あの夏、失くした物《番外編》


 夏の日差しが葵の肌に当たり、懸命に鳴き続ける蝉の声が葵の耳に届く。

 あの日から2年が経ったのだなと葵は思いながら、足を止め少し遠くに見える真夏の入道曇を見上げるように瞳に映す。

 毎年、夏になると思い出す。大切な私の親友であった彼女のことを。


◇◆◇

「葵ちゃん、久しぶりね」
「お久しぶりです」


 今日はまつりの命日である7月20日。私は毎年、彼女の母親(三坂雪子)と共にお墓参りに来ている。まつりが居なくなってから、私はずっとあの日の事を悔いては悲嘆していた。

 八つ当たりで言ってしまった事を謝ることさえも出来ずに居なくなってしまった彼女(まつり)。

 事故の事があってから精神的に病んでしまい不登校気味になっていた時、まつりの母親である雪子さんが『お墓参りに来てほしい』という連絡が入ったのが私がまつりの命日にお墓参りに行くきっかけとなった事の始まりである。


「まつり、今年も来たよ〜‼︎ ほら、見て。まつりの好きな苺大福も買ってきたんだ」

 まつりのお墓の前で私は明るくそう声を掛ける。きっと私の言葉が届いてると信じて。

「まつり、今年も葵ちゃんが来てくれたわよ。よかったわね」

 そんな母親と葵の言葉に答えるかのように心地良い風が吹き、葵と雪子の髪を揺らす。


◇◆◇

 『また、来年の夏。会いに来るからね』

 葵はそう言い残しまつりの母親と共にその場を後にしようとした時、夏の風に乗って、『ありがとう』と聴こえたのはきっと聞き間違いなんかではなくて。

「まつり…!?」

 葵は足を止め勢いよく振り返ったが、そこにまつりの姿はあるはずもなく。葵の隣を歩いていた雪子が驚いたように自分を見て足を止め『どうしたの?』と声を掛けてきたことによって、葵ははっと我に変える。

「あ、えっと、なんでもないです!」
「そう」

(きっと、今のはまつりだ。気のせいなんかじゃない……)

 葵は嬉しいようなと悲しいような何とも言えない気持ちが胸の中に広がりつつも、泣くのを堪えた。

『ありがとう、葵、お母さん 』

 遠ざかる二人の背を見送りながら、嬉しいそうにまつりがそう言った事を二人は知らない。