一体なんだろう、この構図は。
俺の右に父さん、左に母さん。テーブルを挟んで向かいに叶馬。俺から見て左前に叶馬のお母さん、右前にお父さんが座っている。まるで両家顔合わせのような構図に、背中を伝う汗が止まらない。
叶馬が今日から飛燕館でアルバイトをすることになったので、父さんと母さんと一緒に車で迎えに来た。軽く挨拶をするだけの予定が、あれよあれよという間に叶馬のご両親に言われるがままお家に上がらせてもらい、こちらが持参したお菓子を食べながらの談笑が始まってしまった。
「潔貴くん、成績優秀なのにお仕事もしっかり手伝っているなんて、本当にすごいわ~」
「いえいえ、まだまだひよっこで修行中ですのよ。叶馬くんは日頃から鍛錬しているからこそ試合で素晴らしい活躍ができるのでしょうね。この間の決勝、中継を見ていましたが白熱したわ~」
主に話しているのは母二人。父二人はにこやかな顔で相槌を打っている。両親のバランスがそっくりである。俺と叶馬はその間に挟まれて、母たちが余計なことを言うのを諫め続けている。
「それにしても、本当にうちの叶馬がお役に立てるかしら……野球しかやってこなかったから、ご迷惑をおかけしないか心配で」
「いいえ~、叶馬君なら間違いなく大活躍よ! 身体の負担にならない程度の力仕事とか、裏方の仕事もたくさんありますし、できそうなことからやってみてくれたら嬉しいですわ」
「そう言っていただけると……社会勉強にもなると思いますのでありがたいです。叶馬! しっかりお役に立ってくるのよ!」
「はい……」
きっと昨日から何度も言われ続けているのであろう。叶馬が耳に胼胝ができそうだという顔でげんなりしている。俺も同様なので気持ちはよく分かるよ。
「さっとご挨拶だけするつもりだったのにお時間取っていただいてすみませんねぇ。それにしても……こんな風にご挨拶していると、まるで叶馬君をお婿さんに迎えるみたいだわ、ウフフッ」
「母さん!?」
突然の爆弾発言に声が裏返る。頬に熱が集まり、きっとこれ以上なく赤面してしまっている。叶馬のご両親に謝ろうと向き直った俺より先に、叶馬のお母さんが口を開く。
「あらぁッ! うふふ、言われてみれば確かに! もしも潔貴君みたいなしっかりした子が叶馬の伴侶になってくれるなら、私もとっても嬉しいわぁ……」
「マジで……ほんとに、一旦黙って」
叶馬のお母さんの言葉で、俺と叶馬は揃って掌で顔を覆うことになった。母という生き物はどうしてこう……もう何も言うまい。
そのまま和やかな雰囲気で挨拶を終えられたので、一応良しとすることにした。
父さんと母さんは車の準備をして、俺は叶馬の荷物を一緒に運ぼうと玄関で待つ。叶馬がボストンバッグと一緒に持ってきたのは昨夜電話で話していた枕と……大きな水色をしたイルカのぬいぐるみだった。
「……抱き枕って」
「コイツ」
「……可愛いね」
「だろ?」
イルカじゃなくて君が可愛いんだよと喉までせり上がるが、何とか飲み込む。
叶馬のお母さんはそんな俺に気付いたのか、「これがないと寝られないらしくてねぇ、部活の合宿じゃ事前に宅配で送ってたのよ」と微笑みながら教えてくれる。えぇ、可愛い。
「じゃあ行ってくる」
「ちゃんと皆さんの言うことを聞くのよ」
「頑張れなぁ」
「うん」
のんびりとした雰囲気のご両親のもとでこんな屈強な高校球児が育ったのは意外だが、見た目に反しておっとりしている性格はご両親譲りなのかもしれない。
「潔貴君、勉強も教えてくれるって聞いたけれど、自分の勉強を優先してね」
「はは、分かりました」
ここは素直に返事をしておかないと叶馬のお母さんが食い下がりそうだと思ったので頷いておく。
俺は叶馬のイルカを持って車へ向かう。すべての荷物を車のトランクへ収納し、二人で後部座席に乗り込む。
「よろしくお願いします」
「はいよ~」
叶馬のご両親に窓から手を振りながら、父さんの運転で飛燕館へ向かった。
