「これから君たちには魔力の扱い方を覚えてもらう。これは基本にして究極の技術であり、極めればどんな相手も敵にはならない……と言われている」
アウグストがそう言った。
ただ、微妙というか気になる言い方だった。
それは皆も同じようで、皆瀬が尋ねる。
「……言われている、とはどういうことでしょうか?」
そう、その部分だ。
アウグストは頷く。
「実際には少し違うということだな。嘘ではないのだが、そこまで極めた者というのが果たしているのかどうか、分からん」
「教官もでしょうか?」
「俺など大したものではない。しかし……フンッ!!」
アウグストは拳を固め、そのまま思い切り地面を殴った。
すると、殴られた地面からは土が巻き上げられ、土埃を辺りに散らす。
そしてそれらが張れると、そこには大穴が出来上がっていた。
「まぁこの程度のことは出来る」
アウグストがなんでもないことのように言った。
実際、大した疲れも見えず、本気は出していないということなのだろう。
にもかかわらず、あれだけのことが出来る。
これが魔力の扱い……その一つ、身体強化の可能とすることなのか。
「ここまで出来ても極めたとは言えないのですね……」
皆瀬は唖然した様子だ。
ただ驚いたのは彼女だけでなく、この場にいる全員がそうだ。
「あぁ。極めると海を割り、山を穿つと言われているからな。そんなことは俺には出来ん……とはいえ、魔力の有用性は分かってもらえた思う。それを学ぶ重要性もな」
これには皆同意するように頷いた。
アウグストは続ける。
「しかしだ。魔力というのは、いきなり自覚したり扱うことの難しい力だ。実際、君たちは魔力など一切感じていないと思う。確かにここにあるのに、だ」
アウグストの言葉に、何かこの場に不可視の力があるのだと意識してみるも、いつもと何も変わったことはない。
皆も同じようで、秋人が、
「律、何か感じた?」
と僕に聞いてくる。
「いや……特に何も。春親は?」
「俺も何も感じねぇなぁ……清香と穂乃はどうだ?」
「……私も駄目ね」
「私は……ちょっと何かあるのを感じるような……」
穂乃の言葉を聞いたアウグストが驚く。
「む、本当かね?」
「え、ええと……断言は出来ないですけど……この辺とかこの辺に何かほこりっぽいような感じが」
穂のがいくつかの空間を指さして言う。
僕からすると何もないところを示しているようにしか見えなかった。
けれどアウグストが唸ったのは、それは違うのだと分かった。
「確かに感じられているようだ。といってもとっかかりを掴んだだけに過ぎないようだがな。それでも素晴らしい。穂乃、君には魔力の感知に関して図抜けた才能があるのかもしれぬ」「ほ、本当ですか!?」
「あぁ。ただ、感知能力が高いからと言って、強いかというとそれもまた別な話なのだがな。魔力は奥が深い」
「あぁ……そうなんですね……」
少しがっかりする穂乃。
気持ちは分かる。
「とはいえ、意味はある。そもそも、今日はそのとっかかりを皆に体験してもらうつもりでいたからな」
「と言うと?」
僕の質問にアウグストは答える。
「魔力そのものを、いきなり扱おうとしたり自覚しようとしたりするのは通常、難しい。しかし、間接的にであれば意外に簡単に扱うことが出来るのだ」
「間接的に……?」
「そうだ。スキルを使う、という方法だな」
スキル。
訓練ではそれも扱うという話だったのを思い出す。
「そういえば、スキルって結局そもそも何なんですか?」
春親が尋ねる。
「スキルそのものの話だな。これについては細かい定義などを語り始めると中々に難しいのだが……その辺りは学者達に任せるとして、だ。一般的にはその個人の適性と経験が魂に刻みつけられたもの、と言われる」
「……ええと」
「たとえば、私は《上級剣技》というスキルを身につけている。これは剣士系の職業の者に発現しやすいスキルなのだが、ただ剣士であれば身につくというものではない。訓練や実践を繰り返していくことで、いずれ身につけられることもある、そういうものだ」
思ったよりも便利なものじゃないというか、簡単なものではなさそうだとそれで分かる。
「うーん、剣技が上達すると身につく、ということですか?」
春親の疑問に、アウグストは少し考えて首を振った。
「その言い方も正しいようで正しくない。いくら剣技に長けようとも身につかない場合があるからな」
「じゃあ一体何のためにスキルはあるのです?」
当然の疑問で、アウグストもそれは想定していたようだ。
「そのスキルに特有の、技を扱えるようになるのだ。たとえば……《スラッシュ》!」
アウグストがそう叫んで剣を振るうと、そこからまるでゲームのエフェクトのような光が上がった。
見本を見せてくれたということだろう。
「これは……」
「今のは大分分かりやすくしたが、こういうものだな。武技系統の技は《戦技《アーツ》》とも呼ばれるが、それぞれのスキルにはこうしたものがある。そしてそれらは魔力を使った強力な効果を持つのだ。今の《スラッシュ》だと、一般的には威力が通常の五割増し程度にはなると言われる」
それは大分凄いのではないだろうか。
しかも、今アウグストは一般的には、と言った。
つまり個人差もあるということだ。
ただ自動的に技が出るというのも少し違うようだとそれで分かる。
「一体どういう仕組みで……」
僕がふと口にすると、アウグストはそれについても説明してくれた。
「神が与えた力だと言われている。生き物が生きるために必要な力であると」
そんなわけがない。
神などいるはずがないし、こんな力などなくとも地球で人間は生きている。
反射的にそう思ったが、それはあくまでも地球での常識だ。
この世界では違うのかも知れないとすぐに思い直した。
「その辺りについても突き詰めて考えることは出来るが……そう簡単に根源を理解することは出来ない。歴史上、数々の天才奇才達が答えを追い求めてきたが、未だこれだと言える説は存在しない。だから、悪いがあくまで一般的には、という話しか出来ん。そういうものだと思っておくのが一番簡単で、大抵のものはそうしている」
アウグストはそのまま、他にもスキルや技というのは色々あると具体例を上げながら説明してくれた。
《上級剣技》は非常に分かりやすいものだから最初に見せたが、スキルはこういった武技系に限らないという。
たとえば《耐性》スキルというものがあり、これは自分で意識せずとも自動的に発動するものだという。
《毒耐性》スキルなら、毒を摂取したときに勝手に働き、毒の効果を弱めるとかそういう形で。
また魔法系スキルは身に付けるとその系統の魔法や魔術の使い方が直感的に分かるらしい。
ただ、これは適性と関係しているので、身につけたいと思って簡単に身につくというものでもないとも。
それを言うなら武技系も同じではあるが、ステータスなどには出てこないのでわかりにくいとか……。
アウグストの話は多岐に渡ったが、全て聞いて思ったことは結局、スキルについては分かっていないことが多いということだ。
ただ、身につければそのスキルに属する技やら何やら使える。
そしてそれは意識的に使うものと、無意識的に使われるものがある。
それくらいだけが共通点で、後はごった煮のようなもの。
だから考えるだけ無駄というか、学者でもないのに追求すると、それだけで人生が大和手しまう。
そんな話だった。
アウグストが詳しく説明してくれたのはそのためで、このことを最初に理解しておかないと考えすぎて時間を無駄にするからだと言った。
かつてアウグストにもそんな時期があったらしい。
もちろん、考えることは大事だし、たまにはそんなときがあってもいいが、あまり拘泥しないのもまた大事だ、とのことだ。
「さて、スキルについてはこんなところでいいだろう……あとは実際に使ってみることだ。スキルは魔力を使って発動する。だから使えば自分の魔力は勝手に動く」
それが、間接的な魔力の使い方、ということらしい。
「皆は、自分がどんなスキルを持っているか、すでに知っているな」
これについてはステータス鑑定の時にそれぞれに伝えられている。
あの時は主に勇者としての称号の方に着目されていたので、そこまで気にはされなかったが、それでも覚えているし、あの時の紙はそれぞれに手渡されているのでちゃんと分かる。
「ええと、俺のスキルは……《初級武技》か。他にも色々あるけど……」
春親が紙を見ながらそう呟いた。
勇者である四人は、スキルをたくさん持っているらしい。
僕も一応、三つくらいあったのだが、勇者の皆は十個前後ということなので格差を感じる。
それでも、最初からスキルを持っているということ自体が珍しいため、別に駄目ではないとは言われたが。
「ほう、《武技》か」
「なんだか大雑把な括りに聞こえますけど」
春親はあんまり気に入っていないようでそう呟くが、アウグストの評価は高いようだ。
「大雑把というか、それは全ての武技に長ける可能性を秘めた、万能スキルだ。魔法や魔術は含まれてはいないが、たとえば、私の持つ剣技を始め、槍や弓などの《戦技》を扱えるようになるかもしれん」
「え」
「反面、器用貧乏になりやすいとも言えるが……鍛え続ければそれに応えてくれる良いスキルだ。どれ……使ってみるといい」
言いながら、アウグストは木剣を春親に渡す。
「使ってみるって……どうやって?」
木剣を適当に構えつつ、春親は尋ねた。
「初級とはいえ、武技なら、先ほど私が使った《スラッシュ》を扱えるはずだ。あれは《初級剣技》の《戦技》だからな。心の中で、集中してみろ。何かが語りかけてくるはずだ……」
言われて、春親は集中する。
すると、何かを掴んだようだ。
「……《スラッシュ》!」
木剣を振るうと、そこからエフェクト光が発生し、空気を切り裂いた。
その音はおそらく剣の素人なのだろう春親が出したにはあまりにも鋭すぎる音だった。
狙ったわけではないのだろう、たまたま風で運ばれてきた何かの葉が、木剣に触れて真っ二つに切られていた。
まるで、鋭い刃物によって切られたようにだ。
「うむ、確かに。どうだ? 魔力は感じたか?」
「……ええ。体の中で、何か思い粘土か泥のようなものが動いたような感覚がありました」
「それだ。重く感じるのは、今まで一切動かしたことがなかったからだな。初めはそんなものだが……なれればいずれ水のように感じられるようになる。それまでは訓練だ」
「はい」
それからは早かった。
他の面々もそれぞれ、スキルを使っていき、魔力を自覚していった。
アウグストがそう言った。
ただ、微妙というか気になる言い方だった。
それは皆も同じようで、皆瀬が尋ねる。
「……言われている、とはどういうことでしょうか?」
そう、その部分だ。
アウグストは頷く。
「実際には少し違うということだな。嘘ではないのだが、そこまで極めた者というのが果たしているのかどうか、分からん」
「教官もでしょうか?」
「俺など大したものではない。しかし……フンッ!!」
アウグストは拳を固め、そのまま思い切り地面を殴った。
すると、殴られた地面からは土が巻き上げられ、土埃を辺りに散らす。
そしてそれらが張れると、そこには大穴が出来上がっていた。
「まぁこの程度のことは出来る」
アウグストがなんでもないことのように言った。
実際、大した疲れも見えず、本気は出していないということなのだろう。
にもかかわらず、あれだけのことが出来る。
これが魔力の扱い……その一つ、身体強化の可能とすることなのか。
「ここまで出来ても極めたとは言えないのですね……」
皆瀬は唖然した様子だ。
ただ驚いたのは彼女だけでなく、この場にいる全員がそうだ。
「あぁ。極めると海を割り、山を穿つと言われているからな。そんなことは俺には出来ん……とはいえ、魔力の有用性は分かってもらえた思う。それを学ぶ重要性もな」
これには皆同意するように頷いた。
アウグストは続ける。
「しかしだ。魔力というのは、いきなり自覚したり扱うことの難しい力だ。実際、君たちは魔力など一切感じていないと思う。確かにここにあるのに、だ」
アウグストの言葉に、何かこの場に不可視の力があるのだと意識してみるも、いつもと何も変わったことはない。
皆も同じようで、秋人が、
「律、何か感じた?」
と僕に聞いてくる。
「いや……特に何も。春親は?」
「俺も何も感じねぇなぁ……清香と穂乃はどうだ?」
「……私も駄目ね」
「私は……ちょっと何かあるのを感じるような……」
穂乃の言葉を聞いたアウグストが驚く。
「む、本当かね?」
「え、ええと……断言は出来ないですけど……この辺とかこの辺に何かほこりっぽいような感じが」
穂のがいくつかの空間を指さして言う。
僕からすると何もないところを示しているようにしか見えなかった。
けれどアウグストが唸ったのは、それは違うのだと分かった。
「確かに感じられているようだ。といってもとっかかりを掴んだだけに過ぎないようだがな。それでも素晴らしい。穂乃、君には魔力の感知に関して図抜けた才能があるのかもしれぬ」「ほ、本当ですか!?」
「あぁ。ただ、感知能力が高いからと言って、強いかというとそれもまた別な話なのだがな。魔力は奥が深い」
「あぁ……そうなんですね……」
少しがっかりする穂乃。
気持ちは分かる。
「とはいえ、意味はある。そもそも、今日はそのとっかかりを皆に体験してもらうつもりでいたからな」
「と言うと?」
僕の質問にアウグストは答える。
「魔力そのものを、いきなり扱おうとしたり自覚しようとしたりするのは通常、難しい。しかし、間接的にであれば意外に簡単に扱うことが出来るのだ」
「間接的に……?」
「そうだ。スキルを使う、という方法だな」
スキル。
訓練ではそれも扱うという話だったのを思い出す。
「そういえば、スキルって結局そもそも何なんですか?」
春親が尋ねる。
「スキルそのものの話だな。これについては細かい定義などを語り始めると中々に難しいのだが……その辺りは学者達に任せるとして、だ。一般的にはその個人の適性と経験が魂に刻みつけられたもの、と言われる」
「……ええと」
「たとえば、私は《上級剣技》というスキルを身につけている。これは剣士系の職業の者に発現しやすいスキルなのだが、ただ剣士であれば身につくというものではない。訓練や実践を繰り返していくことで、いずれ身につけられることもある、そういうものだ」
思ったよりも便利なものじゃないというか、簡単なものではなさそうだとそれで分かる。
「うーん、剣技が上達すると身につく、ということですか?」
春親の疑問に、アウグストは少し考えて首を振った。
「その言い方も正しいようで正しくない。いくら剣技に長けようとも身につかない場合があるからな」
「じゃあ一体何のためにスキルはあるのです?」
当然の疑問で、アウグストもそれは想定していたようだ。
「そのスキルに特有の、技を扱えるようになるのだ。たとえば……《スラッシュ》!」
アウグストがそう叫んで剣を振るうと、そこからまるでゲームのエフェクトのような光が上がった。
見本を見せてくれたということだろう。
「これは……」
「今のは大分分かりやすくしたが、こういうものだな。武技系統の技は《戦技《アーツ》》とも呼ばれるが、それぞれのスキルにはこうしたものがある。そしてそれらは魔力を使った強力な効果を持つのだ。今の《スラッシュ》だと、一般的には威力が通常の五割増し程度にはなると言われる」
それは大分凄いのではないだろうか。
しかも、今アウグストは一般的には、と言った。
つまり個人差もあるということだ。
ただ自動的に技が出るというのも少し違うようだとそれで分かる。
「一体どういう仕組みで……」
僕がふと口にすると、アウグストはそれについても説明してくれた。
「神が与えた力だと言われている。生き物が生きるために必要な力であると」
そんなわけがない。
神などいるはずがないし、こんな力などなくとも地球で人間は生きている。
反射的にそう思ったが、それはあくまでも地球での常識だ。
この世界では違うのかも知れないとすぐに思い直した。
「その辺りについても突き詰めて考えることは出来るが……そう簡単に根源を理解することは出来ない。歴史上、数々の天才奇才達が答えを追い求めてきたが、未だこれだと言える説は存在しない。だから、悪いがあくまで一般的には、という話しか出来ん。そういうものだと思っておくのが一番簡単で、大抵のものはそうしている」
アウグストはそのまま、他にもスキルや技というのは色々あると具体例を上げながら説明してくれた。
《上級剣技》は非常に分かりやすいものだから最初に見せたが、スキルはこういった武技系に限らないという。
たとえば《耐性》スキルというものがあり、これは自分で意識せずとも自動的に発動するものだという。
《毒耐性》スキルなら、毒を摂取したときに勝手に働き、毒の効果を弱めるとかそういう形で。
また魔法系スキルは身に付けるとその系統の魔法や魔術の使い方が直感的に分かるらしい。
ただ、これは適性と関係しているので、身につけたいと思って簡単に身につくというものでもないとも。
それを言うなら武技系も同じではあるが、ステータスなどには出てこないのでわかりにくいとか……。
アウグストの話は多岐に渡ったが、全て聞いて思ったことは結局、スキルについては分かっていないことが多いということだ。
ただ、身につければそのスキルに属する技やら何やら使える。
そしてそれは意識的に使うものと、無意識的に使われるものがある。
それくらいだけが共通点で、後はごった煮のようなもの。
だから考えるだけ無駄というか、学者でもないのに追求すると、それだけで人生が大和手しまう。
そんな話だった。
アウグストが詳しく説明してくれたのはそのためで、このことを最初に理解しておかないと考えすぎて時間を無駄にするからだと言った。
かつてアウグストにもそんな時期があったらしい。
もちろん、考えることは大事だし、たまにはそんなときがあってもいいが、あまり拘泥しないのもまた大事だ、とのことだ。
「さて、スキルについてはこんなところでいいだろう……あとは実際に使ってみることだ。スキルは魔力を使って発動する。だから使えば自分の魔力は勝手に動く」
それが、間接的な魔力の使い方、ということらしい。
「皆は、自分がどんなスキルを持っているか、すでに知っているな」
これについてはステータス鑑定の時にそれぞれに伝えられている。
あの時は主に勇者としての称号の方に着目されていたので、そこまで気にはされなかったが、それでも覚えているし、あの時の紙はそれぞれに手渡されているのでちゃんと分かる。
「ええと、俺のスキルは……《初級武技》か。他にも色々あるけど……」
春親が紙を見ながらそう呟いた。
勇者である四人は、スキルをたくさん持っているらしい。
僕も一応、三つくらいあったのだが、勇者の皆は十個前後ということなので格差を感じる。
それでも、最初からスキルを持っているということ自体が珍しいため、別に駄目ではないとは言われたが。
「ほう、《武技》か」
「なんだか大雑把な括りに聞こえますけど」
春親はあんまり気に入っていないようでそう呟くが、アウグストの評価は高いようだ。
「大雑把というか、それは全ての武技に長ける可能性を秘めた、万能スキルだ。魔法や魔術は含まれてはいないが、たとえば、私の持つ剣技を始め、槍や弓などの《戦技》を扱えるようになるかもしれん」
「え」
「反面、器用貧乏になりやすいとも言えるが……鍛え続ければそれに応えてくれる良いスキルだ。どれ……使ってみるといい」
言いながら、アウグストは木剣を春親に渡す。
「使ってみるって……どうやって?」
木剣を適当に構えつつ、春親は尋ねた。
「初級とはいえ、武技なら、先ほど私が使った《スラッシュ》を扱えるはずだ。あれは《初級剣技》の《戦技》だからな。心の中で、集中してみろ。何かが語りかけてくるはずだ……」
言われて、春親は集中する。
すると、何かを掴んだようだ。
「……《スラッシュ》!」
木剣を振るうと、そこからエフェクト光が発生し、空気を切り裂いた。
その音はおそらく剣の素人なのだろう春親が出したにはあまりにも鋭すぎる音だった。
狙ったわけではないのだろう、たまたま風で運ばれてきた何かの葉が、木剣に触れて真っ二つに切られていた。
まるで、鋭い刃物によって切られたようにだ。
「うむ、確かに。どうだ? 魔力は感じたか?」
「……ええ。体の中で、何か思い粘土か泥のようなものが動いたような感覚がありました」
「それだ。重く感じるのは、今まで一切動かしたことがなかったからだな。初めはそんなものだが……なれればいずれ水のように感じられるようになる。それまでは訓練だ」
「はい」
それからは早かった。
他の面々もそれぞれ、スキルを使っていき、魔力を自覚していった。
