ヴァルローゼ国の第一王女であるシェラ王女は俺が騎士として守らなければならない人である。
けれど、俺は騎士として命尽きるその時まで彼女を守ることは出来なかった。
「ねえ、ルヴァン聞いているの?」
「あ、申し訳ありません、殿下。聞いていませんでした」
シェラが最も信頼する騎士の一人であるルヴァンはシェラの声にはっと我に変える。
シェラはそんなルヴァンを見て軽くため息をついてから話し始める。
「来月、ヴァリアント王子殿下の誕生日なのだけれど、何をプレゼントしたらいいか迷っていて。男の人が貰って嬉しい物ってわからないから、ルヴァン、貴方の意見が聞きたいのだけれど」
「んー、そうですね。貰って嬉しい物…… 人それぞれだと思いますが、俺は殿下からなら何を貰っても嬉しいなって思いますよ」
ルヴァンの返答があまりにも参考にならなすぎて、シェラはまたため息をついてしまう。
「そうなのね、ありがとう。でも、あまり参考にならないわ」
「そうですか、お力になれず申し訳ありません」
ヴァリアント王子殿下の誕生日が終わった後に、俺は行動を起こすと決めていた。あの日、母親を見捨てたヴァリアント王子殿下をこの手で殺める為だけに俺は騎士になった。
ヴァリアント王子殿下に近付く為、俺は王立騎士団の副団長に上り詰め、シェラ王女の騎士に志願したのだ。
「ねえ、ルヴァン、ヴァリアント王子殿下の誕生日の日にプレゼントする物を選ぶの手伝って欲しいのだけれど」
シェラの言葉にルヴァンは優しく笑い「いいですよ」と返答する。
俺が殿下の騎士ではいられなくなるその時まで、殿下を守る騎士でありたい。ずっと殿下の騎士でいたいなど望んではいけないのだから。
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冷たい牢獄の中、俺は騎士として生涯守るべき人であったシェラ王女殿下との懐かしい日々を思い出していた。
「本当は、殿下の騎士であり続けたかった。母親を見殺しにしたヴァリアント王子殿下を許すことができていたら、俺は殿下の側にいられたのにな……」
この手でヴァリアント王子殿下を殺めてしまったのだから、今更全てが遅いのだ。俺は明日、公開処刑される。
「俺は本当に馬鹿なことをしたな」
暗闇の中で静かにそう呟いたルヴァンの声は冷たい地下牢の空気に溶け込むように消えていく。



