛を疑ったりはしないと言っていたくせに、ほんの些細なことにひっかかって。
もう少し寛大にならないといけないな。
「悠真、申し訳ない。私のためにわざわざ理由まで……」
「いえ、私も伊織さんには誤解されたくないので話せてよかったんですよ」
悠真のその笑顔に救われる。
「ねぇ、伊織さん。あっちに海に続く階段があるんですよ。そこから海に下りてもらえますか?」
悠真に言われた通りに歩いていくと小さな階段があった。まるで悠真のために作られたようなそんな階段だ。
そこをゆっくりと下りていく。
「おおっ」
思わず声が漏れ出るほどの綺麗な海が現れた。
窓から見える海はこんなにも近かったのか。
「驚くのはこれからですよ」
まるでいたずらっ子のような表情を見せる。
「あ、ほら。来ましたよ」
来たって何が?
不思議に思いながら、悠真の指差すほうを見ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
沈みゆく太陽が空も海も全て真っ赤に変え、まるで夕焼けに飲み込まれたような雄大な光がそこにあった。
伊織も悠真も同じ色に染まり、全てが一つになったようなそんな感覚に思わず涙が出そうになる。
「悠真……こんなに美しい景色をあなたと一緒に見られるなんて……」
「私もです。初めてこの景色を見つけたとき、感動で魂が揺さぶられた気がしました。石垣のあのホテルで伊織さんと出会ったときも同じ感覚を味わったんです。だから絶対にこの景色を伊織さんに見せたいってずっと思ってたんです。今日見せることができて本当によかった……」
悠真は伊織の首に腕を回し涙をポロポロと流しながら、何度も嬉しそうに「よかった……」と言っていた。
そんな悠真を見ていると、言わずにはいられなかった。
「悠真。私はあなたと出会って初めて愛というものを知りました。触れたい、抱き合いたい、一生そばにいたい、そう思った人も悠真が初めてです。そして、それは最初で最後だと自信を持って言えます。私は、砂川悠真を愛しています……。だから……どうか私を信じて、一生ついてきてくれませんか?」
美しい夕焼けに力を借りて、思いの丈をぶつけた。
「伊織さんを信じてついていきます。私も伊織さんを愛しています」
夕日が海に沈み、月と星からの祝福を受けるまでの間、甘いキスに酔いしれていた。
「朝食も一緒に作りましたし、片付けも一緒にしましょうか」
キッチンに並んで、洗った食器を悠真が嬉しそうに拭き上げていく。
朝食作りに引き続いての共同作業が、まるで新婚生活を彷彿とさせる幸せを感じずにはいられない。
楽しすぎてあっという間に作業を終えてしまい、寂しさすら感じてしまった。
「伊織さん、お疲れさまでした」
蛇口レバーを下げ水を止めたタイミングでさっとタオルが差し出される。
悠真とのそんな阿吽の呼吸が嬉しくてたまらない。
「さて、せっかく夏季休暇を頂きましたからどこかへ行きますか?」
「伊織さんはどこか行きたい場所はありますか?」
「私は……悠真といられるならどこへでも着いて行きますよ」
そう、それが本心だ。東京へ帰ればそう簡単には会えなくなる。
このまま悠真の自宅で過ごしてもいい。悠真が出かけたいなら外にも行こう。
だから、ずっと悠真と一緒にいたい。伊織の願いはそれだけだ。
そこまで告げたら重いと言われるかもしれない。だから心の中に留めるだけにしておいたが、伊織の思いはそれしかない。
「嬉しいです」
ああ、よかった。悠真が笑ってくれた。伊織の重すぎる愛にもこうやって笑顔を向けてくれる。
「それなら、夕方まではこのままここで家で過ごしたいです。夕方になったら少し行きたい場所があるので一緒に来てもらえますか?」
「もちろんですよ。どこにつれて行ってくれるのですか?」
「それは……まだ秘密です」
無邪気な微笑みを見せる悠真がどれだけ可愛いか、もう言葉にすることすらできない。
自分の理性が飛びそうになるのを必死に抑えることで精一杯だ。
しかし、悠真は伊織のそんな状況に気づいているのかいないのか、突然私を見上げた。
「あの、伊織さん……出かけるまで、その……寝室に、行きませんか?」
可愛らしく頬をピンクに染めて誘ってくる。
「えっ……」
悠真に誘われたという事実が信じられなくて思わず言葉に詰まると、悠真はピンク色の肌を真っ赤に染め上げた。
「あっ、いえ……いいんです。ごめんなさ――わっ!」
慌てて謝ろうとする悠真を急いで抱き上げる。
「すみません。誤解をさせてしまって……違うんです! 悠真が誘ってくれたのが嬉しくて昇天してしまいました。本当です!」
「よかったです。私からお誘いするなんてはしたないと思われるかと……」
はしたないなんて思うはずがない。こんなにも可愛くて純粋な悠真が誘ってくれたことが幸せでしかないのに。
あまりの嬉しさに昇天してしまったせいで悠真を一瞬でも寂しがらせてしまった。そんな思いをさせた償いはしないといけない。
これから夕方までたっぷりと悠真に幸せを与えるとしよう。
悠真の方から誘ってくれたのだから、少しくらい激しくしてもいいだろうか。
もし、夕方歩けなければ抱いてつれて行けばいい。
頭の中でさっと考えをまとめると、悠真を抱きかかえすぐに寝室へ戻った。
悠真のみずみずしく滑らかな肌に触れるのも好きなのだが、伊織のTシャツを着ただけの悠真も捨て難い。
脱がすのは勿体無いか。
悠真の服はそのままにしてベッドに寝かせる。そのまま悠真の隣に身を滑らせた。
「悠真……」
囁くと、彼はゆっくりと目を閉じた。悠真が私とのキスを望んでいる。それがわかるだけで嬉しかった。
ゆっくりと味わおう。焦るのをやめ、ゆっくりと悠真の柔らかな唇に自分のそれを重ね合わせた。
ほんのりと香る甘いマンゴーの香りが、いつものキスよりもずっと刺激的で官能的にしてくれる気がする。
下唇にチュッと吸い付く。悠真の唇が開き伊織の舌を中へ導いてくれた。
時計を見ると昼をとうに過ぎている。少なくとも五時間、二人でベッドで過ごしたことになる。
悠真はきっと疲れてしまったのだろう。今は伊織の腕の中ですやすやと眠っている。
悠真を疲れさせてしまったことへの後悔はもちろんある。
だが、悠真にここまで深い愛をぶつけたことはなんの後悔もない。
信頼しきった表情で寝顔を見せてくれる愛おしい悠真を腕の中に抱ける喜び。
それをひしひしと感じながらも、今はまだ考えたくもない悠真と離れる日のことがふと頭をよぎって心が苦しくなる。
このまま抱いてつれて帰れたら……
何度その思いがよぎったか知れやしない。
この数日で数年過ごしたような濃密な時間が、悠真との別れをより離れ難いものにしている。
悠真……悠真……
自分がこんなにも恋に溺れる人間だとは思いもしなかった。
自分の命を投げ打ってでも守りたい、愛おしいと思う存在ができるなんて……
夢でずっと成長を見続けていた子が目の前に現れて、こうして愛し合える存在になるなんて奇跡としか言いようがない。
愛してる、愛してる、愛してる……
何度言葉にしても足りないほどの愛を悠真に捧げよう。伊織の愛は今までもこれからも全て悠真だけだ。
その誓いの証として、伊織は寝ている彼の左胸に花弁を散らした。
しばらく経って悠真が目を覚まし、一緒にお風呂に向かった。
昼間の風呂場は夜とは雰囲気を変えていたが、明るい光の下で悠真を愛でることができる最高の時間だった。
あまりにも明るい風呂に悠真は恥ずかしがっていたが、足に力が入らず一人では入れないと知って全てを委ねてくれた。
全ては手加減もできずに貪ってしまった伊織のせいだが、悠真は責める言葉などは一切言わない。
ほんのりと頬を染めながら身体を洗わせてくれた。
ほかほかになった悠真をバスタオルで包み、伊織はバスタオルを腰に巻いたまま悠真を抱き上げ寝室へ戻った。
今日の服を選んで欲しいと言われ悠真のクローゼットから選び、悠真に服を着せた。
伊織も悠真の格好に合うような服に着替え、リビングに連れていった。
まだ疲れている悠真に昼食を作らせるどころか働かせるわけにはいかない。
遅くなった昼食を軽く作りつつ、寝室の汚れ物の洗濯を始めた。
食事を終え、ソファに座っている悠真に見守られながら洗濯物を干した。
沖縄の太陽の浴びながら、横を見ると悠真がこちらを見ている。そんな姿が見られるだけで喜びが込み上げる。
いつかこうやっていつでも悠真の姿を感じられるような家を建てよう。
その日は近い将来必ずやってくる。だって一生を共に過ごすのだから。
これからの長い人生の中で離れて暮らす時期などほんの数年だ。
だからその時間を寂しいと思うよりも今一緒に過ごせること。
そして未来永劫一緒に過ごせることを楽しむ方がいい。
洗濯物を干しながら、悠真との将来を想像して幸せに満ち溢れた時間を過ごした。
「洗濯物、終わりま――」
そう声をかけようとして、悠真がうたた寝をしているのに気づいた。
たっぷりと愛し合い疲れ果てていた上に食事をしてソファに横になっていたら眠くなるのも仕方ない。
きっと普段の悠真ならどんなに疲れていたとしても、人が家にいる時にうたた寝など決してする事はないだろう。
それくらい常に人を気遣っている悠真が、可愛らしい寝顔を晒して無防備に眠ってくれる。
それは伊織のことを心から信頼しきってくれている証だ。
悠真の背後に回り、覆いかぶさるように彼を包み込んだ。
こうやって抱きしめると悠真がいかに華奢かわかる。
腕の中にすっぽりと収まる身体で激しい愛を受け止めてくれているのだと思うと、どれほど愛されているかをひしひしと感じる。
決して悠真の愛を疑ってはいけないのだ。悠真ほど誠実で純粋な心を持つ人など他にいるはずがないのだから。
きっと悠真の愛を感じられなくなったときは、悠真が本気で愛する人ができたときなのだろう。
そんな日は一生来ないと断言できるが。
サラサラの髪にそっと口付けをしながら、「一生手放しませんよ」と小さな声で誓った。
それからどれくらい経っただろうか。
気づけば悠真と一緒に眠ってしまっていたようだ。
背後から抱きしめていたはずなのに、いつの間にか悠真がこちらを向いている。
そして嬉しそうに伊織の胸元に擦り寄ってきている。
愛おしすぎて思わず強く抱きしめてしまい、悠真が目を開けてしまった。
せっかく気持ちよさそうに寝ていたのに起こしてしまった……
「起こしてしまいましたね。寝ている時の悠真が可愛くて……学習しないですね、私も」
「大丈夫ですよ、私……少し前から起きていたので」
「そうなんですか? 起こしてくれてよかったのに……」
「いつも私ばかりが寝顔を見られているので、たまにはゆっくり伊織さんを見つめたかったんです」
「私の寝顔はどうでしたか?」
「もちろん格好良くて可愛かったですよ」
意味深な悠真の笑いに自分がどんな寝顔をしていたのか気になって仕方がない。
「そういえば、もうそろそろ夕方ですね。出かけましょうか」
笑顔で声をかけられ、聞くタイミングを失ってしまった。
悠真が辛くないようにゆっくりと身体を抱きかかえて起こし、出かける準備をし始める。
「何も持ち物はいらないです。手ぶらで行きましょう」
荷物も何も持たずに一体どこに行くのだろう?
「あっ、悠真。無理をしてはダメです」
まだ身体が辛いだろうに立ちあがろうとする悠真を制し、そっと抱きかかえた。
「じゃあ、伊織さん。連れて行ってもらえますか?」
「もちろんです」
玄関に向かおうとする私に「あ、伊織さん。あっちです」と中庭を指差す。
「庭に出るんですか?」
「そこのサンダル、大きめなので使ってください」
言われた通りに置かれていたサンダルに足を入れるとちょうどピッタリだ。
これは一体誰のだろう……と一瞬頭をよぎったのを悠真は感じ取ったようだ。
「このサンダルは倉橋からの頂き物なんです。庭に出るときのサンダルが壊れたと言ったら余っているからと下さって……。少し大きいんですけど、庭に出るだけですから気にしてなかったんです。伊織さんが履けてよかったです」
狭量な伊織を心配させないようにきちんと説明をしてくれる悠真に申し訳ない。
悠真の愛を疑ったりはしないと言っていたくせに、ほんの些細なことにひっかかって。
もう少し寛大にならないといけないな。
「悠真、申し訳ない。私のためにわざわざ理由まで……」
「いえ、私も伊織さんには誤解されたくないので話せてよかったんですよ」
悠真のその笑顔に救われる。
「ねぇ、伊織さん。あっちに海に続く階段があるんですよ。そこから海に下りてもらえますか?」
悠真に言われた通りに歩いていくと小さな階段があった。まるで悠真のために作られたようなそんな階段だ。
そこをゆっくりと下りていく。
「おおっ」
思わず声が漏れ出るほどの綺麗な海が現れた。
窓から見える海はこんなにも近かったのか。
「驚くのはこれからですよ」
まるでいたずらっ子のような表情を見せる。
「あ、ほら。来ましたよ」
来たって何が?
不思議に思いながら、悠真の指差すほうを見ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
沈みゆく太陽が空も海も全て真っ赤に変え、まるで夕焼けに飲み込まれたような雄大な光がそこにあった。
伊織も悠真も同じ色に染まり、全てが一つになったようなそんな感覚に思わず涙が出そうになる。
「悠真……こんなに美しい景色をあなたと一緒に見られるなんて……」
「私もです。初めてこの景色を見つけたとき、感動で魂が揺さぶられた気がしました。石垣のあのホテルで伊織さんと出会ったときも同じ感覚を味わったんです。だから絶対にこの景色を伊織さんに見せたいってずっと思ってたんです。今日見せることができて本当によかった……」
悠真は伊織の首に腕を回し涙をポロポロと流しながら、何度も嬉しそうに「よかった……」と言っていた。
そんな悠真を見ていると、言わずにはいられなかった。
「悠真。私はあなたと出会って初めて愛というものを知りました。触れたい、抱き合いたい、一生そばにいたい、そう思った人も悠真が初めてです。そして、それは最初で最後だと自信を持って言えます。私は、砂川悠真を愛しています……。だから……どうか私を信じて、一生ついてきてくれませんか?」
美しい夕焼けに力を借りて、思いの丈をぶつけた。
「伊織さんを信じてついていきます。私も伊織さんを愛しています」
夕日が海に沈み、月と星からの祝福を受けるまでの間、甘いキスに酔いしれていた。

