ハイスペ男子は幼なじみに恋してる


「こっちこそ、ごめん。いきなり過ぎたよな」

 そうして貴虎は笑った。
 本当は拒否られてショックだったくせに、無理をして作った笑い方だ。
 それがわかるのに、俺は赤い顔を俯かせたまま何も言えなかった。

 気まずい沈黙が流れる中、貴虎がすくと立ち上がった。

「折角カラオケ来たんだし、歌うか!」

 そうして充電器に刺さっていたマイク2本とタッチパネルリモコンをテーブルに置いていく。

「そういや怜とカラオケ来るの久しぶりじゃね?」
「そ、そうだな」

 俺は貴虎以外とカラオケなんて来たことがないから多分数ヶ月ぶりだ。

「えー、なに歌おっかな~」

 貴虎がタッチパネルを操作し始めた。

「あ、まずはこれにしよ。俺たちが付き合った記念ってことで!」
「なんだそれ」

 思わず笑ってしまうと、貴虎も笑った。

 そして流れ始めたのは有名なラブソングだった。
 数ヶ月ぶりに聞く貴虎の歌声は相変わらずパワフルでたまに音程はズレるが聞いていると元気になれる。
 が、恋人への愛を綴ったその歌詞を見ながら、なんだか自分が言われているような気になってきてまた恥ずかしくなってきた。

 慌ててリモコンを自分の前に持ってきてパネルを操作し始める。

(ラブソングはダメだ!)

 そして選んだのは無難に人気バンドの所謂応援ソングだ。
 でも、そんなふうに意識しまくる自分もなんだか恥ずかしく思えてきて。

(え? 世の中のカップルって皆こんなこっ恥ずかしいシチュエーションに耐えてるのか……?)

 貴虎と両想いになれたことは勿論嬉しい。これまでの片想いが成就したのだ。
 これ以上にないってくらい今俺は幸せだ。……そのはずだ。
 なのに、なんで俺はこんなにひとりアワアワとしているんだ。

 目の前で気持ちよさそうに歌っている貴虎が、やたらと落ち着いて見えた。



「さっむ!」

 カラオケを出るなり貴虎がそんな悲鳴を上げた。
 外はもうすっかり暗くなっていて、目の前の通りは先ほどよりも更にカップルが多くなっている気がした。
 その人の波は例のイルミネーションスポットの方へと流れているようだ。
 皆とても幸せそうで、ちょっと前までそんなカップルを見ると「リア充爆発しろ」なんて思っていたのに。

「俺たちも行くだろ?」
「え?」

 貴虎が俺を見てにっと笑う。

「例のイルミスポット」
「あ、ああ。そうだな、折角だし」
「んじゃ行こう!」
「!?」

 貴虎がいきなり俺の手を握ってきてびっくりしてしまった。

「お、おい」
「いいだろ? 手繋ぐくらい。寒ぃし!」

 そうしてぐいと手を引かれて俺たちもそのカップルたちの波に入った。
 自分の顔がまた真っ赤になっているのがわかる。
 ドキドキと心臓がうるさくてたまらない。

(そうか、俺たちも一応カップルになるのか)

 ついさっき、カップル……恋人同士になれたのだ。
 そう思ったらじわりと喜びが胸に広がって顔がにやけてしまいそうになった。

 ……でも、ふと周りを見て違和感に気づく。

 周りのカップルたちは当然ながら男女ばかりだ。
 男同士のカップルなんていない。
 ――俺たちだけだ。
 それに気づいてしまったらダメだった。
 人の目が気になってしまって顔が上げられなくなった。

(男同士で手を繋ぐってありなのか? 変に思われないか?)

 それに、もしこんなところを誰か知り合いに見られたら……?

「怜?」

 俺は貴虎から少し強引に手を離し、言った。

「悪い。やっぱ手繋ぐの恥ずかしいから」

 顔を見れずに言うと、貴虎はすぐに答えた。

「そっか。それじゃしょうがねーか」
「ごめん……」

 申し訳なくてもう一度謝ると、貴虎は明るい声で言った。

「いいって。それよりほら、イルミネーション見えてきたぞ!」

 言われて顔を上げると確かに通りの向こうに一際キラキラとした場所が見えてきた。


 そして、俺たちは光のトンネルと称されるそのイルミスポットに到着した。
 その名の通り、色とりどりのイルミネーションに囲まれた眩しいくらいのトンネルの中を進みながら貴虎が感激したように言う。

「やっべ、バチクソ綺麗くない?」
「ああ、綺麗だ」

 イルミスポットとして有名になるのも頷ける。

「なんか奇跡みたいだ」
「え?」

 貴虎が光の天井を見上げながら言った。

「怜と両想いになれて、怜と一緒にこんな綺麗な景色が見られて、俺今めちゃくちゃ幸せ感じてる」
「貴虎……」

 本当に幸せそうに笑う貴虎を見て、ぎゅっと胸が締め付けられるような気持ちになった。
 これまでも辛くて胸が締め付けられるようになったことは何度もあるけれど、これは違う。

 きっとこれが「胸キュン」というやつだのだろう。

「!」

 貴虎が驚いたようにこちらを見た。
 俺が、貴虎の手を握ったからだ。

 この眩しい輝きの中ではきっと俺たちのことなんて誰も見ていないだろう。
 だから思いきって俺はその手をぎゅうと強く握った。

「俺も、今貴虎と一緒にいられてめちゃくちゃ幸せだ」

 すると貴虎は目をまん丸にした後で「んんっ」とか可笑しな声を上げて口を押さえ俺から視線を外してしまった。

「貴虎?」
「……怜、ちょっとそれ反則だから」
「え?」

 ――反則? 何がだ。

 貴虎は俺を横目で見ながら言った。

「今、この場で思いっきり抱きしめてキスしたい」
「なっ、何言ってんだバカ!」
「わかってる。わかってるけど、怜がそんな可愛いこと言うからだろ!」

 俺のせいみたいに言われて慌てて手を離そうとするが、それ以上に強く握り返された。

「だから、せめて手は繋がせて」
「……っ、わ、わかった」

 小さく頷いて、俺たちはそのまま手を繋いで光のトンネルを歩いた。
 本当に夢のようで、幸せで、このままずっとこのトンネルが続けばいいのにと思った。



 それから俺たちは同じ電車に揺られ帰路についた。

「もしかして、行きの電車同じの乗ってなかったか?」
「だよな。タイミング的に。え、怜は何号車乗ってた?」
「俺、7号車」
「マジで? 俺6号車だわ」
「なんだよ、ドードーさん隣にいたのかよ」
「ドードーさんて。恥ずかしいからやめて」
「自分で考えた名前だろー?」

 そんなふうに笑いながら話していたら一時間の距離があっという間だった。
 最寄り駅に着き、自宅までの暗い路地を並んで歩いていると途中庭をイルミネーションで飾り付けている家を見かけて今日がクリスマスイブだということを改めて思い出した。

「明日が終われば一気にお正月モードだな」
「それな。……あーあ、冬休みかー」

 貴虎がなんだか残念そうにぼやいて首を傾げる。

「2週間休みだぞ。嬉しいだろ」
「学校が休みなのは嬉しいけどさ。怜に毎日会えなくなるだろ?」
「!」

 そんなふうに言われて驚くと同時に、不覚にもドキリとしてしまった。

(……こいつ、結構キザというか、恥ずかしいことサラっと言えちまうのな)

 なんだかちょっと悔しい気がして。

「折角付き合えたのに寂しいなと思ってさ」
「……そんなの、学校なくたって毎日会えばいいじゃねーか。家近いんだし」
「!」

 今度は貴虎が驚いたように俺を見た。
 お返しにと俺からも恥ずかしいことを言ってみたけれど、思った以上に恥ずかしすぎて結局自爆した。
 赤面しながら弁解する。

「……や、毎日は流石に言い過ぎた。えっと」
「いいのか?」
「え?」

 見れば貴虎が嬉しそうに目を輝かせていて。

「そんなこと言ったら俺ガチで毎日怜に会いに行っちゃうからな」 
「お、俺はいいけど」
「っしゃ! じゃあ明日もクリスマスデートだ!」
「でっ」

 ――デート!?

 言われて気づいたけれど、今日イルミスポットに行ったのだってれっきとしたデートだったのだ。

「どこ行こっか! 怜、どこか行きたいとこあるか?」
「や、俺は別に……」

 貴虎といられたらどこでもいい。
 そう思ったが口には出さなかった。恥ずかしいから。

「んー、じゃあ俺いくつか候補考えとくわ」
「ああ」

 気付いたら俺の家がもうすぐそこだった。
 貴虎の家はこの路地をもう少し進んだ先にある。

「じゃあな、怜。また明日」
「ああ、またな」

 俺の家の前で手を振り貴虎は俺に背を向けた。
 かと思ったら、くるりとこちらを振り向き早足で戻ってきた。そして。

「!?」

 ぎゅっと強く抱きしめられて俺は目を見開く。

「今日は楽しかった」
「――おっ、俺も」

 声が少しひっくり返ってしまった。
 すると貴虎はすぐに俺を離し、満足そうな笑顔で「おやすみ」と言って今度こそ手を振り走って行ってしまった。

 それを見送ってから俺は呆然と自宅の玄関まで行き鍵を開け中に入った。
 そしてその場でへなへなと座り込んでしまった。

(なんだアイツ、なんだアイツ……!)

 今日一日で貴虎から言われたこと、されたこと、されそうになったことをひとつひとつ思い出していき、一気に爆発したみたいに全身が熱くなった。

 貴虎なのに、俺の知っている貴虎じゃないような。

(とにかく、アイツ心臓に悪い……!)


 頭がオーバーヒートしたのか。
 それとも寒空の下に長時間いたせいか。
 
 その夜、俺はまんまと高熱を出した。