グラウンドでトレーニングに勤しむ部員たちのかけ声が青空に昇る。地元と種類の違う暑さにはまだ慣れない。
水分補給のため、大きなジャグにスポドリを用意したが果たして練習の間になくなってしまわないだろうか。そんな懸念を抱いてしまったのですでに追加でもうひとつ用意しているのだけれど。
「紺野。次の対戦相手の分析はどうだ」
「終わっています」
「仕事が早いなあ」
「監督ぅ、紺野君を酷使しないでくださいよぉ? 紺野君も! 無理しちゃだめだからね!」
「あはは、ありがとうございます」
ベンチでタブレットを操作する俺の両隣に監督と3年生の先輩マネージャーが座る。2人に次の対戦相手のピッチャーについて伝えていると、トレーニングに一区切りついた部員たちが水分補給のためにベンチへ戻ってくる。
部員の汗と体温で熱気が押し寄せる。やはりジャグは2つにしておいて正解だった。
「潔貴! ちゃんと水分摂ってるか」
「摂ってるよ。叶馬こそ俺のことはいいからちゃんと飲めよ」
休憩になると一目散に俺のところへやってくる叶馬は、部員から「忠犬」とあだ名をつけられている。そんなこと全く意に介さず、叶馬はのびのびと大学生活を送っているが。
「あ、そういえば今日、父さんから魚届くよ」
「マジ! 刺し? 焼き?」
「焼きが美味しいって言ってた」
「あぁ~嬉しい! 練習頑張れる!」
「ははっ、頑張ってこい」
叶馬にあるはずのない尻尾が揺れている。うきうきと練習へ戻って行くと、肩慣らしのためにキャッチボールが始まった。
「紺野君と柳瀬君って一緒に住んでて喧嘩とかしないの?」
「え、あぁ……今のところしたことないですね」
「へえ、仲良いね」
「まぁ、まだ半年そこそこですから」
ふと思い出す。
叶馬と同じ大学へ進学が決まり、親に報告したら「一緒に住んだら家賃が浮くわね」「お互い安心だわ」とトントン拍子にルームシェアをすることになったこと。そしてそれならば筋を通さなければと、叶馬がスーツを着て「潔貴さんと真剣にお付き合いさせていただいています」と飛燕館へ挨拶をしに来たこと。
今思い出せば笑い話だが、当時は恥ずかしくて大騒ぎだった。
そして春から同じ大学へ通い始めた。叶馬はスポーツ科学学科、俺は経営学科。俺は野球部のマネージャーになった。
システム系も学ぶことができるので、勉強がてら野球にまつわる分析システムを作ってみるなどして楽しく過ごしている。テスト前には叶馬に勉強を教える役目も継続中である。
この日々は俺と叶馬のひとつひとつの選択の結果で、支えてくれる人たちのおかげで成り立っている。その温かい支えに感謝しながら、叶馬と一緒に「誰かに幸せを届けられる」人になれるよう頑張っている。
――――グラウンドの向こうの空は、ずいぶんきれいな晴天だ。デルフィニウムの青にも負けないくらいに。
