ハイスペ男子は幼なじみに恋してる


 翌朝。

「昨日はごめん!」

 通学路で頭を下げられて俺ははぁと息をついた。
 ……なんとなく、予想はしていたのだ。
 昔から貴虎は俺と喧嘩をすると翌日こうして謝ってくる。

「あんなこと言っちまって……」
「あんなことって?」

 少しイジワルを言ってみる。
 すると、貴虎はバツが悪そうに目を泳がせた。

「だ、だから……俺は親友だと思ってるけどってやつ」

 小さく答えた奴を横目に俺は歩き出す。

「そうだよなぁ、親友だと思ってる奴にあんなこと言わないよなぁ普通」
「だからごめんて! 反省してます!」

 貴虎は俺の隣でパンッと手を合わせ、続けた。

「妬いてたんだ、俺」
「え?」
「彼女でも友達でも、怜に俺以外に仲のいい奴が出来ることが面白くなくてさ」
「貴虎……」

 それって……。

「友達にヤキモチ妬くなんて、俺ガキみたいだよな。挙句お前にあんなこと言ってさ。本当に悪かった」

 もう一度深々と頭を下げられて俺は肩を落とす。

(友達、ね……)

 妬いたなんて聞いてちょっとでも期待してしまった自分に呆れる。
 でも嬉しくないわけじゃなかった。

「……心配すんなよ」
「え?」
「俺にとってお前は不動のNo.1だからさ」

 前を向いたまま、そんなことを言ってみる。
 反省して落ち込んでいるらしい貴虎はきっとこれで元気になるに違いない。

 ……しかし、いつまで待っても思っていた反応が来なくて、じわじわと顔が熱くなっていく。

(つーか、俺今めちゃくちゃハズいこと言ったよな)

 この想いに気づかれることはないだろうが、それにしてもだ。

「――い、今のナシ!」

 耐えられなくなって勢いよく貴虎の方を振り返ってギョッとする。
 貴虎は顔を真っ赤にして目を潤ませていた。

「怜ぃ〜〜っ」
「なっ、なに泣きそうになってんだよ!」
「だって怜が嬉しいこと言ってくれっから〜!」

 そうして本当にぼろぼろと涙をこぼし始めた貴虎はそのまま俺にガバっと抱きついて来た。

「ほんとごめんな〜怜〜〜っ!」
「はぁ……もういいって」

 溜息を吐いてその広い背中をポンポンと叩く。

(泣きたいのはこっちだっつーの)

「良かった〜怜に嫌われたら俺どうしようかと思った〜〜」
「こんなことで嫌わねーよ。つーかこんなことで泣くなよ、みっともねーな。皆こっち見てるぞ」
「だってさ〜〜〜っ」

(俺がお前を嫌うなんてあるわけないのに……)

 例えお前がまた彼女を作って、いつか誰かと結婚して、俺のことなんて二の次、三の次になってしまっても。
 それでもきっと俺はずっと、お前が一番なんだから。


  ***


『では24日15時に〇〇駅前で。カップルの数エグそうなので目立つ格好をしていきますねw』

 放課後、俺はそんなドードーさんからのDMに返信していた。
 あれから同じ県内住みということもわかり、イルミネーションで有名なスポットに行くことになった。そう提案してきたのはドードーさんだ。
 彼(彼女?)の好きな人が、イブに恋人と約束していることが発覚したそうだ。
 どうせなら同じ日にパーッと騒ぎたいと言われ、俺は喜んで付き合いますと答えた。
 最近ドードーさんから来るメッセージは明るい内容のものが多いが、その心中を思うと辛かった。

『了解です。確かにw こちらも何か目立つものを』

「またニヤついてる~」
「!?」

 気づけば真横にバッグを背負った貴虎が立っていて俺は慌ててスマホ画面を消した。

「例の友達?」
「そ、そう」

 答えながら俺はスマホをバッグに入れ立ち上がる。

 テスト期間が無事終わり、あとは冬休みまでずっと午前授業だ。
 その間、お互い部活のない日はこうして一緒に帰っている。
 ちなみに俺は陸上部で貴虎は空手部だ。

「やっぱイブに会うのか?」

 教室を出ながら訊かれ、俺は頷く。

「その予定」
「そのままお泊りか~?」
「んなわけねーだろ」

 呆れ顔で答える。
 ドードーさんとは今のところカラオケにでも入ろうと話している。
 人目を気にせずお互いの胸の内をぶちまけるならカラオケがもってこいだからだ。

 と、廊下を歩きながら貴虎が言った。

「ま、俺も一応イブに予定出来たし〜」
「え?」

 ――瞬間、目の前がブラックアウトしたように思えた。

「とりあえず今年クリボッチは避けられたわ」

 小刻みに震え出した指先をぐっと強く握る。

「やっと新しい彼女が出来たのか?」

 精一杯の作り笑いを浮かべながら訊く。
 胃のあたりがすうっと冷たくなっていく、この感覚は久しぶりだ。

 またか。
 また、こいつの幸せそうな顔を見ながら落ち込む惨めな日々が戻ってくるのか。

 ……嫌だ。

(頼むから、違うって言ってくれ……!)

「気になるか?」
「は?」

 顔を覗き込まれて、俺は目を瞬く。
 すると貴虎はふふーんと鼻を鳴らして偉そうに言った。

「教えねーよ〜。先にお前のお友達のことを詳しく教えてくれたら教えてやってもいーけどな!」
「な、なんだよそれ。いいよ、別に全然気にならねーし」

 ふんっと顔を逸らし言うと、貴虎は続けた。

「男か女かくらい教えてくれたっていーのによ」
「どっちでもいいだろ、別に」

 ……本当に知らないのだから仕方ない。

「なんだよ~ケチ」
「ケチじゃねーし」
「ケチ怜〜」
「やめろ」

 そんな会話をしながら昇降口を出て、貴虎は言った。

「でも、待ってるからな」
「え?」

 妙に真剣な目をして貴虎は続ける。

「怜が話してくれるの、俺待ってる。イブの話も楽しみにしてるからな!」

 俺はそんな言葉に目を大きくしてからこくりと頷いた。

「……ああ」

 ドードーさんと会えて、この淀んだ気持ちが少しでもスッキリしたら貴虎にも話せるかもしれない。……全部は、無理だとしても。
 
 そんな俺を見て、貴虎は嬉しそうに笑った。


 ――クリスマスイブが、来週に迫っていた。


  ***


 そして、いよいよイブ当日。
 終業式を終え、いつもより早めに帰宅した俺は軽く昼飯を食べてから家を出た。
 ドードーさんと待ち合わせしている駅まで、最寄り駅から一時間ちょっとかかる。
 丁度来ていた快速電車に乗ると、車内はやっぱりいつもよりもカップルが多い気がした。
 空いていた席に座りアプリを開く。

『こちら予定通りに着けそうです』

 すると間もなく返信が来た。

『こっちもです。今電車乗りました』

(一緒の電車だったりしてな)

 そんなことを思っていると、続けてメッセージが入った。

『こちら白のキャップに赤のパーカーです。折角なのでサンタ風コーデでw』

 ふっと笑いそうになってしまった。
 こちらも赤のアイテムを着けてきたからだ。

『こちら赤いチェックのマフラーと白のバッグです。それと俺メガネしてます。また到着したら連絡します』

 いよいよドードーさんと会えるのだ。

(どんな人なんだろう)

 今聞いたコーデからも、やはり同じ男な気がした。
 女の子でも全然構わないが、男の方がやっぱり少し気楽に話せる気がした。

 今のところ、楽しみ7、不安3と言ったところか。
 
 ……貴虎はやっぱり今日予定があるらしく、朝会った時なんだか浮かれているように見えた。
 やっぱり彼女が出来たのだろうか。だとしたら1年半ぶりくらいか。
 あれから貴虎からイブの話は出ないし、怖くてこちらから訊くことなんて出来ない。

 ドードーさんに会えたらそのことも話したいと思っていた。
 きっとこの気持ちを共感してもらえると思うから。

(やっぱり、楽しみだ)

 流れていく外の風景を見ながら、ワクワクとそわそわで胸が落ち着かなかった。



 駅に到着したのは待ち合わせの15分前だった。
 それから待ち合わせスポットになっている時計前に着いたが、そこは想像以上の人込みで焦りを覚える。
 果たしてちゃんと会えるだろうか。お互い顔を知らないのだ。
 到着しましたと連絡を入れると、ドードーさんももう到着しているらしかった。
 
(白のキャップに赤のパーカー……)

 スマホ片手にきょろきょろと辺りを見回す。すると。

(あっ)

 こちらに背を向け、同じように辺りを見回している白いキャップに赤のパーカー姿の人を見つけた。
 きっとあの人に違いない。背格好からしてやっぱり男だ。
 俺はそちらへと駆け寄り、思い切って背後から声を掛けた。

「あの、ドードーさんですか?」
「!」

 その彼がこちらを振り向いて、俺は大きく目を見開いていく。
 相手も同じようにその両目をまん丸にして俺を見つめた。

「……怜?」
「貴、虎……?」

 白のキャップに赤いパーカーを着た貴虎が、俺の首元に視線を落とす。

「赤い、チェックのマフラー……」

 そう小さく呟いた貴虎を見て、俺は全てを察した。
 向こうもそれは同じだったようで。

「えぇーーーー!?」

 お互いを指差し、俺たちは揃ってそんな大声を上げていた。