王城へは馬車で向かうことになった。
気を利かせてくれたのか、呼ばれた僕たち……つまりは四人組と僕は、一緒の馬車に同乗させてくれた。
……もしかしたら盗聴のようなこともされている可能性はある。
見る限り、そのような機械的装置はなさそうだが、やっぱり魔法的なものの可能性は疑わざるを得ない。
でも、そんなものがあったとして気づくことが出来ないから、考えるだけ無駄かも知れない。
下手な話はしない方がいいかも、くらいに留めておくのがいいか。
「へぇ、君たち四人はあのバスに乗っていた訳か」
世間話がてら、四人の簡単なプロフィールと、そしてここに来る直前のことを聞くと共通点が分かった。
どうやら、僕に追突したバス、あれにこの四人は乗っていたということだ。
もちろん、運転していたのは彼らではない。
あくまでただの通学客として乗っていただけだ。
だから彼らを恨むとかそういうことにはならない。
「あぁ……四人とも幼なじみでさ。といっても、もの凄く仲良しだったとかじゃないけどな。昔から近くに住んでて、まぁ顔は知ってる、小さい頃はよく遊んだ、そのくらいだ。あと通学中に少し話すこともあるかなみたいな。あの日はたまたま四人とも同じバスに乗ってた」
こう答えたのは、短髪で活発そうな少年、藤井だ。
「そうなんだ? そういう幼なじみっていっつも連んでるとかありがちだと思ってたけど」
これに藤井は大きく首を横に振る。
「ないない! いや、もちろんあり得ないとは言わねぇけどさ。高校生にもなってずっとそうってのは少ないんじゃないか? まぁ俺と秋人とか、清香と穂乃とか、同性同士の組み合わせだと小さい頃の仲そのまんまだけどさ」
「別に嫌い合ってるってわけじゃないのよ? ただ好みとか行く場所とか自然と違ってきてそんなに絡まなくなっただけ。結局高校は同じだし、腐れ縁感はあるけどね」
皆瀬が冷静な様子で言う。
ライオルとの会話でも思ったが、この中だと彼女がかなり落ち着いている方なのかも知れない。
他の面々も急にやばいことをし出すような危うさはなく、皆結構常識的な方なのは感じるので、それはありがたい。
「ただ、皆のお母さん達はずっと仲いいから、お互いの状況は筒抜けだけどね-。私、この間、秋人くんが英検に落ちたって聞いたよ」
穂乃がそう言うと、坂城が、うっとした表情になる。
「……なんでそんな話を。黙っててくれればいいのに」
「あんまりそういうの、お母さん達は気にしないからね。どうしても知られたくないなら、もう口止めを頑張るしかないよ」
「穂乃はしてるわけか」
「まぁね」
確かに仲は良さそうだが、最近はそんなに会話はしてこなかった、みたいな微妙な空気感はある。
僕にとってそれは良かったかもしれない。
この四人でがっちり固まっていたら、僕が間に入っていくのは中々厳しかっただろうと思うからだ。
今のところ、僕の仲間と言えるのはこの四人だけだ。
王様たちは別に嫌な感じはしないし、非常に丁重に扱ってくれてはいるが、どこまで信じていいのかまだ不明だ。
何かあったときのために、同郷の者同士、ある程度協力する必要があると思っている。
「あの……律くんはあのバスにはねられた……んだよね?」
穂乃が言いずらそうに、しかし事実確認はしなければとはっきり尋ねてくる。
それは必要なことなので、僕は素直に答える。
「うん、そうだよ。と言ってもはねられたのか、はねられる直前で終わったのかどうかは分からないんだ。覚えてなくて」
「あ、そうなんだ……」
「はねられる瞬間のこと覚えてたりしたら最悪だからさ、これは不幸中の幸いって奴だよ」
「あはは、確かに。私たちもバスが事故ったそのときのことは覚えてないから同じかな? っていうか、なんか地面が光ったよね、あのとき」
穂乃の言葉に、皆瀬が頷く。
「ええ、それは私も見た覚えがあるわ。いわゆる……魔法陣? みたいなものを一瞬見たと思う。ねぇ?」
他の二人にも確認すると、藤井も坂城も頷いた。
「あったあった。やっぱりあれのせいだと思うか?」
「状況的に考えると間違いないと思う。でも旧神殿とやらの地面には特に何もなかったね」
坂城はあの状況でもしっかり確認していたらしい。
思い出すに、僕も特にそのような魔法陣は、あの旧神殿の地面になかったと記憶している。
「向こう側だけで見えたってことなのかもね。それか、役割を果たしたら見えなくなるとか?」
僕の思いつきに藤井が僕を指さして言う。
「それだ! アニメとか見てもそういう感じだもんな。魔法放ったあと、魔法陣は消えるもんだ」
皆瀬が呆れたようにため息をつく。
「ここは現実なのよ? アニメがそうだからって言われてもね」
「いや、だっていきなり知らないところに飛ばされるなんて、アニメそのままだろ。現実的に考え始めたら、俺たちは誘拐されて、大がかりなセットの中に放り込まれて騙されてる、とかそういう結論になるぞ」
「……それはそうね。そもそも……こんなセットなんて、そうそう作りようがないわ。アニメ準拠で考えた方がかえって現実的かも」
皆瀬は馬車の窓から外を見つめた。
そこにはどう見ても地球でも日本でもありえないような景色が広がっている。
石造り、レンガ造りの建物がどこまでも広がっているのだ。
歴史的建造物が欧米には数多く残っているとはいえ、このような景色は世界遺産でも見たことがない。
建築様式が、テレビで見てきたそういったものと微妙に違っていると感じるのだ。
それに加えて、空には不思議な生き物が飛んでいるのも見えた。
かなり遠いが、まるで恐竜のような……。
「あれって、やっぱり竜とかドラゴンとかだと思う?」
秋人が窓から空を見上げて皆に尋ねる。
全員で代わる代わる確認して見つめてみたが、誰もその答えを持っていない。
「……分かるわけないでしょ。でも、そういうものに見えるのは間違いない」
皆瀬がため息をついた。
「竜とドラゴンって一緒じゃないかな?」
穂乃がのほほんとした様子で言う。
どうも彼女が一番図太いのかも知れない。
「細かいこと言い出したら色々違うとは思うけど……一般的には同じかな? あの空飛んでるのは、どっちでもないのかもしれないけど」
僕が少し考えてから言うと、穂乃は空を飛ぶ竜らしき何かを見つめながら呟く。
「そっか……まぁ、やっぱりどう考えても地球じゃないよね。あんなのいるんだから」
「ドローンとかって可能性は……」
「かなり大きく見えるし、機械っぽさゼロだし……あれは生き物だよ。見た感じ分かるでしょ?」
これには全員が黙り込む。
そんなの分からない、とか、そういうことを言いたいのではなく、彼女の言うことは尤もだと思ってしまったためだ。
「なんにせよ、ここで議論しても分からないものは分からないわね……ここがどこかとかそういうことより、これからどうしていくか、の方を話しておいた方がいいかも」
皆瀬が提案した。
「あー、まぁなぁ……これからどうなると思う? 俺たち、勇者らしいが」
藤井がどう受け止めたらいいのか分からない、といった表情でそう言う。
雰囲気とは違って、勇者なんてすげーじゃん、とかそういうタイプではないようだ。
まぁ、それはそうか。
アニメや漫画で読むのとは違って、現実に勇者をやれと言われると困惑が強い。
そんなところだろう。
「王様がそう言ってたね。あれって本気なのかな?」
坂城が真面目そうな表情で考え込む。
「本気でしょうよ。冗談を言っている顔ではなかったわ。そもそも王様がわざわざそんな冗談を言うためにあんなところに現れると思う? 総理大臣がドッキリ番組でもやるようなもんだわ」
皆瀬の指摘にみんな、その状況を少し考える。
「……あり得ないわけじゃないだろうが、考えにくいくらいの例えだな」
藤井が冷静にそういった。
確かにたまにバラエティに出てそういうことに協力する政治家というのはいるし、ないとは言えないかもしれない。
「例えが悪かったわね。アメリカの大統領が日本の登録者数人のSNSのドッキリ企画に協力してくれるとかならどう?」
「おぉ、あり得なさそうだね!」
穂乃が感心したように言う。
「アメリカの大統領ならそれくらいのことも思いつきでやるかもしれないけど……まぁ、滅多にないってのはそうだろうね」
僕の評価に皆瀬は胸を張って言う。
「そうでしょう! ……ってたとえ話はどうでもいいのよ。王様はほぼ間違いなく本気だってこと」
「勇者って……何をさせられるんだろう?」
僕が疑問を口にすると、藤井が答える。
「そりゃ、ほら。魔物とかと戦わせられるんじゃねぇか?」
「魔物と? さっきのドラゴンみたいなのかとか……考えるだけでゾッとするな」
航空戦力と生身で戦えるわけがない。
だが、それを求められるのが勇者だと言われたら……。
怖すぎると思うのだ。
「そもそも、僕らにそんな力はないからね……いや、あるのかな?」
坂城がふっと言う。
「分かんねぇな。ありがちなのは、そういう力があるから俺たちが呼ばれたってパターンだが……大体そういうもんだろ?」
藤井の言葉を、皆瀬が継ぐ。
「アニメ準拠だと?」
「はっ。そうだよ。ハリウッド映画準拠でもいいぜ」
「ま、そういうものよね……でも何も感じないわ。訓練がいるとか?」
「あぁ……あるな。そのパターン。他にも特別な装備が必要とかさ」
「巨大ロボットにでも乗せられる? それは少し面白そうかも」
「お前そんな趣味があったのか?」
「乗り物は好きよ。大学は行ったら大型バイクの免許取ろうと思ってくらい」
「へぇ、知らなかったぜ……。ま、ともかくそういう感じで何かさせられるとしてだ。どうする? 乗るのか?」
この場合はロボットに、ではなく、そういう話に乗るのか、ということだろう。
全員が考え込むが、出る答えは結局似通ってしまった。
「断れるなら断りたいけど、難しいよね、きっと」
僕がそう言うと、皆同意する。
「王様がいるんだ。分かりやすく一番偉くて、全ての権力を持ってる人に、逆らえるかって言われるとなぁ」
藤井が身も蓋もないことを言う。
「逃げ出すにしても……せめてここでの常識とか学ばない限りは動けないね」
坂城の意見にしても、最初は従うしかないということだ。
「逃げたって……元の世界に帰れなくなったら困るわ。いえ、そもそも帰れるかどうかすら謎だし」
皆瀬はため息をつく。
「もし帰れないなら……ここで生きていくしかないもんね。勇者が仕事ならお給金とかの心配はしなくていいかもしれないし」
穂乃はより現実的なことを言った。
四人の意見はどれもその通りで、それ以上の答えのでないものだ。
まぁ、どうにかしてすぐに逃げ出すとか、何があっても断るとか、とれる選択肢はあるが、無難ではない。
それが出来るのはよほどのギャンブラーであって、ここにいる五人は、皆、どうもそうではないということだけは確かだった。
気を利かせてくれたのか、呼ばれた僕たち……つまりは四人組と僕は、一緒の馬車に同乗させてくれた。
……もしかしたら盗聴のようなこともされている可能性はある。
見る限り、そのような機械的装置はなさそうだが、やっぱり魔法的なものの可能性は疑わざるを得ない。
でも、そんなものがあったとして気づくことが出来ないから、考えるだけ無駄かも知れない。
下手な話はしない方がいいかも、くらいに留めておくのがいいか。
「へぇ、君たち四人はあのバスに乗っていた訳か」
世間話がてら、四人の簡単なプロフィールと、そしてここに来る直前のことを聞くと共通点が分かった。
どうやら、僕に追突したバス、あれにこの四人は乗っていたということだ。
もちろん、運転していたのは彼らではない。
あくまでただの通学客として乗っていただけだ。
だから彼らを恨むとかそういうことにはならない。
「あぁ……四人とも幼なじみでさ。といっても、もの凄く仲良しだったとかじゃないけどな。昔から近くに住んでて、まぁ顔は知ってる、小さい頃はよく遊んだ、そのくらいだ。あと通学中に少し話すこともあるかなみたいな。あの日はたまたま四人とも同じバスに乗ってた」
こう答えたのは、短髪で活発そうな少年、藤井だ。
「そうなんだ? そういう幼なじみっていっつも連んでるとかありがちだと思ってたけど」
これに藤井は大きく首を横に振る。
「ないない! いや、もちろんあり得ないとは言わねぇけどさ。高校生にもなってずっとそうってのは少ないんじゃないか? まぁ俺と秋人とか、清香と穂乃とか、同性同士の組み合わせだと小さい頃の仲そのまんまだけどさ」
「別に嫌い合ってるってわけじゃないのよ? ただ好みとか行く場所とか自然と違ってきてそんなに絡まなくなっただけ。結局高校は同じだし、腐れ縁感はあるけどね」
皆瀬が冷静な様子で言う。
ライオルとの会話でも思ったが、この中だと彼女がかなり落ち着いている方なのかも知れない。
他の面々も急にやばいことをし出すような危うさはなく、皆結構常識的な方なのは感じるので、それはありがたい。
「ただ、皆のお母さん達はずっと仲いいから、お互いの状況は筒抜けだけどね-。私、この間、秋人くんが英検に落ちたって聞いたよ」
穂乃がそう言うと、坂城が、うっとした表情になる。
「……なんでそんな話を。黙っててくれればいいのに」
「あんまりそういうの、お母さん達は気にしないからね。どうしても知られたくないなら、もう口止めを頑張るしかないよ」
「穂乃はしてるわけか」
「まぁね」
確かに仲は良さそうだが、最近はそんなに会話はしてこなかった、みたいな微妙な空気感はある。
僕にとってそれは良かったかもしれない。
この四人でがっちり固まっていたら、僕が間に入っていくのは中々厳しかっただろうと思うからだ。
今のところ、僕の仲間と言えるのはこの四人だけだ。
王様たちは別に嫌な感じはしないし、非常に丁重に扱ってくれてはいるが、どこまで信じていいのかまだ不明だ。
何かあったときのために、同郷の者同士、ある程度協力する必要があると思っている。
「あの……律くんはあのバスにはねられた……んだよね?」
穂乃が言いずらそうに、しかし事実確認はしなければとはっきり尋ねてくる。
それは必要なことなので、僕は素直に答える。
「うん、そうだよ。と言ってもはねられたのか、はねられる直前で終わったのかどうかは分からないんだ。覚えてなくて」
「あ、そうなんだ……」
「はねられる瞬間のこと覚えてたりしたら最悪だからさ、これは不幸中の幸いって奴だよ」
「あはは、確かに。私たちもバスが事故ったそのときのことは覚えてないから同じかな? っていうか、なんか地面が光ったよね、あのとき」
穂乃の言葉に、皆瀬が頷く。
「ええ、それは私も見た覚えがあるわ。いわゆる……魔法陣? みたいなものを一瞬見たと思う。ねぇ?」
他の二人にも確認すると、藤井も坂城も頷いた。
「あったあった。やっぱりあれのせいだと思うか?」
「状況的に考えると間違いないと思う。でも旧神殿とやらの地面には特に何もなかったね」
坂城はあの状況でもしっかり確認していたらしい。
思い出すに、僕も特にそのような魔法陣は、あの旧神殿の地面になかったと記憶している。
「向こう側だけで見えたってことなのかもね。それか、役割を果たしたら見えなくなるとか?」
僕の思いつきに藤井が僕を指さして言う。
「それだ! アニメとか見てもそういう感じだもんな。魔法放ったあと、魔法陣は消えるもんだ」
皆瀬が呆れたようにため息をつく。
「ここは現実なのよ? アニメがそうだからって言われてもね」
「いや、だっていきなり知らないところに飛ばされるなんて、アニメそのままだろ。現実的に考え始めたら、俺たちは誘拐されて、大がかりなセットの中に放り込まれて騙されてる、とかそういう結論になるぞ」
「……それはそうね。そもそも……こんなセットなんて、そうそう作りようがないわ。アニメ準拠で考えた方がかえって現実的かも」
皆瀬は馬車の窓から外を見つめた。
そこにはどう見ても地球でも日本でもありえないような景色が広がっている。
石造り、レンガ造りの建物がどこまでも広がっているのだ。
歴史的建造物が欧米には数多く残っているとはいえ、このような景色は世界遺産でも見たことがない。
建築様式が、テレビで見てきたそういったものと微妙に違っていると感じるのだ。
それに加えて、空には不思議な生き物が飛んでいるのも見えた。
かなり遠いが、まるで恐竜のような……。
「あれって、やっぱり竜とかドラゴンとかだと思う?」
秋人が窓から空を見上げて皆に尋ねる。
全員で代わる代わる確認して見つめてみたが、誰もその答えを持っていない。
「……分かるわけないでしょ。でも、そういうものに見えるのは間違いない」
皆瀬がため息をついた。
「竜とドラゴンって一緒じゃないかな?」
穂乃がのほほんとした様子で言う。
どうも彼女が一番図太いのかも知れない。
「細かいこと言い出したら色々違うとは思うけど……一般的には同じかな? あの空飛んでるのは、どっちでもないのかもしれないけど」
僕が少し考えてから言うと、穂乃は空を飛ぶ竜らしき何かを見つめながら呟く。
「そっか……まぁ、やっぱりどう考えても地球じゃないよね。あんなのいるんだから」
「ドローンとかって可能性は……」
「かなり大きく見えるし、機械っぽさゼロだし……あれは生き物だよ。見た感じ分かるでしょ?」
これには全員が黙り込む。
そんなの分からない、とか、そういうことを言いたいのではなく、彼女の言うことは尤もだと思ってしまったためだ。
「なんにせよ、ここで議論しても分からないものは分からないわね……ここがどこかとかそういうことより、これからどうしていくか、の方を話しておいた方がいいかも」
皆瀬が提案した。
「あー、まぁなぁ……これからどうなると思う? 俺たち、勇者らしいが」
藤井がどう受け止めたらいいのか分からない、といった表情でそう言う。
雰囲気とは違って、勇者なんてすげーじゃん、とかそういうタイプではないようだ。
まぁ、それはそうか。
アニメや漫画で読むのとは違って、現実に勇者をやれと言われると困惑が強い。
そんなところだろう。
「王様がそう言ってたね。あれって本気なのかな?」
坂城が真面目そうな表情で考え込む。
「本気でしょうよ。冗談を言っている顔ではなかったわ。そもそも王様がわざわざそんな冗談を言うためにあんなところに現れると思う? 総理大臣がドッキリ番組でもやるようなもんだわ」
皆瀬の指摘にみんな、その状況を少し考える。
「……あり得ないわけじゃないだろうが、考えにくいくらいの例えだな」
藤井が冷静にそういった。
確かにたまにバラエティに出てそういうことに協力する政治家というのはいるし、ないとは言えないかもしれない。
「例えが悪かったわね。アメリカの大統領が日本の登録者数人のSNSのドッキリ企画に協力してくれるとかならどう?」
「おぉ、あり得なさそうだね!」
穂乃が感心したように言う。
「アメリカの大統領ならそれくらいのことも思いつきでやるかもしれないけど……まぁ、滅多にないってのはそうだろうね」
僕の評価に皆瀬は胸を張って言う。
「そうでしょう! ……ってたとえ話はどうでもいいのよ。王様はほぼ間違いなく本気だってこと」
「勇者って……何をさせられるんだろう?」
僕が疑問を口にすると、藤井が答える。
「そりゃ、ほら。魔物とかと戦わせられるんじゃねぇか?」
「魔物と? さっきのドラゴンみたいなのかとか……考えるだけでゾッとするな」
航空戦力と生身で戦えるわけがない。
だが、それを求められるのが勇者だと言われたら……。
怖すぎると思うのだ。
「そもそも、僕らにそんな力はないからね……いや、あるのかな?」
坂城がふっと言う。
「分かんねぇな。ありがちなのは、そういう力があるから俺たちが呼ばれたってパターンだが……大体そういうもんだろ?」
藤井の言葉を、皆瀬が継ぐ。
「アニメ準拠だと?」
「はっ。そうだよ。ハリウッド映画準拠でもいいぜ」
「ま、そういうものよね……でも何も感じないわ。訓練がいるとか?」
「あぁ……あるな。そのパターン。他にも特別な装備が必要とかさ」
「巨大ロボットにでも乗せられる? それは少し面白そうかも」
「お前そんな趣味があったのか?」
「乗り物は好きよ。大学は行ったら大型バイクの免許取ろうと思ってくらい」
「へぇ、知らなかったぜ……。ま、ともかくそういう感じで何かさせられるとしてだ。どうする? 乗るのか?」
この場合はロボットに、ではなく、そういう話に乗るのか、ということだろう。
全員が考え込むが、出る答えは結局似通ってしまった。
「断れるなら断りたいけど、難しいよね、きっと」
僕がそう言うと、皆同意する。
「王様がいるんだ。分かりやすく一番偉くて、全ての権力を持ってる人に、逆らえるかって言われるとなぁ」
藤井が身も蓋もないことを言う。
「逃げ出すにしても……せめてここでの常識とか学ばない限りは動けないね」
坂城の意見にしても、最初は従うしかないということだ。
「逃げたって……元の世界に帰れなくなったら困るわ。いえ、そもそも帰れるかどうかすら謎だし」
皆瀬はため息をつく。
「もし帰れないなら……ここで生きていくしかないもんね。勇者が仕事ならお給金とかの心配はしなくていいかもしれないし」
穂乃はより現実的なことを言った。
四人の意見はどれもその通りで、それ以上の答えのでないものだ。
まぁ、どうにかしてすぐに逃げ出すとか、何があっても断るとか、とれる選択肢はあるが、無難ではない。
それが出来るのはよほどのギャンブラーであって、ここにいる五人は、皆、どうもそうではないということだけは確かだった。
