結局、その練習試合は理人がボランチに入ったことで、
俺は驚くほど動きやすくなった。
パスが早い。
判断が早い。
俺が走り出す一拍前に、もうボールが出てくる。
結果、俺は二点決めた。
正直、出来すぎだと思う。
たぶん次の公式戦、スタメンは無理でも、
ベンチ入りはほぼ確実だ。
試合の帰り道、俺たちは自然と一緒に帰っていた。
理人が「コンビニ寄るわ」と言うから、
別に買うものもなかったけど、
なんとなくついて行った。
アイスケースの前で悩んでる理人を見てたら、
何故か俺もつられてアイスが食べたくなった。
結局コンビニの駐車場に並んで座って、
部活のジャージのまま黙ってアイスを食べる。
さっきまで、ほとんど喋らなかったくせに、
理人が急に口を開いた。
「俺さ……」
意味深に話し始めるし、なんか言い淀んでいるから、
俺はさっきのプレーでなんか言いたいことが
あるのかと思った。
なのに……
「お前の弟が好きなんだよね」
(……は?)
「だから正直、お前のことはどうでもいい」
何を言ってるのか、理解するのに少し時間がかかった。
「俺は真白に会いたい。
そのためにお前と仲良くなっただけ。
だから、さっさとお前ん家行かせろ」
衝撃だった。
こいつは、やばい。
マジで、やばい。
俺は今までの人生で、
自分より性格の悪いやつは、父以外、
出会ったことがなかった。
でも――
今日、初めて見た。
しかも、
最高のパスを出してくるボランチが、
平然と、こんなことを言う。
「えーっと、理人はゲイ?なん?」
俺は言いたいことを全て飲み込んで、
安全そうな質問から始めた。
「いや、わからん。真白が初恋。真白が好き。
真白以外知らん」
(えぇ……直球……俺のオブラート返せ)
「あ、あぁ……そうなん……。
ってか、真白と絡みあったっけ?
U12とU10、たまにしか一緒に練習した記憶ないけど」
「あぁ、うん。一目ぼれ。めっちゃ可愛いって……」
(ええええ、めっちゃ顔赤らめるじゃん……
なに、この両手あわせて口元隠すポーズ……
こんなの恋する乙女しかしないだろ……)
「ひ、一目ぼれね。あぁ、うん。そう……」
「真白、可愛すぎない?
俺、お前と兄弟って聞いてビックリしたんだけど。
遺伝子って残酷だな。
同じ兄弟なのに、
こんなひねくれたやつと、
天使が生まれるなんてさ」
(……こんにゃろう)
「……それは俺に失礼だろ?
ってか、真白より俺のがモテるから!
俺のがスペック高いから!」
「そーゆーとこだよ。
なんでみんなこんな奴に騙されんだろうな。
俺が腹黒王子ってあだ名、流行らせようかな」
(こいつ……マジ潰す!)


