それから冬休みの間俺たちはほとんど毎日会っていた。
三が日はお互い親戚の家へ行ったりする用事があり会えなかったけれど、それ以外の日はほぼ毎日だ。
一緒に近所の神社へ初詣にも行った。
おみくじを引いたら俺が「大吉」、貴虎はまさかの「凶」で貴虎が酷く落ち込むという場面もあった。
「おみくじは何度引いてもいいって前に聞いたことがあるぞ。もう一回チャレンジしてみたらどうだ?」
俺がそう言うと貴虎は張り切ってもう一度同じおみくじを引いた。
すると今度は「小吉」で。微妙な顔をしている貴虎を見て、俺は思わず笑ってしまった。
そして、明日はいよいよ約2週間ぶりの登校日である。
「だっる〜、なんで休み明けテストなんてあるんだよ〜」
貴虎が俺の部屋のローテーブルに突っ伏し愚痴っていた。
「課題もこんなにあるのにエグくねぇ?」
「遊びまくってたのが悪いんだろ?」
勉強机でテスト勉強をしながら俺は言う。
「怜だって一緒に遊んでたのになんでこんなに出来てんだよ!」
「そりゃ、会ってないときに進めてたからな。文句ばっか言ってないで早くやっちまえよ。わからないとこあったら教えてやるから」
「ぴえん……」
そうして仕方なさそうに貴虎は課題を再開した。
それを横目で見てふっと笑いながら自分の勉強に戻る。
「……なぁ、怜」
「ん?」
「学校行ったらさぁ、俺たちのこと皆に言っていい?」
「はっ!?」
ガバっと顔を上げて俺は貴虎を振り返った。
「何言ってんだ! ダメに決まってんだろ!?」
「えー、俺は言いたいんだけどな、怜と付き合うことになったって」
「絶対にダメだ!」
もう一度強く念押しする。
俺と違って貴虎は友達が多い。そして顔が広い。
そんな貴虎が誰かに言ったりしたらあっという間に学年中、いや学校中に広まるに決まっている。
多様性の時代になってきたとはいえ、好奇の目で見られること必至だ。
俺にはそんなの耐えられない。
「え~~」
不満そうに声を上げる貴虎を見て、俺はふと不安になり言う。
「一応言っとくけどな、学校で抱きついたりキスなんか絶対禁止だからな」
「えー、抱きつくくらい前も普通にやってたし、いいだろ?」
「ダメだ!」
「なんで!」
(俺が意識しちまいそうだからだよ!)
という本音は言えず、建前を口にする。
「TPOを弁えろってことだ!」
すると貴虎はぶーっと口を尖らせた。
「だってさ〜怜モテるじゃんか。俺が彼氏だって言っておかないと、またすぐ告られたりするだろ? それに……そうだ、来月バレンタインあるじゃん! 絶対また告られる!」
はぁと息を吐いて言う。
「忘れたのか? 俺はバレンタインデーと誕生日は休むことにしてる」
「知ってるけどさ! それでもその前後で告られてるの知ってんだからな!」
それは確かにそうだけれど。
でもちゃんと全て丁重にお断りしている。
「しかも女の子だけじゃないのも知ってるからな」
「えっ」
ぎくりとする。
見れば貴虎はじとっとした目で俺を見上げていて。
「女の子ならまだしも、俺、怜が男から告られるのなんて嫌だ」
確かに、これまでに男から告白されたことも何度かある。でも、まさか貴虎にそれを知られているとは思わなかった。
俺は動揺を悟られないよう視線を逸らす。
「告られたって、いつもみたいに断るし。別に気にしなきゃいいだろ」
「前は気にしないようにしてたけどさ、今はもう無理」
「え?」
「だって、今怜は俺の彼氏だろ?」
(こ、こいつ……っ)
うっかりまた胸がキュンとしてしまった。
「そ、そうだけど」
「だからその前に皆に言っておきたい。怜はもう俺の彼氏だからって」
「だからそれはダメだ!」
「なんで!」
そんな押し問答を繰り返し。
結局、抱きつくのは今まで程度ならOK、でも付き合っていることは秘密にする、ということでまとまった。
貴虎はまだ少し不満そうだったけれど。
「あ、ひとつ条件追加」
言って貴虎は手を上げた。
「なんだよ」
「今後もしまた男に告白されたら絶対に教えろよ。そいつのこと」
「……わかったよ」
溜息交じりに答えると、貴虎はやっと笑顔になった。
そして俺たちは課題とテスト勉強を再開した。――しかし。
(あー……嫌なこと思い出しちまった……)
――御堂、ぼくと付き合わないか?
頭の中にそんな低い声が蘇って、俺は振り払うように頭を振った。
……そうだ。
学校が始まると言うことは、またあの人と会うということで。
俺は少しだけ憂鬱な気分になっていた。
そして登校日初日。
「おっはよー! 一緒に行こうぜ、怜」
玄関を出ると笑顔の貴虎がいてびっくりする。
今日から陸上部は朝練開始でいつもより早く出たのだけれど。
「え、空手部って朝練あったっけ?」
「うちは自由参加だけどな、折角だし怜と一緒に行こうと思って早起き頑張った」
そういえば昨日「陸上部の朝練って何時からなんだ?」 と訊かれたことを思い出す。
そのときからそのつもりだったのだろうか。
「偉いじゃん」
「偉いってなんだよ~」
実は憂鬱な気分だったので、朝からこうして貴虎と会えて嬉しかった。
そうして俺たちは一緒に最寄り駅へと向かった。
電車を降りて高校へと向かう間、俺は念のためもう一度確認する。
「昨日も言ったけど、学校内では」
「わかってる。イチャイチャするなってんだろ? 我慢します」
「よし」
そんな会話をしているときだ。
「おはよう。御堂」
「!」
そんな聞き覚えのある声が背後からかかって俺はぎくりとする。
振り返るとそこには案の定、陸上部の先輩がいた。
「坂本先輩、おはようございます」
ぺこりと頭を下げると、坂本先輩は爽やかな笑顔で言った。
「今日からまた朝練頑張ろうな」
「はい!」
すると坂本先輩はちらりと貴虎の方を見てから俺たちの先を行った。
そんな彼の背中を見ながら貴虎が小声で言う。
「坂本先輩って、3年のあの坂本先輩だよな、何度も大会出てる。え、まだ部活やってんの?」
「ああ。スポーツ推薦でもう大学は決まってるからな、朝練って言っても先輩の場合ほぼ自主練」
「へぇ、偉いなぁ」
「……そうだな」
坂本先輩は入部当時、俺の憧れの人だった。
走りがカッコ良くて、ストイックで、人当たりもよくて、尊敬していた。
でも……。
「怜もスポーツ推薦取れるんじゃね?」
「は? 取れねーし、取らねーよ。俺は医学部志望だっつーの」
「あー、そうだよな。ブレねぇな。怜は」
「まぁな」
別に両親からお前も医者になれと言われたわけじゃない。
でも、たくさんの人に頼られ、たくさんの人を助けている両親を見て育ってきて、自然と俺もそうなりたいと考えるようになった。
「お前こそ、スポーツ推薦狙えば?」
「俺の場合、学力の方がな~」
がっくりと頭を垂れた貴虎を見て俺は苦笑する。
貴虎は俺と違って空手の大会で結構優秀な成績を修めているので推薦を狙おうと思えば狙える気がするが、確かに学力の方もある程度ないと厳しいだろう。
そこでふと気になった。
「そういえばお前進路は? 将来なりたいものってもう決まってんの?」
貴虎は昔から将来の夢がころころ変わっている。
小さい頃はヒーローになりたいと言っていたし、ユーチューバーとか言っていた時期もあった。
「内緒」
「は?」
「なんとなくは考えてるけど、まだ調べ中だし、恥ずかしいから内緒」
「へぇ~」
俺にも教えられないのかよと半眼になっていると、貴虎は焦ったように言った。
「決めたらちゃんと言うよ、怜に一番に」
「あっそ。ま、頑張れよ」
まぁ、一番に教えてくれるならいいかと俺はそっけなく言った。
「なんか言い方が冷たい~! え、怒った?」
「怒ってねーよ。てか俺急がないと」
言って俺はもう大分先に行っている坂本先輩の背中を見て足を速めた。
付き合っているからと言って、自分の全部を話せるわけじゃない。
俺がそうなように……。
「御堂、ぼくと付き合わないか?」
――昨年、俺はあの坂本先輩に告白されたのだ。



