高位召喚魔法《円環回廊》により、空間を越えて密かに招かれた“円卓の間”。
その場に集ったのは、世界五大王国の王たち、そして——一人の魔王だった。
表向きは敵。
だが、彼らの視線の奥にあるのは、世界を動かす“同じ歯車”としての計算された覚悟。
「戦争の継続、可能か?」
第一王国・ルダニアの王が問う。声は重く、抑えられた緊張が滲む。
「問題ない。我が軍の損耗率は予定通りだ。むしろ、英雄志願者が増えている」
魔王は静かに答え、その目には怒りも狂気もない。ただ“仕事”として戦争を演じているだけだった。
胸中では——
《また一つ、民衆の恐怖を演出する日々が続く》
肩の力が抜けず、手のひらにじんわりと汗。単純な感情すら、砂のように指の間から零れ落ちる。
「来月の武器供給は倍増、軍需回転も維持。錬連(武具錬金連合)からも正式にゴーサインが出た」
「我々と魔族は表では戦っている。だが、裏では互いに支え合っている」
ヴェルテ王が手元の書類を広げる。
「鉱石供給の75%は魔界精錬炉経由。薬草流通の40%、再生魔術士の派遣も、魔族の協力なしには回らない」
「……共依存か」
第二王国の王の呟きは、皮肉を帯びつつも、戦略家としての計算を含んでいた。
《もし戦争を終わらせれば、街角の鍛冶屋の炉も止まり、魔界の精錬炉も静まる。失業者の波は人間だけでなく、魔族の交易商までも飲み込む——やはり、この戦争は終わらせられない》
第三王国・ヴェルテの王が分厚い報告書を置く。
「兵の不満は魔族との対立で吸収できている——だが、一つ懸念がある」
「……例の‘勇者’か」
第四王国の王が苦い顔をする。
「勇者の名前は‘ミャウコ’。予定されていた勇者候補ではない。突然現れ、レベル1のまま前線を突破している」
「民衆の間では‘猫勇者の歌’が流行り、魔王の恐怖が笑いものに——兵の志願率低下、演目に綻びが生じている」
ヴェルテ王は眉をひそめる。魔王も、つぶやく。
「部下すら、彼女を笑う……」
円卓の空気が一瞬凍る。誰もが理解する。
《もしこのノイズを放置すれば、計画は瓦解する》
魔王のまぶたがかすかに動く。
「……あの‘グラビア系勇者’か」
「そうだ。民衆の想像力を軽々と越えてくる。 現実離れしすぎて、計画に支障をきたしかねない」
「雌豹ポーズ一つで我が軍の五部隊が沈黙した報告もある」
第二王国の王は、眉を寄せた。
《演目としての戦争を、逸脱されている……兵士の間に笑みが広がり、民衆は歌を口ずさ む。計算の範囲外だ》
魔王は円卓の中心で拳を軽く握る。内心では、戦争の象徴である自分が、ただの道具に過ぎないことを痛感していた。
「これまで、魔王は象徴だった——倒されるために存在する役割」
「悪があれば、正義を示せる。恐怖があれば、国民は従順になる。君もその象徴として選ばれた」
魔王は皮肉交じりに笑った。
「分かっている。演じてきたさ……だが、あの少女、ミャウコは違う」
その声に、わずかな恐れが滲む。
《彼女は計画の外からやってきた。壊すために——》
そして、魔王は円卓の奥を見つめる。
「……だが、本当に我々の脚本を書いているのは、ここに座る者たちだけか?」
全員が一瞬、沈黙する。
第四王国の王が低めの声で尋ねた。
「——“上”がいるのか?」
魔王は視線を落としたまま答える。
「時折、黒き影が現れる。人間でも魔族でもない、ただ“情報”を運ぶ存在——」
「……‘シャドウ’か」
第一王国の王がつぶやく。声に微かな震え——噂だけの存在だが、胸の奥に冷たい警告が走る。
あらゆる国家の諜報機関の上に立ち、戦争の設計や政変の操作を担う——正体不明の極秘組織。
CODE: ZEROの内部に存在する極秘部門、通称 “原初の観測者(オブザーバー・ゼロ)”。
誰もその全貌を知らず、会議記録にすら名前は意図的に空欄で残されている——。
円卓の空気は一変した。
「‘神託戦争’まで彼女に手を出すな。完全なノイズだ。今は動くべきではない」
第一王国の王が慎重に告げ、全員が同じ言葉を胸に沈黙した。
──世界は予定通りに回ってきた。
──魔王も勇者も、舞台装置。
──だが、ミャウコは違う。
会議が終わると、空間魔法により円卓は解散され、王たちは元の世界へ戻る。
ただ一人、魔王だけが残る。
——ピピ……カッ……
空中に歪みが生じ、ホログラムが浮かぶ。フードを被った影の背中。
「計画の逸脱は、想定内です。‘彼女’が完全に干渉した際は、“次の段階”へ」
魔王は問いかける。
「……我々は、何を演じさせられている?」
「答えを知る必要はありません」
ノイズが走り、映像は途切れる。
円卓の間には、魔王と“影”だけが残った。
「神託戦争……まもなくだ」
“影”の男がゆっくり口を開く。黒いマントの下、その瞳は人間のものではなかった。
「ゼノスの意志は、絶対のシナリオとして働く。だが、我々は知っている。そして、介入する力を持つ」
魔王は目を細めた。
「……また封じられるぞ、“あの時”のように」
「それでも良い。必要なのは、道標の破壊だ」
第一王国の王が続く。
「ゼノスの道筋を歩む我々だが、次の分岐点でそれを切断する。勇者ミャウコは誤差か、鍵か……」
闇の中で、火が静かに灯る——魔王の瞳に映るそれは、神の筋書きに対する“反逆の火種”。 胸の奥に微かな熱が、冷徹な計算を侵食していった。
その場に集ったのは、世界五大王国の王たち、そして——一人の魔王だった。
表向きは敵。
だが、彼らの視線の奥にあるのは、世界を動かす“同じ歯車”としての計算された覚悟。
「戦争の継続、可能か?」
第一王国・ルダニアの王が問う。声は重く、抑えられた緊張が滲む。
「問題ない。我が軍の損耗率は予定通りだ。むしろ、英雄志願者が増えている」
魔王は静かに答え、その目には怒りも狂気もない。ただ“仕事”として戦争を演じているだけだった。
胸中では——
《また一つ、民衆の恐怖を演出する日々が続く》
肩の力が抜けず、手のひらにじんわりと汗。単純な感情すら、砂のように指の間から零れ落ちる。
「来月の武器供給は倍増、軍需回転も維持。錬連(武具錬金連合)からも正式にゴーサインが出た」
「我々と魔族は表では戦っている。だが、裏では互いに支え合っている」
ヴェルテ王が手元の書類を広げる。
「鉱石供給の75%は魔界精錬炉経由。薬草流通の40%、再生魔術士の派遣も、魔族の協力なしには回らない」
「……共依存か」
第二王国の王の呟きは、皮肉を帯びつつも、戦略家としての計算を含んでいた。
《もし戦争を終わらせれば、街角の鍛冶屋の炉も止まり、魔界の精錬炉も静まる。失業者の波は人間だけでなく、魔族の交易商までも飲み込む——やはり、この戦争は終わらせられない》
第三王国・ヴェルテの王が分厚い報告書を置く。
「兵の不満は魔族との対立で吸収できている——だが、一つ懸念がある」
「……例の‘勇者’か」
第四王国の王が苦い顔をする。
「勇者の名前は‘ミャウコ’。予定されていた勇者候補ではない。突然現れ、レベル1のまま前線を突破している」
「民衆の間では‘猫勇者の歌’が流行り、魔王の恐怖が笑いものに——兵の志願率低下、演目に綻びが生じている」
ヴェルテ王は眉をひそめる。魔王も、つぶやく。
「部下すら、彼女を笑う……」
円卓の空気が一瞬凍る。誰もが理解する。
《もしこのノイズを放置すれば、計画は瓦解する》
魔王のまぶたがかすかに動く。
「……あの‘グラビア系勇者’か」
「そうだ。民衆の想像力を軽々と越えてくる。 現実離れしすぎて、計画に支障をきたしかねない」
「雌豹ポーズ一つで我が軍の五部隊が沈黙した報告もある」
第二王国の王は、眉を寄せた。
《演目としての戦争を、逸脱されている……兵士の間に笑みが広がり、民衆は歌を口ずさ む。計算の範囲外だ》
魔王は円卓の中心で拳を軽く握る。内心では、戦争の象徴である自分が、ただの道具に過ぎないことを痛感していた。
「これまで、魔王は象徴だった——倒されるために存在する役割」
「悪があれば、正義を示せる。恐怖があれば、国民は従順になる。君もその象徴として選ばれた」
魔王は皮肉交じりに笑った。
「分かっている。演じてきたさ……だが、あの少女、ミャウコは違う」
その声に、わずかな恐れが滲む。
《彼女は計画の外からやってきた。壊すために——》
そして、魔王は円卓の奥を見つめる。
「……だが、本当に我々の脚本を書いているのは、ここに座る者たちだけか?」
全員が一瞬、沈黙する。
第四王国の王が低めの声で尋ねた。
「——“上”がいるのか?」
魔王は視線を落としたまま答える。
「時折、黒き影が現れる。人間でも魔族でもない、ただ“情報”を運ぶ存在——」
「……‘シャドウ’か」
第一王国の王がつぶやく。声に微かな震え——噂だけの存在だが、胸の奥に冷たい警告が走る。
あらゆる国家の諜報機関の上に立ち、戦争の設計や政変の操作を担う——正体不明の極秘組織。
CODE: ZEROの内部に存在する極秘部門、通称 “原初の観測者(オブザーバー・ゼロ)”。
誰もその全貌を知らず、会議記録にすら名前は意図的に空欄で残されている——。
円卓の空気は一変した。
「‘神託戦争’まで彼女に手を出すな。完全なノイズだ。今は動くべきではない」
第一王国の王が慎重に告げ、全員が同じ言葉を胸に沈黙した。
──世界は予定通りに回ってきた。
──魔王も勇者も、舞台装置。
──だが、ミャウコは違う。
会議が終わると、空間魔法により円卓は解散され、王たちは元の世界へ戻る。
ただ一人、魔王だけが残る。
——ピピ……カッ……
空中に歪みが生じ、ホログラムが浮かぶ。フードを被った影の背中。
「計画の逸脱は、想定内です。‘彼女’が完全に干渉した際は、“次の段階”へ」
魔王は問いかける。
「……我々は、何を演じさせられている?」
「答えを知る必要はありません」
ノイズが走り、映像は途切れる。
円卓の間には、魔王と“影”だけが残った。
「神託戦争……まもなくだ」
“影”の男がゆっくり口を開く。黒いマントの下、その瞳は人間のものではなかった。
「ゼノスの意志は、絶対のシナリオとして働く。だが、我々は知っている。そして、介入する力を持つ」
魔王は目を細めた。
「……また封じられるぞ、“あの時”のように」
「それでも良い。必要なのは、道標の破壊だ」
第一王国の王が続く。
「ゼノスの道筋を歩む我々だが、次の分岐点でそれを切断する。勇者ミャウコは誤差か、鍵か……」
闇の中で、火が静かに灯る——魔王の瞳に映るそれは、神の筋書きに対する“反逆の火種”。 胸の奥に微かな熱が、冷徹な計算を侵食していった。
