星の姫君


 地上を見下ろせるように作られた白い塔の上の部屋に幽閉されている1人の少女は開いている窓から見える夜の空に浮かぶ星々を見上げるように瞳に映しながらそっと、星の光を掴むように夜空に手を伸ばす。

「どうしてこうなってしまったのかしら……」

 少女の金髪の髪が部屋にある一つの窓から差し込む星々の光によって、より一層綺麗に光り輝いて見えた。

 自国と隣国の戦に終止符を打つことと引き換えに自らの命を差し出した王国の姫君。
 
 もう、決して戻ることは出来ない母国である地上の様子が床に映し出されている光景を見て切ない気持ちになる。


◇◆◇

 自分がまだ地上で生きていた頃、とある国の王女として異母兄である王子達よりも民達の声に耳を傾け、自分に出来ることを精一杯やっていた結果、次期王として指名された。

 今思えば、あの時の【選択】が、このような結末を変えることが出来る重要な分岐点だったのかもしれない。

 些細なことがきっかけで交友関係にあった隣国との間に亀裂が入り、戦へと発展してしまったあの日のことを、今でも鮮明に覚えている。

 戦に発展してしまった事は自分が招いた事だと嘆き苦しむ私の前に不思議な雰囲気を纏った青年が現れた。

『戦を止めたいですか?』
『貴方は誰……?』
『私は通りすがりの旅人です』

 名前も何処の者かさえもわからない彼。けれど、目の前に立っている彼の真っ直ぐな芯のある瞳から私は何故か目が離せなかった。

『戦を止めることが出来るの?』

 そう、問い掛けた私を見て旅人だと名乗った青年は怪しげに笑う。

『貴方の命と引き換えにですが』

 追い込まれている状況ではなかったら、耳を貸さなかったはずだ。けれど、余裕のなかった私は一か八か賭けることにしたのである。

『己の命と引き換えに戦が止まるのなら』と。
『いいわ。戦が止まりまた、平和になるのなら』

 そう、返答するのと同時に目の前が真っ暗になり、視界が歪む。
 遠ざかる意識の中で、彼が憐れむように私のことを見ていたことに何故か胸がざわついた気がした。

 目を覚ますと今いる塔の真上の部屋であるこの場所に居た。あの男が何者だったのか、自分は本当に死んだのか。未だにわからない。

 けれど、ただ一つだけわかっている事。
 それは、戦が終わったということ。

 部屋の床から見える。地上の様子を映した映像。ここから私は大切な母国を永遠に見守り続ける。それが私に課さられたこの場所での役割であるのだから。