南国特有のスコールが初恋を連れてきてくれました

昼食後、本当ならもう少し休ませておきたかったのだが、悠真がそろそろ自宅に戻ると言い出したので倉橋さんに宿泊のお礼を言って悠真の自宅へ連れて行ってもらうことになった。
悠真を抱きかかえていくため、キャリーケースは倉橋さんに運んでもらうことになった。
三人で集落を歩いていると通り過ぎる島民の方が皆、必ずと言っていいほど話しかけてくる。

「あれ? 社長さん、新しい人連れてるね」
「砂川さん、怪我でもしてるの?」
「お姫さま抱っこ、私もして欲しいさぁ〜」
「社長さんと八尋さん以外にイケメン増えて嬉しいさぁ〜」
「砂川さんは両手にイケメンしたがえて羨ましいねぇ〜」

話しかけられた言葉に全て笑顔で返していく倉橋さんと悠真の姿に、本当にこの島に馴染んでいるなと驚いた。
この分じゃ、本当に悠真を東京に連れ帰ったらここの人みんなから恨まれるかもしれない。
やっぱり足繁く通ってここの人たちに認められるようにした方がいいだろう。
倉橋さんは悠真の自宅玄関に入ってすぐの場所にキャリーケースを置いてすぐに帰っていった。
「あ、あの……散らかってますけど、どうぞ」
「はい。お邪魔します」
悠真の部屋に足を踏み入れる。途端にふわっと悠真の香りがして、興奮してしまった自分がいた。
悠真のテリトリーに入れてもらえたのがすごく嬉しくてたまらないのだ。
悠真の住んでいるこの家は倉橋さんの家を少し小さくしたような古民家で、中は綺麗にリノベーションされているようだ。
聞くと、この家はここに就職が決まった時に倉橋さんが用意してくれた家なのだそうだ。
やはり悠真は倉橋さんから相当気に入られているんだろう。
ソファに悠真を抱きかかえたまま腰を下ろす。目の前の大きな窓からは美しい海が見える。
穏やかな海を見ているというのに、悠真が寝起きしている自宅に招かれているというだけでドキドキが止まらない。
「あの、伊織さん……何か飲みますか?」
「お気持ちは嬉しいですが、もうしばらくこうしていていいですか? 悠真の部屋に二人っきりなこの時間を思いっきり味わっておきたいんです」
悠真が嬉しそうに笑みを浮かべるのをギュッと抱きしめて返した。
この温もりから伊織の気持ちはきっと悠真に伝わっているだろう。
伊織が西表島にいられるのはあと三日。少しでも長く一緒にいたい。そう思ったのは伊織だけじゃなかったようだ。
「あの、西表にいる間はここに泊まってくれますか?」
「もちろん。悠真が許してくれるならずっとここにいたいです」
「よかった……」
ホッとする悠真を抱きしめ、少しの時間でも惜しむようにお互いの温もりを感じ続けていた。
しばらく経って、そろそろ夕食の支度をしようと考えていると、玄関先に置いたままになっていたキャリーケースの隣に発泡スチロールの箱が置いてあるのに気づいた。そういえば、倉橋さんがキャリーケース以外に荷物を持っていた気がする。
悠真を抱きかかえて外を歩けるという喜びであまり目に入っていなかったが、確かに持っていた。
それが発泡スチロールだったかは定かでない。だが、おそらくそれだろうとその箱に近づくと箱に手紙が貼ってあった。
<蓮見からの貰い物ですが、どうぞ二人で召し上がってください>
やはり倉橋さんからの荷物だったとホッとした。
涼平さんからの頂き物で食材といえばあれしかないが……
箱を開けてみると、最高級の石垣牛のステーキが数枚入っていた。
これ一枚で一万円はくだらないだろう。
こんなにすごいものをポンとくれるなんて、倉橋さんの気前の良さにただただ驚かされるばかりだ。
この存在に気づかずにしばらくそのままになっているかもしれないとわかっていたのか、きちんと保冷ケースに入れられていたおかげでステーキ肉はまだ冷凍状態を保っていた。そんなところでも倉橋さんの気遣いに感心する。
「悠真、倉橋さんからいただきましたよ」
箱ごと悠真のもとに運ぶと驚きつつも嬉しそうに笑っていた。
「社長にお礼のメッセージを入れておきましょう」
「電話で直接お礼を言った方がいいのでは?」
「いえ、今頃八尋さんのところで呑んでいると思いますから」
彼の行動を把握しているらしい悠真は慣れた手つきで倉橋さんへメッセージを送っていた。
倉橋さんが悠真のことを理解しているように悠真もまた倉橋さんのことを理解しているだと思うと、少し嫉妬してしまう。
一緒にいた時間が比べようもないほど違うのだから仕方がない。
だが悠真のことは自分が一番よくわかると思っていたい。そして逆も。
悠真がメッセージを送り終えたのを見計らって、声をかける。
「じゃあ、今日はこのお肉でステーキにしましょうか」
キッチンに行こうとすると、グイッと服の裾が引っ張られた。
「悠真?」
「離れちゃダメです。私もキッチンに連れて行ってください」
悠真の可愛いわがままに思わず顔が綻びる。自分のテリトリー内でここまで伊織に素を晒してくれているのだ。これはきっと倉橋さんも知らない悠真だろう。さっきまでの仄かな嫉妬心が一気に霧散する。
「わかりました。私から離れないでくださいね」
広いアイランドキッチンの料理をしている姿がよく見える位置に椅子を移動させ座らせる。
「ここなら私が見えますか?」
「私の家のキッチンに伊織さんが立っているなんて、なんだか夢みたいですね」
恍惚とした表情で見つめてくる悠真に、一瞬にして滾りそうになったが今から夕食の支度だ。そう言い聞かせて調理に取り掛かった。
コーンの缶詰でコーンスープを手早く作り、付け合わせ用にじゃがいもを茹でる。
その間にガーリックライスでも作ろうかと思ったが、可愛い悠真のことだ。
ニンニクの匂いが気になってキスをしてくれなくなったら困る。今回は白米を炊くだけにしておいた。
とすれば、ステーキソースもニンニクを使わない方がいいだろう。
食材を見てみると赤ワインとリンゴジュースを見つけた。これならいいステーキソースができそうだ。
白米が炊けるのと同じタイミングで付け合わせを皿に盛り付ける。ステーキ肉を焼き、肉汁と合わせてソースを作った。
調理しているのを嬉しそうに見つめる悠真のおかげでいつもよりも捗った気がする。
あっという間に料理を仕上げて、ダイニングテーブルに並べる。
「すごい! 伊織さんのお料理、とっても美味しそうですね!」
目を輝かせて喜んでくれた。
悠真が「いただきます」と手を合わせ、まずステーキから箸をつけた。
「んんっ、美味しいです! このお肉はもちろんですけど、このソースとっても美味しいです」
「よかった。ニンニクを入れないように作ったのでキスしても気になりませんよ」
パチンとウインクして見せると、悠真の顔が真っ赤になる。
「それならよかったです。伊織さんとキスできないなんて嫌ですから……」
恥じらいつつも、こんなふうにすぐに煽ることを言ってくる。
すぐにでも押し倒したくなる気持ちをグッと堪えて、「私もですよ」と返すのが精一杯だった。