君だけが知ってる、私


「…ねぇ!!起きてっ!起きてってば!!」

私の朝は、唐突に始まる。

とても愛の籠った乱暴な枕投げで、目を覚ます。

「んんん…おはよ、紅愛(くれあ)。」

「おはよ!おねーちゃん、遅刻するよ?」

「わお。もう、そんな時間??」

「そんな時間!!のんびりしてないで準備してよー!!」

私の名前は花橋(はなはし)紫愛(しあ)

何処にでもいる、普通の女子高校生。

と、言いたいところだけど。

生まれた時から眉目秀麗だったのもあり、中高生向けの雑誌でモデルをしている。

お母さんは元モデル、お父さんは俳優の芸能人一家に生まれた私は、ずっと“芸能人の娘”として扱われてきた。

そんな私が心を許している人は少ない。

家族と、親友と…あの人だけ。

あの人の名前をそっと心でなぞって、朝の支度を始める。

顔を洗って、着替えて、髪を梳かして整えて、カラコンを入れて、メイクをする。

「今日も可愛いっ」

鏡に向かってつぶやいたら、“shia”の出来上がり。

朝ごはんのおにぎりに齧り付くと、足早に玄関に向かう。

「「行ってきまーす!!」」

家を出る時は家族と一緒に出る。

これが、我が家のルール。

家族仲を保つためでもあるし、何処にでもいる週刊誌の記者から身を守るためでもある。

特に、紅愛はもうすぐ大手アイドル事務所のサバイバル番組に出演することが決まっている。

今スキャンダルを抜かれてしまうと、全てが台無しになってしまう。

このルールは、馬鹿なことをしないようにお互いを見守るのにも役立っているのだ。

可愛いからなんとなくモデルになった私と違って、紅愛はとてもアイドルが好きだ。

小さい頃からよく、アイドルごっこをしていたし、小学校に入ってからはボーカルスクールとダンススクールに足繁よく通っていた。

そんな、妹の夢を応援してあげたい。

…そう、思っていたのに。

「…ごめんね。」

「ん??お姉ちゃん、なんか言った?」

「ううん、なんでもない。それより、課題曲の調子はどう??」

「あっそれがさぁ、表情管理がうまくいかなくて。ここは、モデルのお姉様に助けて頂くしかないですねぇ。」

「もう、しょうがないなぁ。学校終わったら手伝ってあげる。」

「やったぁ!お姉ちゃん、大好き!!」

「こんな時だけ調子いいんだから。」

危ない危ない。

口は災いの元。

発言には気をつけないと。

今日も一日、私じゃない私の生活が始まる。