明日はお休みをいただきます

 ——それから数日経って、ちょっとは涙もおさまってきた僕は、学校に復帰した。けれど、朝のホーム・ルームに、担任の菅井先生は姿を表さなかった。

 どういうことだ? と訝しげに思っていると、ヒソヒソと教室内から声が聞こえてきた。

 菅井先生、怪我したんだってね
  え、どういうこと?
   おまえ、まだ知らなかったのか?
   (いいか、よく聞けよ! 菅井先生はやられたんだ。)
  へえ。『やられた。』って。私今まで、事故かと思ってた。
  ああ、実を言うと、俺もそう思っていたんだが……
 
 どうやら、昨日の放課後、男子Aが校舎内で影を目撃した。それが、印図組(いんずぐみ)の奴らだったらしい。印図組と言うのは、この学校の斜向かいに、立派な校舎を建てている公立L高のヤンキー集団のことである。同じ地区の、それも公立校同士で、偏差値は異なるものだ。
 この中学校には何人かの天才がいて、高校レベルの問題も易々と解いてしまうのだが、彼らとL高の”秀才”が対決すると、なんと、いい試合だったそうなのだ。
 これに腹を立てた印図組が、俺たちのクラスの教師を、暴行した——そういうわけだ。
 菅井先生は、和也の従兄弟だった。
 なんだか、この2つのけがが、どちらも俺のせいのような気がして、また泣きたくなる。

 おまけに、こんな高校・中学校が、この辺りには後4つもある。人気(ひとけ)の少なく、閑散としている住宅街と、昔ながらの大通りが共存するレトロな街。
 ……そこに、お騒がせな共学校や男子校が多いわけだから、俺はひっそりとこの街のことを「校捨町(こうしゃまち)」と呼んでいる。
 そして、新情報を聞いた。男子Aの今にも泣きそうな声だった。

「仲見世通りを抜けた、中央歩道橋で、それで、菅井先生は——。」

 男子Aを数人の男子が宥めている。女子も慌ててその輪に加わった。俺はどうすることもできなくて、ただ呆然と突っ立っている。ただ、握り拳だけはしっかりと固めておいた。

 今、何をすれば、和也は、悔いを残さず死後の世界にゆけるのだろうか。
 民話や怪談のように、和也がよみがえることを、願ってはいるけれど難しいと知っている。
 だったら、せめて、俺は俺なりに、和也のために努力したい。