「はい、なんでしょう?」
「そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。ここで安慶名さんのそんな表情を見られるとは思わなかったな」
倉橋さんのからかい口調に慌てて取り繕おうと表情を整える。だがそれは無意味だった。
「大丈夫です、私はもう全部わかっていますから。安慶名さんと砂川はお付き合いすることになったのでしょう?」
確信しているその口ぶりにもう隠しておく必要はない。元々倉橋さんにはきちんと話をしておくつもりだった。それが急に倉橋さんと西表で会うことになり、しかもそれが会社の中だったこともあって、とりあえずは恋人だということを内緒にしていただけだ。
「すみません、あなたの大事な社員に手を出すようなことになってしまって……」
「謝ることはないでしょう? それとも安慶名さんは砂川を無理やり襲ったとでも?」
「いいえ、決してそのようなことは! 私たちはお互いに気持ちを確かめ合って――」
「わかっていますよ。冗談です。安慶名さんが好意のない相手に無理やり襲い掛かるとは思っていませんし、それに砂川は遊びで関係を持つようなことは絶対にしないとわかっていますから。第一、砂川があんなふうに優しい目で他人を見るのを初めて見ました。それだけで砂川にとってあなたが大切な存在だとすぐにわかりましたよ」
倉橋さんのその眼差しは柔らかかったが、悠真の言ったように全く恋愛感情はないようだ。
「砂川のお母さんとお祖母さんは、砂川が人に対して愛情を持てずにいると心配されていたのですが、きっと安慶名さんと出会うのを待っていたんでしょう。彼をよろしくお願いしますね」
「はい。私が全身全霊を持って彼を必ず幸せにします」
深々と頭を下げ、しっかりと自分の意思を伝える。そんな伊織を見て彼は笑顔を見せた。
「なんとなく娘を嫁に出す父親の気持ちがわかったような気がしますよ」
きっと悠真のことをずっと見守ってくれていたんだろう。悠真は本当に良い上司に恵まれたようだ。
「不躾ながら……安慶名さん」
「なんでしょう?」
さっきまでの笑顔から突然の真剣な表情にまた緊張が走った。
「昨夜は最後まではできなかったでしょう?」
「な、なんで、それを……?」
「簡単なことですよ。優しい安慶名さんのことです。初めての砂川に無理はさせないと思っただけです。ですから、今日はうちに泊まっていただこうと思ったんですよ」
「えっ? そ、それって……」
「離れの風呂場にも寝室にも必要なものは全て用意していますから、ご自由にお使いください。私が開発した天然成分百パーセントの完全無添加のローションですから安心してお使いいただけますよ。もちろん全て新品ですからご安心ください」
パチンとウィンクして見せる倉橋さんの笑顔に、伊織は絶対この人には勝てないと思った。
というか、そういうものの開発まで携わっていることに驚かされる。
彼は一体どこまで手を広げてるのだろう。本当に彼だけは全く想像がつかない。
「あ、ありがとうございます」
驚きながらもなんとかお礼を言えたところで、カタンと扉が開く音が聞こえた。どうやら悠真が中庭の入り口から入ってきたようだ。
「遅くなりました。離れの準備が整いました」
伊織は急いで悠真の元に駆け寄り、抱きしめる。
「悠真、ありがとうございます」
悠真は伊織の突然の行動に驚き、一瞬にして顔を赤らめた。
「あ、あの……安慶名さん、社長が……」
「いいんです。すみません、私が最初からちゃんと倉橋さんに伝えなかったせいで悠真に嫌な思いをさせてしまいましたね」
「えっ……それって……」
「倉橋さんにご報告したんです。私と悠真のことを」
「ええっ! あの、それじゃあ社長は私たちのことをご存じで……?」
今までにないほど顔を赤くする悠真を見て伊織とのことを知られたくなかったのかと不安になる。
「あの、悠真……話してはいけませんでしたか?」
「いいえ、そんなことはっ! あの、ただ……恥ずかしいだけです……」
さらに赤くなった顔を隠そうと、悠真は伊織の胸にポスッと顔を埋める。そんな彼が可愛くて伊織は強く抱きしめた。
「ん゛っ、んっ」
大きな咳払いの音に悠真の身体がビクッと震えた。
「あーっ、このまま二人っきりにしてやりたいのはやまやまだが、せっかく料理と酒も準備したことだし少しは話をしないか?」
倉橋さんの申し訳なさそうな声に思わず二人して笑みがこぼれる。
「悠真、行きましょうか」
もう隠すことはない。伊織は悠真とピッタリと寄り添いながら、倉橋さんの待つリビングに向かった。
案内された席に悠真と隣同士に腰を下ろした。
「じゃあ今日は祝いの乾杯だな」
ニヤリと笑みを浮かべながら、倉橋さんはすでに泡盛が注がれたお猪口を持ちあげる。
「ありがとうございます」
「社長、ありがとうございます」
まだほんのりと頬を染めた悠真が可愛すぎて、正直倉橋さんにも見せたくないと思ってしまった。
みんなで乾杯をして、ゴクっと泡盛を一口いただく。隣に座る悠真に目を向けると彼は嬉しそうにこちらを向いていた。
ひとしきり料理と酒を楽しみながら会話を楽しむ。
「それで、砂川は安慶名さんのどこが気に入ったんだ?」
突然倉橋さんから質問が投げかけられた。
今まで他人への愛情が見られないと母親に心配され、倉橋さんでさえ、恋愛に興味がないと思っていた悠真が伊織に興味を示したことが気になるのだろう。興味津々な様子で悠真に尋ねる。正直なところ、伊織自身も悠真の答えを聞いてみたい。
「そんなの……全部に決まっています」
彼はさも当然とでも言いたげに返した。
「全部?」
「はい。他人への優しい気遣いも安心させてくれる穏やかな口調も誰に対しても礼儀正しいところも、そして……綺麗な顔立ちも全てが理想的な方ですから」
悠真からの賛辞に今度は伊織のほうが顔を赤くしてしまう。
「悠真……酔っているのではありませんか?」
「確かに少し酔っていますけど、話していることは私の本心ですよ。伊織さんほど心から惹かれる人に私は初めて出会いましたから……」
しなだれかかってくる悠真が可愛すぎて伊織はギュッと抱きしめた。
「もう時間も遅いですし、そろそろお開きにしましょうか」
気を利かせてくれたんだろう、倉橋さんが立ち上がり、グラスや皿をキッチンに運び出した。
「私もお手伝いを……」
「いえ、安慶名さんは砂川をお願いします。そのままにしておくと眠ってしまいますよ」
そうなればもう夜の時間は無くなってしまいますよと言われているようで、少し気恥ずかしい。
だが、昨夜から我慢していた伊織はもう収まりがつかない。
「そうそう、明日は私も砂川も休みです。朝はのんびりしようと思いますから、安慶名さんに食事を作っていただくのは昼食にしておきましょうか。ですから、どうぞごゆっくり」
先手先手でどこまでも気の利く倉橋さんにそんなことを言われて恥ずかしくないわけがないが、ここは倉橋さんの言葉に甘えるとしよう。
「倉橋さん、ありがとうございます。それでは私たちは失礼します。悠真、行きましょうか」
倉橋さんに頭を下げ、悠真を抱きかかえた。驚いて悠真は伊織の首に縋り付いた。
そんな悠真を愛おしく思いながら中庭から離れへ向かうと、遠目で見ていた時よりももっとずっと大きな家で驚いてしまう。
ガラガラと引き戸を開け中に入る。本当に私が泊まることを想定していたようで、部屋をクリーニングしてくれていたようだ。どこも綺麗に片付けられている。しかも、さっき悠真が部屋に入った時にクーラーをつけておいてくれたようで部屋は心地良い温度に保たれている。
このまま寝室へ向かうのはそれしか考えていないようで恥ずかしいが、悠真が寝てしまっては元も子もない。
伊織は悠真を抱きかかえたまま、寝室に向かった。
「そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。ここで安慶名さんのそんな表情を見られるとは思わなかったな」
倉橋さんのからかい口調に慌てて取り繕おうと表情を整える。だがそれは無意味だった。
「大丈夫です、私はもう全部わかっていますから。安慶名さんと砂川はお付き合いすることになったのでしょう?」
確信しているその口ぶりにもう隠しておく必要はない。元々倉橋さんにはきちんと話をしておくつもりだった。それが急に倉橋さんと西表で会うことになり、しかもそれが会社の中だったこともあって、とりあえずは恋人だということを内緒にしていただけだ。
「すみません、あなたの大事な社員に手を出すようなことになってしまって……」
「謝ることはないでしょう? それとも安慶名さんは砂川を無理やり襲ったとでも?」
「いいえ、決してそのようなことは! 私たちはお互いに気持ちを確かめ合って――」
「わかっていますよ。冗談です。安慶名さんが好意のない相手に無理やり襲い掛かるとは思っていませんし、それに砂川は遊びで関係を持つようなことは絶対にしないとわかっていますから。第一、砂川があんなふうに優しい目で他人を見るのを初めて見ました。それだけで砂川にとってあなたが大切な存在だとすぐにわかりましたよ」
倉橋さんのその眼差しは柔らかかったが、悠真の言ったように全く恋愛感情はないようだ。
「砂川のお母さんとお祖母さんは、砂川が人に対して愛情を持てずにいると心配されていたのですが、きっと安慶名さんと出会うのを待っていたんでしょう。彼をよろしくお願いしますね」
「はい。私が全身全霊を持って彼を必ず幸せにします」
深々と頭を下げ、しっかりと自分の意思を伝える。そんな伊織を見て彼は笑顔を見せた。
「なんとなく娘を嫁に出す父親の気持ちがわかったような気がしますよ」
きっと悠真のことをずっと見守ってくれていたんだろう。悠真は本当に良い上司に恵まれたようだ。
「不躾ながら……安慶名さん」
「なんでしょう?」
さっきまでの笑顔から突然の真剣な表情にまた緊張が走った。
「昨夜は最後まではできなかったでしょう?」
「な、なんで、それを……?」
「簡単なことですよ。優しい安慶名さんのことです。初めての砂川に無理はさせないと思っただけです。ですから、今日はうちに泊まっていただこうと思ったんですよ」
「えっ? そ、それって……」
「離れの風呂場にも寝室にも必要なものは全て用意していますから、ご自由にお使いください。私が開発した天然成分百パーセントの完全無添加のローションですから安心してお使いいただけますよ。もちろん全て新品ですからご安心ください」
パチンとウィンクして見せる倉橋さんの笑顔に、伊織は絶対この人には勝てないと思った。
というか、そういうものの開発まで携わっていることに驚かされる。
彼は一体どこまで手を広げてるのだろう。本当に彼だけは全く想像がつかない。
「あ、ありがとうございます」
驚きながらもなんとかお礼を言えたところで、カタンと扉が開く音が聞こえた。どうやら悠真が中庭の入り口から入ってきたようだ。
「遅くなりました。離れの準備が整いました」
伊織は急いで悠真の元に駆け寄り、抱きしめる。
「悠真、ありがとうございます」
悠真は伊織の突然の行動に驚き、一瞬にして顔を赤らめた。
「あ、あの……安慶名さん、社長が……」
「いいんです。すみません、私が最初からちゃんと倉橋さんに伝えなかったせいで悠真に嫌な思いをさせてしまいましたね」
「えっ……それって……」
「倉橋さんにご報告したんです。私と悠真のことを」
「ええっ! あの、それじゃあ社長は私たちのことをご存じで……?」
今までにないほど顔を赤くする悠真を見て伊織とのことを知られたくなかったのかと不安になる。
「あの、悠真……話してはいけませんでしたか?」
「いいえ、そんなことはっ! あの、ただ……恥ずかしいだけです……」
さらに赤くなった顔を隠そうと、悠真は伊織の胸にポスッと顔を埋める。そんな彼が可愛くて伊織は強く抱きしめた。
「ん゛っ、んっ」
大きな咳払いの音に悠真の身体がビクッと震えた。
「あーっ、このまま二人っきりにしてやりたいのはやまやまだが、せっかく料理と酒も準備したことだし少しは話をしないか?」
倉橋さんの申し訳なさそうな声に思わず二人して笑みがこぼれる。
「悠真、行きましょうか」
もう隠すことはない。伊織は悠真とピッタリと寄り添いながら、倉橋さんの待つリビングに向かった。
案内された席に悠真と隣同士に腰を下ろした。
「じゃあ今日は祝いの乾杯だな」
ニヤリと笑みを浮かべながら、倉橋さんはすでに泡盛が注がれたお猪口を持ちあげる。
「ありがとうございます」
「社長、ありがとうございます」
まだほんのりと頬を染めた悠真が可愛すぎて、正直倉橋さんにも見せたくないと思ってしまった。
みんなで乾杯をして、ゴクっと泡盛を一口いただく。隣に座る悠真に目を向けると彼は嬉しそうにこちらを向いていた。
ひとしきり料理と酒を楽しみながら会話を楽しむ。
「それで、砂川は安慶名さんのどこが気に入ったんだ?」
突然倉橋さんから質問が投げかけられた。
今まで他人への愛情が見られないと母親に心配され、倉橋さんでさえ、恋愛に興味がないと思っていた悠真が伊織に興味を示したことが気になるのだろう。興味津々な様子で悠真に尋ねる。正直なところ、伊織自身も悠真の答えを聞いてみたい。
「そんなの……全部に決まっています」
彼はさも当然とでも言いたげに返した。
「全部?」
「はい。他人への優しい気遣いも安心させてくれる穏やかな口調も誰に対しても礼儀正しいところも、そして……綺麗な顔立ちも全てが理想的な方ですから」
悠真からの賛辞に今度は伊織のほうが顔を赤くしてしまう。
「悠真……酔っているのではありませんか?」
「確かに少し酔っていますけど、話していることは私の本心ですよ。伊織さんほど心から惹かれる人に私は初めて出会いましたから……」
しなだれかかってくる悠真が可愛すぎて伊織はギュッと抱きしめた。
「もう時間も遅いですし、そろそろお開きにしましょうか」
気を利かせてくれたんだろう、倉橋さんが立ち上がり、グラスや皿をキッチンに運び出した。
「私もお手伝いを……」
「いえ、安慶名さんは砂川をお願いします。そのままにしておくと眠ってしまいますよ」
そうなればもう夜の時間は無くなってしまいますよと言われているようで、少し気恥ずかしい。
だが、昨夜から我慢していた伊織はもう収まりがつかない。
「そうそう、明日は私も砂川も休みです。朝はのんびりしようと思いますから、安慶名さんに食事を作っていただくのは昼食にしておきましょうか。ですから、どうぞごゆっくり」
先手先手でどこまでも気の利く倉橋さんにそんなことを言われて恥ずかしくないわけがないが、ここは倉橋さんの言葉に甘えるとしよう。
「倉橋さん、ありがとうございます。それでは私たちは失礼します。悠真、行きましょうか」
倉橋さんに頭を下げ、悠真を抱きかかえた。驚いて悠真は伊織の首に縋り付いた。
そんな悠真を愛おしく思いながら中庭から離れへ向かうと、遠目で見ていた時よりももっとずっと大きな家で驚いてしまう。
ガラガラと引き戸を開け中に入る。本当に私が泊まることを想定していたようで、部屋をクリーニングしてくれていたようだ。どこも綺麗に片付けられている。しかも、さっき悠真が部屋に入った時にクーラーをつけておいてくれたようで部屋は心地良い温度に保たれている。
このまま寝室へ向かうのはそれしか考えていないようで恥ずかしいが、悠真が寝てしまっては元も子もない。
伊織は悠真を抱きかかえたまま、寝室に向かった。

