玄関のチャイムが鳴り、まだ食事には早いと思っているとどうやら頼んでいた悠真のスーツがクリーニングから戻ってきたようだ。
急いで玄関まで取りに行こうとする悠真を制して、伊織が受け取りに行った。
なんと言っても悠真の寝起きのあの可愛らしい顔など誰にも見せるわけにはいかない。
それにあんなに魅力的な浴衣姿を見せるなどもってのほかだ。
スタッフから悠真のスーツを受け取りながら、伊織はこれからのことを考えていた。
それというのも悠真のあの無防備さだ。
恋人となった今、これから先、西表に一人で残しておくのが心配になってしまう。
なんとかして、少しでも早くこちらに移住する方法を考えなければいけない。
K.Yリゾートの顧問弁護士を引き受け、西表に腰を据えるのも一つの手だ。
ただ、東京に開業したばかりの事務所もある。悠真との将来を考えてもすぐに結論を出すのは早計だろう。
そんなことを延々と頭の中で考えながら、受け取ったスーツを悠真に渡した。
彼はそれを受け取ると、そのまま寝巻きにしていた浴衣の帯をスーッと外した。
そして惜しげもなく綺麗な肩を見せながらゆるりと浴衣を脱いでいく。
絵画のように美しいその姿を声も出せずにただ黙って見つめる。しかし、不躾な視線に気づいたのか彼がハッと顔を赤らめながら、脱いだ浴衣を拾い上げそっと身体を隠した。
「す、すみません……つい、いつもの癖で」
悠真の身体ならもう隅々までしっかりと目に焼き付けているというのに、こんなにも恥ずかしがるなんてどこまで初心なのだろう。
「謝ることなんて何もないですよ。朝から悠真の美しい肌が見られるなんて幸せでしかない」
彼をそっと抱きしめ、綺麗に艶めく髪にそっとキスを贈る。
「私の身体、お好きですか?」
上目遣いに尋ねられる。ほんのりと頬が赤くなっているから、きっと照れているのだろう。
そんなふうに照れながらも可愛い質問をしてくる彼が愛おしくてたまらない。
「もちろん好きですよ。ですが、身体だけじゃなくて悠真自身が好きなんです。絶対に誰にも触れさせないでください」
「……伊織さんも」
「えっ?」
「伊織さんも誰にも触れさせないでください。もう、私のものですよね?」
「ええ。もちろんです。私はもう全て悠真のものですよ」
ギュッと悠真を抱き締めると、彼の吸い付くような心地良い素肌の感触にあっという間に昂りそうになる。
こんな朝っぱらから欲望に塗れているなど悠真に知られては恥ずかしい。必死に昂りを抑えながら愛しい悠真を抱きしめ続けた。
部屋で朝食をとり、そろそろホテルを出る時間になった。
昨夜の時点で今日出発することを伝えていたから、ホテルの入り口には車がきちんと用意されていた。
彼の壊れてしまった車は、あの女が故意に故障させた証拠物件として警察が既に運んでいる。
支配人は迷惑をかけてしまったことを深く詫びていたが、これも悠真が出会うきっかけになったと思えば全てが悪いことばかりでもない。ただ、悠真に怖い想いをさせたあの女を許すつもりは毛頭ない。しっかりと罪を償ってもらうとしよう。
ホテルを出て助手席に悠真を乗せ一路、離島ターミナルへ向かう。
「そういえば、今回は石垣への出張でしたが、悠真は出張は多いんですか?」
「そうですね……ほとんどは西表にいますが、石垣への出張は多くて月に三度くらいでしょうか。あとは、東京の倉橋に届け物がてら、イリゼホテルで浅香さんと新しいツアー企画の打ち合わせや会議に参加することもありますので、月に数回は東京へ行きますね」
「そうなんですか。じゃあ、東京でも悠真に会えるんですね。東京での宿泊はイリゼホテルですか?」
「いえ、真琴がいますからその時だけ真琴の部屋に泊めてもらってるんです。ただ……」
東京で悠真と出会えるなら、そのまま家に泊まらせればいい。そう思っていたのだが、そうか……東京には弟くんがいたのだったな。親元離れて一人暮らしをしている弟を心配するのは当然だ。
しかも倉橋さんの持っている部屋を借りていると言っていた。それなら悠真一人くらい余裕で泊まれるのだろう。
家に誘うのは無理か……と思っていたが、どうも悠真には憂いがあるようだ。
「何か不都合でも?」
「不都合というか……どうやら最近、真琴に恋人ができたようで、その恋人から一緒に住まないかと誘われているみたいなんです」
悠真の弟で同じようなタイプなら、心配で一緒に暮らしたいと思うのは当たり前かもしれない。
「真琴はしっかりした子ですから、恋人と同棲したからといって勉学に身が入らなくなるタイプではないので、その心配はないのですが……次からはホテルを取らないといけなくなりそうです」
悠真が弟くんの家に泊まれなくなる。どうやら天は伊織に味方をしてくれるらしい。
「ホテルは必要ないでしょう? 悠真は私の家に泊まればいいんです」
「でも、それじゃあ伊織さんにご迷惑では?」
「何を言ってるんですか? 恋人が泊りに来てくれるだなんて嬉しい以外の何ものでもないですよ。それに悠真がホテルに一人で泊まっているだなんて心配で眠れなくなります。悠真は私を寝不足にしたいですか?」
わざとそう言って見せると、悠真は慌てて首を横に振る。
「それなら決まりですね」
無理やり押し通した感は否めないが、悠真と心が繋がっていても東京と西表で物理的に離れているのだから近くで会えるチャンスをみすみす取り逃がすわけにはいかない。伊織のあまりにも強硬な様子に呆気に取られたような悠真だったが、すぐに笑顔を浮かべて「お願いします」と言ってくれた。
これで東京でも悠真との時間を過ごすことができる。こうしてお互いに仕事も守りつつ会えるように努力するとしよう。
借りていたレンタカーを返して離島ターミナルへ向かうと、すぐに西表島行きの船がやってきた。
「伊織さん、こちらです」
いそいそと船へ案内してくれる悠真がまるで伊織の秘書のように見えてくる。
いっそのこと彼が本当に伊織の秘書になってくれたら仕事も捗るだろうが、K.Yリゾートの仕事をあんなにも楽しそうに話してくれていた悠真に辞めてくれとは絶対に言えない。
近くにいたければ、伊織が彼の近くにくればいいだけの話だ。難しいことは何もない。
石垣から西表までは船で小一時間。激しい揺れもなく、悠真と話をしているとあっという間に西表の港に到着した。
同じ離島とはいえ、やはり西表は空気が違う気がする。
悠真に案内してもらい、タクシー乗り場へ向かった。K.Yリゾートまではここから車でそんなにはかからないようだ。
二人でタクシーに乗り込むと運転手が気軽に話しかけてきた。
「えー、砂川さん、出張ね?」
久しぶりに耳にする沖縄のイントネーションに思わず顔が綻ぶ。
「そうなんです。今回は石垣に行ってきました」
「そっちのイケメンは新入社員?」
「いえ、こちらの方は――」
「初めまして。この度K.Yリゾートさんの顧問弁護士を委託されました安慶名と申します」
悠真が紹介しようとしてくれたのを遮って自分から挨拶をした。
「べ、弁護士さん? はぁーっ、すごい。ここに住んで長いけど弁護士さんは初めて見たよ。こんなにイケメンな上に弁護士さんね? いやぁー、これで砂川さんも安心だねぇ」
「いえいえ、そんなことは……」
あまりにも気さくに悠真に声をかける運転手に大人げなく嫉妬してしまったけれど、相手は何も気にするどころか伊織を褒めてくれた。
いつも礼儀正しくて優しい悠真はきっと、恋愛感情とかそういう意味ではなくてこの島の方に愛されているのだろう。
「K.Yリゾートさんは砂川さんはもちろん、社長さんもかなりのイケメンさんだからね。やっぱりイケメンさんが集まるのかね? 安慶名さんが西表に来るようになったらまたうちの母ちゃんが喜びそうだよ」
運転手は尚も話し続けて、ずっとをイケメン、イケメンと言って騒いでいたが不思議と嫌な気持ちには全くならなかった。
これが島の人たちの優しさか。こうやって島の人たちに歓迎されて島民として認められるんだろう。
会社の前でタクシーを降りると、かなり大きな会社に驚いた。
小さな離島の観光ツアー会社だからそこまでではないだろうと勝手に思っていたが、ここでこの規模の会社か……
改めて倉橋さんの手腕に驚かされる。
「伊織さん、どうぞ」
案内され、建物の中に入る。
「安慶名さん、お越しいただきありがとうございます」
奥から聞き慣れた声が聞こえてきた。
この声は……とそちらに目を向けると、そこには倉橋さんの姿があった。
急いで玄関まで取りに行こうとする悠真を制して、伊織が受け取りに行った。
なんと言っても悠真の寝起きのあの可愛らしい顔など誰にも見せるわけにはいかない。
それにあんなに魅力的な浴衣姿を見せるなどもってのほかだ。
スタッフから悠真のスーツを受け取りながら、伊織はこれからのことを考えていた。
それというのも悠真のあの無防備さだ。
恋人となった今、これから先、西表に一人で残しておくのが心配になってしまう。
なんとかして、少しでも早くこちらに移住する方法を考えなければいけない。
K.Yリゾートの顧問弁護士を引き受け、西表に腰を据えるのも一つの手だ。
ただ、東京に開業したばかりの事務所もある。悠真との将来を考えてもすぐに結論を出すのは早計だろう。
そんなことを延々と頭の中で考えながら、受け取ったスーツを悠真に渡した。
彼はそれを受け取ると、そのまま寝巻きにしていた浴衣の帯をスーッと外した。
そして惜しげもなく綺麗な肩を見せながらゆるりと浴衣を脱いでいく。
絵画のように美しいその姿を声も出せずにただ黙って見つめる。しかし、不躾な視線に気づいたのか彼がハッと顔を赤らめながら、脱いだ浴衣を拾い上げそっと身体を隠した。
「す、すみません……つい、いつもの癖で」
悠真の身体ならもう隅々までしっかりと目に焼き付けているというのに、こんなにも恥ずかしがるなんてどこまで初心なのだろう。
「謝ることなんて何もないですよ。朝から悠真の美しい肌が見られるなんて幸せでしかない」
彼をそっと抱きしめ、綺麗に艶めく髪にそっとキスを贈る。
「私の身体、お好きですか?」
上目遣いに尋ねられる。ほんのりと頬が赤くなっているから、きっと照れているのだろう。
そんなふうに照れながらも可愛い質問をしてくる彼が愛おしくてたまらない。
「もちろん好きですよ。ですが、身体だけじゃなくて悠真自身が好きなんです。絶対に誰にも触れさせないでください」
「……伊織さんも」
「えっ?」
「伊織さんも誰にも触れさせないでください。もう、私のものですよね?」
「ええ。もちろんです。私はもう全て悠真のものですよ」
ギュッと悠真を抱き締めると、彼の吸い付くような心地良い素肌の感触にあっという間に昂りそうになる。
こんな朝っぱらから欲望に塗れているなど悠真に知られては恥ずかしい。必死に昂りを抑えながら愛しい悠真を抱きしめ続けた。
部屋で朝食をとり、そろそろホテルを出る時間になった。
昨夜の時点で今日出発することを伝えていたから、ホテルの入り口には車がきちんと用意されていた。
彼の壊れてしまった車は、あの女が故意に故障させた証拠物件として警察が既に運んでいる。
支配人は迷惑をかけてしまったことを深く詫びていたが、これも悠真が出会うきっかけになったと思えば全てが悪いことばかりでもない。ただ、悠真に怖い想いをさせたあの女を許すつもりは毛頭ない。しっかりと罪を償ってもらうとしよう。
ホテルを出て助手席に悠真を乗せ一路、離島ターミナルへ向かう。
「そういえば、今回は石垣への出張でしたが、悠真は出張は多いんですか?」
「そうですね……ほとんどは西表にいますが、石垣への出張は多くて月に三度くらいでしょうか。あとは、東京の倉橋に届け物がてら、イリゼホテルで浅香さんと新しいツアー企画の打ち合わせや会議に参加することもありますので、月に数回は東京へ行きますね」
「そうなんですか。じゃあ、東京でも悠真に会えるんですね。東京での宿泊はイリゼホテルですか?」
「いえ、真琴がいますからその時だけ真琴の部屋に泊めてもらってるんです。ただ……」
東京で悠真と出会えるなら、そのまま家に泊まらせればいい。そう思っていたのだが、そうか……東京には弟くんがいたのだったな。親元離れて一人暮らしをしている弟を心配するのは当然だ。
しかも倉橋さんの持っている部屋を借りていると言っていた。それなら悠真一人くらい余裕で泊まれるのだろう。
家に誘うのは無理か……と思っていたが、どうも悠真には憂いがあるようだ。
「何か不都合でも?」
「不都合というか……どうやら最近、真琴に恋人ができたようで、その恋人から一緒に住まないかと誘われているみたいなんです」
悠真の弟で同じようなタイプなら、心配で一緒に暮らしたいと思うのは当たり前かもしれない。
「真琴はしっかりした子ですから、恋人と同棲したからといって勉学に身が入らなくなるタイプではないので、その心配はないのですが……次からはホテルを取らないといけなくなりそうです」
悠真が弟くんの家に泊まれなくなる。どうやら天は伊織に味方をしてくれるらしい。
「ホテルは必要ないでしょう? 悠真は私の家に泊まればいいんです」
「でも、それじゃあ伊織さんにご迷惑では?」
「何を言ってるんですか? 恋人が泊りに来てくれるだなんて嬉しい以外の何ものでもないですよ。それに悠真がホテルに一人で泊まっているだなんて心配で眠れなくなります。悠真は私を寝不足にしたいですか?」
わざとそう言って見せると、悠真は慌てて首を横に振る。
「それなら決まりですね」
無理やり押し通した感は否めないが、悠真と心が繋がっていても東京と西表で物理的に離れているのだから近くで会えるチャンスをみすみす取り逃がすわけにはいかない。伊織のあまりにも強硬な様子に呆気に取られたような悠真だったが、すぐに笑顔を浮かべて「お願いします」と言ってくれた。
これで東京でも悠真との時間を過ごすことができる。こうしてお互いに仕事も守りつつ会えるように努力するとしよう。
借りていたレンタカーを返して離島ターミナルへ向かうと、すぐに西表島行きの船がやってきた。
「伊織さん、こちらです」
いそいそと船へ案内してくれる悠真がまるで伊織の秘書のように見えてくる。
いっそのこと彼が本当に伊織の秘書になってくれたら仕事も捗るだろうが、K.Yリゾートの仕事をあんなにも楽しそうに話してくれていた悠真に辞めてくれとは絶対に言えない。
近くにいたければ、伊織が彼の近くにくればいいだけの話だ。難しいことは何もない。
石垣から西表までは船で小一時間。激しい揺れもなく、悠真と話をしているとあっという間に西表の港に到着した。
同じ離島とはいえ、やはり西表は空気が違う気がする。
悠真に案内してもらい、タクシー乗り場へ向かった。K.Yリゾートまではここから車でそんなにはかからないようだ。
二人でタクシーに乗り込むと運転手が気軽に話しかけてきた。
「えー、砂川さん、出張ね?」
久しぶりに耳にする沖縄のイントネーションに思わず顔が綻ぶ。
「そうなんです。今回は石垣に行ってきました」
「そっちのイケメンは新入社員?」
「いえ、こちらの方は――」
「初めまして。この度K.Yリゾートさんの顧問弁護士を委託されました安慶名と申します」
悠真が紹介しようとしてくれたのを遮って自分から挨拶をした。
「べ、弁護士さん? はぁーっ、すごい。ここに住んで長いけど弁護士さんは初めて見たよ。こんなにイケメンな上に弁護士さんね? いやぁー、これで砂川さんも安心だねぇ」
「いえいえ、そんなことは……」
あまりにも気さくに悠真に声をかける運転手に大人げなく嫉妬してしまったけれど、相手は何も気にするどころか伊織を褒めてくれた。
いつも礼儀正しくて優しい悠真はきっと、恋愛感情とかそういう意味ではなくてこの島の方に愛されているのだろう。
「K.Yリゾートさんは砂川さんはもちろん、社長さんもかなりのイケメンさんだからね。やっぱりイケメンさんが集まるのかね? 安慶名さんが西表に来るようになったらまたうちの母ちゃんが喜びそうだよ」
運転手は尚も話し続けて、ずっとをイケメン、イケメンと言って騒いでいたが不思議と嫌な気持ちには全くならなかった。
これが島の人たちの優しさか。こうやって島の人たちに歓迎されて島民として認められるんだろう。
会社の前でタクシーを降りると、かなり大きな会社に驚いた。
小さな離島の観光ツアー会社だからそこまでではないだろうと勝手に思っていたが、ここでこの規模の会社か……
改めて倉橋さんの手腕に驚かされる。
「伊織さん、どうぞ」
案内され、建物の中に入る。
「安慶名さん、お越しいただきありがとうございます」
奥から聞き慣れた声が聞こえてきた。
この声は……とそちらに目を向けると、そこには倉橋さんの姿があった。

