消しゴムを使いたい君に

 最近、私のコミュ力について判明したことがあった。
 相変わらずカスみたいなコミュ力ってことには変わりない。が、私は一対一の会話ならそこまで問題はないってことが判明した。
 初見の相手は、最初こそは緊張したものの、慣れてきたら普通に会話ができる。勿論、私の家族である沙奈とは支障なく会話ができる。
 ただここで、会話の人数が一人でも増えると私は『空気化』してしまう。
 どうやったらそれを解消できるかなぁ、と黙念している時。
「テスト自信ある?」
 テスト一日目の朝、幸太が話しかけてきた。
「うん」
「ほう? 僕はノー勉だけどね」
「でた。クラスに一人はいる、ノー勉と偽って、本当は裏で勉強してる奴。それで私を油断させようという魂胆なの?」
「違うね。本当なんだ」
 きっと嘘に決まっている。
「昨日、お風呂に入っている間だけノー勉ってことでしたー」
 ほらやっぱり。ノー勉で挑むってことは、それは授業の勉強だけで挑むってこと。そんなの、凄い天才かテストに対して無関心な人のどちらかだ。

 無事、一日目のテストが終わった。『テストを解いた感想について』はあえて幸太に話さなかった。
 家に帰ると、同じく期末考査だった沙奈がいた。余裕そうな顔で勉強していた。邪魔をしないように、あえて声をかけなかった。テストの日の講義は中止にした。
 実は一週間前、旅行の伏線として、沙奈にこんなことを言った。『テストが終わったら、楽しいことがあるかもね』と。『楽しいこと? ……テストが終わって、時間が余るから自分の趣味に没頭できることかな?』という風に、彼女は旅行とは見破れなかった。分かるかもしれない伏線を言って、後で彼女を楽しませたいんだ。

「四日間に渡った期末考査終了ー」
 全てのテストが終わり、心底嬉しそうに幸太は言った。彼のように心は興奮していた。
「そうだねっ。今日は折角だしどこか行く?」
「何か要望は?」
「じゃあ、食べ放題の店行きたいっ」
 そう答えると、彼は悩ましそうな反応をした。
「僕少食だけど」
「少食だから、食べ放題に行ったらダメとか、そんなルールあるの?」
「ないけど」
「や、決定だね」
 放課後、県内の駅直結の百貨店に足を運んだ。県内で一番栄えているここは、私の家から近いため偶に遊びに行く。
 ちょっと歩いたら、目的地に着いた。
 幸い、席は空いていたのですぐに席を案内された。
「コース何にする?」
「どうせ僕はあんまり食べないし、一番安いやつで。二文字目に点を二個加える」
「……んー、折角ここに来たんだよ。どうせならこの、スイーツも食べ放題になるプレミアムコースにしよう」
「それでいいんじゃない? 僕は支払わないし」
 その後、二種の鍋の出汁を決めて、鍋を熱してもらった。具材を注文して、届いた食材を鍋に入れていく。
「何かさっきから乗り気じゃないね」
「だって、この一つの鍋を二人で分けるんだろ。そんなの、絶対あれを狙ったよね?」
「あれって?」
「いやぁ……二人で同じ物を食べるなんて……」
「ふふん。そうかもね」
 そのまま食べ進めていった。やっぱり彼は少食なのか、それとも一緒に同じ物を食べるのが嫌なのか、あまり食べない。
「どうしたの? それじゃあ元取れないよ」
「食べ放題で元取れる訳ない」
 流石にお腹が膨れてきて、かつしゃぶしゃぶは飽きてきたので、スイーツを頼もう。
「そうだ。鍋以外にサイドメニューがあるんだった。それを頼めばいいじゃないか」
 彼はそう呟き、サイドメニューのフライドポテトとかたこ焼きを頼み始めた。
 ……まあいいか。
 私がここに連れてきたのは、彼との仲を深められると思って連れてきた。
 でも、ほんのちょっと仲良くなった気がする。
「わー、スイーツだ」
「スイーツでそんなに驚くなんて……ガキかな?」
「ガキじゃないし」
 彼の相手をしていると、食べ放題の制限時間が減少するので、スイーツのショートケーキを食べる。
「んふふー」
「何その笑みが深まった顔」
「これいる?」
 ショートケーキは二個注文したので、まだ何も手をつけてないショートケーキが余っている。
「仕方ないなぁ」
 渋々ながら彼は食べた。
「これ甘すぎ」
「そう? 丁度いい甘さで、しょっぱかった口がリセットされたけど」
「いやいや……もしかして甘い物好き?」
「うんっ。甘い物、好きっ」
「共感できないなぁ」と彼は苦笑しながらも、ケーキを口へ運んだ。
 結構私は、甘い物が好き。これは沙奈にも共通している。珍しい共通点の一つ。
 食べ終わったら、ぶらぶらとこの百貨店を散策することにした。

 三十分後、私達はとある店で文房具を物色していた。
「筆箱は正直二個ぐらいしか使わないけど、何か集めたくなる。はは、収納ケースを一杯買ったけど、全部は使えないってやつだね」
 筆箱は何かを収納する物。色んなタイプの筆箱があった。
 ペンがガバッと多く入る、ポーチ系の筆箱。一番馴染みがあり、ペン以外にも入れられるから便利。
 他には、ペンを独立して入れられるようなペンケースもあった……。
「そういえば、黒字と赤字の話ってしたっけ?」
「え?」
 彼は赤色と黒色のインクが入った、多機能ペンを持っていた。
 その話はしていないはず。
 彼が話すことになった。耳を傾ける。
「黒字とか赤字っていうのは、ボールペンや万年筆などのインクで書いたものや、シャーペンや鉛筆で書いた物をそう言う。さて、人間が色を使い分けて文字を書くのはなぜか」
 見分けをつけるためだろう。
 例えばノートに板書する時、一色だけだったら見づらい。
「見分けをつけるためだね。赤か黒、どっちが目立つかって言われたら赤。だから赤で書くと、黒で書くより重要な内容ってことが多い。……ってことで、第四回、ミッションを課す」
「何?」
「『シャープ芯をいれる』の意味は何か」
 シャープ芯、かぁ。
 シャーペンを使用するにおいて必需品だが、結構マイナーではある。
 シャープ芯は基本黒色だが、赤色とか青色があった。
 ここでは、シャーペンに入れるとする。
 ちなみに、シャープ芯を欲しい、と幾度か彼に頼んだことがあり、無条件でもらえた。うん、どういう意味だろうか。
 折角来たので、メモ帳を買った。
「そういえばさ」
「うん」
「何でこんな文房具ミッションを企画してくれてるの?」
 忽然彼は立ち止まり、黙った。
 もしかして、訊いてはいけない質問だった?
 でも、どうしてそんなミッションを計画したのか。
 これが分かれば、きっと彼と共感することが多くなる。
 しかし、数分経っても彼は微動もしない。
 意味もなく私は、緑色の紙袋を持っている手を変更した。
「前にも言ったけど、文房具の魅力を見つけてほしいんだ。あと、僕が文房具ミッションを高校二年生までに雪奈が全て達成しないと別れるっていうのは、確実性のためだね」
 やっぱり私は文房具の魅力を見つけていかないとダメなのか。

 その後、彼の家に向かった。夜遅いので、そこまでいられないけれど。
 どうやら、彼が持っているペンを触らせてもらえるんだとか。何気に始めて。
「さてさて、この三本のシャーペンのうちどれを使いたい?」
 見るからに重そうな真鍮製のペンと、変な形をした…………。
 流石に限定色は触らせてくれない。
「……っと、その前にクッションを置くか」
「え?」
 実際に筆記しようとしたら、彼は止めた。
 部屋の隅にあったクッションを、机の下に置いた。
 ……落とした時の被害を軽減するため?
 まあいいや。
「何これ。重いだけじゃん」
 机の上に置いてある三本のペンは、全て重かった。これじゃあ、筆記しにくい。
「へへへ、まだ良さを分かってないようだね」
 革製のペントレーに丁寧にペンを置いて彼に返した。
 数回彼とゲームして、ここをあとにした。

「んで、楽しいことって何?」
 彼女は上半身起き上がった。
 旅行は再来週にある。実はもう大体のプランは完成した。発表するのはちょっと早い。
「さあね。そろそろくると思うよ」
 旅行の日が来るっていう意味。
「来る? え、人が来るってことかな。それとも、何か注文してるってこと?」
「どうだろうね」
 くすくす笑った。
『シャープ芯を入れる』の意味を考えよう。
 シャープ芯を使うというのは、シャーペンに入れるということ。
『いつ』は、シャーペンの芯が無くなった時。
『何のため』は、芯が無くなって使えなくなったシャーペンを、補充するため。そして、復活させる。
 …………。
 だから『シャープ芯を入れる』は、『エネルギーチャージする』という意味。
 ……あれ?
 どうでもいい話だが、シャーペンって芯ケースな気がする。
 別に芯は、芯ケースに保管しなくてもいい。シャーペンでも芯ケースの役割を補える。
 シャーペンは、芯ケースを書けるように改造した最強文房具…………。
 ああ、これ以上はやめておこう。
 うん。芯ケースはコンパクトなのが魅力だから。
 …………。
 その意味で正解した。
 ……あれ?
 幸太にシャープ芯を無料でもらえる理由って何?
 ……まあいいや。
 私は健全だし、偶々だろう。